最期まで口から食事を摂ってもらうために、ベテラン介護職が気にかけている5つの視点を解説!
自分の口から食べ物を摂取する、つまり自分の口で食べるという行為は最期まで続けたいものです。
しかし、高齢になるとケアが必要を必要とし、最終的には違う方法で栄養を摂るケースも存在します。
介護側のケアにより、できる限り口から食事を摂ってもらうこともできます。今回は最期まで口から食べてもらうために、ベテラン介護職が常に気にかけている5つの視点を解説します。
栄養摂取だけじゃない、口から食べる事の意義とは?
口から食べることは、栄養摂取だけでは留まらない、生活の楽しみや人とのつながりにも関わる行為です。
口から食べることができなくなれば、鼻から管を胃まで挿入する経管栄養や胃に直接穴を開けて管を入れる胃瘻などがあります。
それでも栄養・水分が足りなければ、鎖骨に高カロリーの点滴を入れる(中心静脈栄養)などがあります。
終末期では難しいですが、最後まで口で食べて人生を終えたい、と思う方は多いものです。
私たちは入居者さんに安心して、食事を口から食べて頂くためのケアができるのでしょうか?
「食べる」という行為はどういった流れなのか?をわかりやすく分解し、その上で食事を安心して摂取してもらうように気をつけたい、5つの視点を解説していきます。
「食べる」という行為には3つのステップが存在
食事を口から食べるには、歯や義歯などの口の環境だけでなく(もちろん義歯などの口の環境もとても大切ですが)、「食べる機能」、すなわち
- ●「噛んで(咀嚼)」
- ●「食道から胃に送って」
- ●「飲み込む」
という3つの機能が必要になります。
このうち1つでもできなくなれば、口から食べることは難しく、そして危険性も高まります。
摂食嚥下障害をもつ入居者さんたちは脳血管疾患や、認知症、更にはALS(筋萎縮性側索硬化症)、パーキンソン病のような中枢神経の疾患を抱えていることもあります。
健常者の方と同じように食べることができるとは限りません。ここは、注意が必要なところです。
誤嚥性肺炎を予防するためにも、刻み食、トロミ食、ミキサー食など、慎重に選択することがとても大切になってきます。
通常の食事形態では嚥下が難しくなるので、これらの措置が必要になります。
しかし、ただ機械的にミキサー食を流し込むことは果たして、入居者の方々のためになるのでしょうか?
口から食べることは単なる栄養摂取ではありません。入居者の方の生活そのものであり、楽しみでもあるのです。
そこで、少しでも良い状態で食事を楽しんでもらうために「5つの視点」を持つことが重要になります。
食事のケアの際に留意したい5つの視点
- 1)全身状態の確認
- 2)口腔環境を整える
- 3)摂食嚥下機能の把握
- 4)食事姿勢を整える
- 5)食事形態の調整
1)全身状態の確認
「食べる」行為は、栄養を摂り、健康な身体を作り、維持するための大切なことです。
またそれと同じくらい、人と交流しつつ楽しいひとときを過ごす食事の時間は、「心の栄養」としても重要です。
そのため、心身両面から入居者の方の「食べることができるかどうか」、「食べることでどのような影響があるのか」を考えていくことが、介護職としてはとても大切です。
また、入居者の身体の力と便通の把握はとても大切です。食事をするのにも体力を使います。
一定時間同じ姿勢を保つための介助、食事介助の必要ですが、更に大切なことは排便の確認です。排便と食事と密接な関係があります。
食べ物の通り道が開通しているかどうかで食事に大きな影響を与えます。便秘は腸に便が詰まった状態ですが、その際は栄養士などと相談し繊維質の多い食事を用意する必要があります。
なにより自然排便が理想ですが、便秘により食欲低下あれば看護職員に報告し、下剤や浣腸の検討も必要になってきます。
2)口腔環境を整える
口の中が「食べることのできる状態」になっているのか確認してください。厚い舌の苔、食物残渣などは特に要確認です。
高齢者の口腔環境は以下のような特徴があり、悪化しやすいこともあります。
- ●口のまわりの筋力が低下し、唾液の分泌量が減少し自浄作用が低下する。
- ●柔らかい物を食べることが多く、咀嚼回数が減る。
- ●身体の免疫力が低下する
- ●疾病の影響で口腔内の感覚や飲み込む(嚥下)力が弱くなる。
口腔ケアの目的は、下記のようなものがあります。
●誤嚥性肺炎を予防する
歯・義歯、粘膜の清掃。うがいで口の機能を維持します。粘膜の刺激で口腔内の感覚を高める効果もあります。
●口からおいしく食べ続ける
口腔体操、口腔周辺マッサージ、嚥下リハビリなどが有効です。言語聴覚士(ST:スピーチセラピスト)や歯科衛生士の指導を受け、実施するとより効果的です。
施設にSTや歯科衛生士が配置されていない場合、外部の歯科衛生士から講習を受けてください。
その機会がない場合は、「口腔体操」でネット検索すれば動画がヒットします。しかし、情報源が不正確な場合やよく把握できない場合がるので、あくまでも参考の一助にとどめておきます。
●コミュニケーションを図る
覚醒を促す効果があります。覚醒が弱い時に食事摂取することは誤嚥性肺炎のリスクが非常に高いので、避けなければなりません。
3)摂食嚥下機能の把握と改善
食べ物を食べるには、口の中でしっかり、噛んで(咀嚼)、まとめられた塊(食物)を喉に送り込み、飲み込む。
このプロセスのどれかが阻害されると、口から食べることが難しくなってきますので、日々の様子を注意深く観察してください。
むせこみや噛む時間が長くなると危険のサインです。見落とさないことが重要です。
4)食事姿勢を整える
自力や食事介助を受けて摂取する場合も、誤嚥せずに安全に食べることができるよう配慮が必要です。そのためにも姿勢を整えることがとても大切です。
長時間座っていると体が傾いてしまうこともあります。肘付きの椅子や座布団、枕などを傾くほうに入れ込み、まっすぐに姿勢を正す必要があります。
姿勢だけでなく環境の整備も重要です。肘掛けがテーブルにぶつかり食べ物が取りづらい、テーブルの方が上になって食物を取りづらいなど、食事環境の不備は直しましょう。
5)食事形態の調整
嚥下機能は加齢とともに低下してきます。噛む、送る、飲み込む、の一連の動作ができなくなれば食事形態を検討する必要があります。
ミキサー食やトロミ食、刻み食などを検討します。
食事形態だけでなく、自力摂取してもらうか、介護職が介助するか、も検討する必要があります。残存能力は活かすべきであり、嚥下の機能が低下したといえど、腕や手などの筋力が維持されているなら食事環境を整え摂取してもらうことも大切でしょう。
それができない場合に初めて、食事介助となってくるのです。
他職種連携が食事環境を改善する
食事を自ら摂取することはとても大切であり、その人の生活環境をよりよいものとしてくれます。
亡くなる前日まで口から物を食べたいという気持ちは誰もが持ち続けるでしょう。
入居者さんができるだけ口から食事ができるよう、介護職は栄養士、ST、歯科衛生士などを連携してください。施設内にいない場合は、是非紹介してもらいましょう。
食べることができるのに、少しむせ込んだだけで危険と判断する施設も散見されているのも事実であります。
介護職のアセスメント能力とコミュニケーション能力の向上を図っていきましょう。