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認知症

利用者の困難な要求や不信感への対応と、認知症を受け入れられない家族に介護職員はどう対応すべきかを考える

介護施設において、職員の人数は決して多いとは言えません。
よって職員が利用者さん一人ひとりに対してかけられる時間は限られているのが現状です。
そこで今回は、利用者さんから出される実現困難な要求や、家族の理解が得られないとき、介護職員はどう対応すべきか3つの場面から考えていきます。

できないときは、代わりの案を「ポジティブ」に伝える

利用者さんのなかには、特定の介護職員には実現が難しい要求をされる方がいます。
たとえば、介護職員がほかの業務を行わなくてはいけない中、「こちらに座って、私の話し相手になってほしい」と依頼されたとします。
このとき、ボランティアの方など自分以外の人が対応する、いわば代わりの案を提案することが解決策となります。
しかしそれを利用者さんへ伝える際に注意したいのが、「ネガティブな理由で代わりの案を提案しない」ということです。
たとえば、
「自分には時間がなくて相手ができないので、代わりにほかの方でも良いですか?」
という伝え方では、自分に時間がない、というネガティブな理由を伝えてしまっています。
この理由だと
「私よりも業務が大切なのか?」
と利用者さんに不快な思いを持たれてしまう恐れがあります。
よって、代わりの案を伝える際には、まず
「話し相手に自分を指名していただき、ありがとうございます」
と、信頼してくれていることに対して感謝の気持ちを伝えます。
そして次に、
「この方ならばより長い時間〇〇さんのお話しを聞くことができます。〇〇さんもより多くお話しすることができると思うのですが、いかがでしょうか?」
と伝えることで、自分以外の方と話すほうが、利用者さん自身にとってもメリットがある、というポジティブな理由にすることができます。
ポジティブな理由を告げられることで、利用者さん側の
「私のいうことを聞けないの?」
という不満を、
「私のために考えてくれている」
という好感へと印象を変えることができます。
代替案を伝えるときは、ぜひネガティブな理由ではなく、ポジティブな理由にして伝えることを、意識してみましょう。

不信感を持たれるということは、日頃のコミュニケーションが取れていないということ

家族が来園の度に職員に対して
「うちの家族をぞんざいに扱っていないでしょうね」
と疑われるので、あまりいい印象を持てない。
こんな経験をしたことはありませんか?
介護施設での虐待行為が問題となる中、家族を守るため、家族は職員の表情や言動などを厳しくチェックしています。
こういったときこそ大切にしたいのが、日頃のコミュニケーションです。
家族と会ったときには職員側から笑顔で挨拶するとともに
「なにか不安な点はございませんか?どんなことでも結構ですので、お申し付けくださいね」
と声を掛けます。
そして、利用者さんに起こったことは良いことも悪いことも、必ず報告するようにします。
たとえば、ベッドから起きる際にふらつきがあり、職員が対応することで転倒を回避したことがあったとします。
このとき、転倒していないからと報告しないのではなく、家族が来園された際に職員側から
「先日、立ち上がりのときにふらつきが見られました。転倒の可能性が高くなっているので、ベッドから降りる際は必ず職員を呼んでいただくよう、お話ししています」
というように、状況をその都度細かく報告することで、家族から
「ここの施設はどんなことも隠さずに報告してくれるところだ」
という信頼を得ることができます。
信頼関係は、すぐには形成されません。
だからこそ、日頃からのコミュニケーションがなにより重要となるのです。

認知症を受け入れられない家族は「4つのステップ」に当てはめた上で対応を検討する

認知症は、一度発症すると治るということはまずありません。
しかし家族のなかには利用者さんが認知症であるということを受け入れることができず、職員側の対応が悪いから症状が起きているのだと批判される方がいます。
ではどうすれば、家族が認知症だということを受け入れてもらえるのでしょうか。
ここでは、介護職員として知っておきたい、杉山が提唱している「4つのステップ」をご紹介します。

1)戸惑い・否定

認知症であることに戸惑うとともに、「認知症になったとは思いたくない」と、認知症であることを否定しようとします。

2)混乱・怒り・拒絶

さまざまな症状に対し、認知症なのかと混乱するとともに、改善の余地が見られないことに対して、怒りが湧いてきます。
そして、介護しても結果が伴わないことに対して疲労困憊(こんぱい)となり、最終的に存在そのものを拒絶するようになります。

3)割り切り、または諦め

2の時期を過ごす中で、少しずつ「このまま受け入れなければならないんだ」と割り切り、または諦めの境地に至ります。

4)受容

認知症という病気に対する理解が深まり、認知症である家族を家族の一員として受け入れることができるようになります。

認知症は、それまでの家族の役割を一変させてしまいます。
杉山は、受容に至った状態を、「人間的に成長を遂げた状態といってもよいでしょう」と記しています。
家族として一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、3、4へ移行するまでに多くの葛藤が生まれるということは、容易に想像できることです。
よって介護職員として、家族が今どのステップに位置しているのかを分析した上で、家族が受容できるようにするためには、どういった関わり方がよいかを職員全体で考えることが大切です。

まとめ

人手不足による業務量の多さから、利用者さんやその家族の理解が得られないとき、つい「どうしてこちら側の都合を考えてくれないのか」と思ってしまいがちです。
しかし、そういった状況だからこそ、なぜ利用者さんや家族から理解が得られないのかについて考えることが大事です。
それが、利用者さんやその家族に寄り添った介護につながるのではないでしょうか。

参考:
伊藤亜記:専門職のお悩み解決!相談室 第3回:医療と介護Next:メディカ出版:2015年1巻3号
伊藤亜記:専門職のお悩み解決!相談室 最終回:医療と介護Next:メディカ出版:2016年2巻6号
杉山孝博:認知症を理解し受容して家族は変わる:医療と介護Next:メディカ出版:2017年3巻3号

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