脳卒中の初期症状を見逃さない!ACT FASTで3つのポイントをチェック
脳卒中治療は時間との勝負であり、初期対応が予後を左右します。
もし脳卒中を疑ったら、すぐに3つのポイント(顔・腕・言葉)をチェックしましょう。
専門的な知識がなくても、脳卒中の初期症状をキャッチできる簡単なテスト「ACT FAST」をご紹介します。
目次
顔・腕・言葉 ひとつでも異常があればすぐ受診
National Stroke Association(米国脳卒中協会)は、脳卒中を疑ったら3つのテストを行うよう勧めており、ACT FAST(アクト ファスト)はそのスローガンとなっています。
F・A・S・Tは3つのテストであるFace(顔)、Arm(腕)、Speech(言葉)と、Time(時間)の頭文字を組み合わせて作られたもので、ACT(行動)とあわせ、いち早く行動するよう呼びかけるものです。
●脳卒中の判断は医療従事者でなければ難しい?
確かに、意識レベルの判定や神経所見を詳しくみることは、医療従事者でなければ難しいかもしれません。
しかし、脳卒中の初期症状にはいくつかの「みるべきポイント」があります。
それを簡単なテストにしたものがACT FASTです。
もともと一般の方が脳卒中を早期発見できるように作られたテストなので、難しいことはなにもありません。
簡単なうえ、脳卒中のスクリーニングとして感度の高いテストですから、ぜひ覚えてください。
ACT FAST(急いで行動せよ!)
Face(顔) | ●テスト方法 口をイーッとしてもらう、または歯を見せて笑ってもらう。 |
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●症状 片方しか動かないときは異常が起きている。 |
Arm(腕) | ●テスト方法 手のひらを上にして両腕を水平にあげてキープしてもらう。 |
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●症状 片腕だけ下がってくるときは異常が起きている。 |
Speech(言葉) | ●テスト方法 話してもらう |
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●症状 話せない、ろれつが回らない、言葉を理解できないときは異常が起きている。 |
Time(時間) | ●発症時刻の確認 ※「急いで!」の意味もある。 |
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3つのテストのうち、1つでも異常があれば脳卒中が疑われますので、すぐに救急車を呼びましょう。
介護職員こそ、脳卒中の初期対応を知っておくべき理由
介護に携わる方は、医療従事者と同様に脳卒中の初期対応を知るべきです。
なぜなら「脳卒中は高齢者に多く起こる病気」だからです。
●圧倒的に多い、高齢者の脳梗塞発症
脳卒中データバンクによると、脳卒中の発症年齢は中央値※で脳梗塞72歳、脳出血66歳となっており、加齢に伴って発症率は上昇します。
(※中央値とはデータを小さい順に並べたとき、ちょうどまん中に位置する値のこと)
また、発症の割合をみると、発症年齢がより高い脳梗塞が全体の4分の3を占めています。
このことから、脳梗塞が高齢者にとって重要な病気であるとともに、介護施設の利用者さん全員が「発症しやすい世代」であることがわかります。
また、利用者さんのなかには脳卒中を発症したことによって、要介護状態になった方も多いです。
高血圧や動脈硬化、糖尿病といった生活習慣病が、脳卒中発症を高めるリスクであることは周知の事実です。
脳卒中の既往がある方は、このような基礎疾患があることも多く、それにより再発のリスクも高くなります。
つまり、介護施設の利用者さんは脳卒中のハイリスク群であり、介護職員は発症の現場に居合わせる確率が高いといえます。
利用者さんの一番近くで接する介護職員こそ、脳卒中発症時の行動を十分に確認しておく必要があるのです。
ACT FAST(急いで行動せよ!)脳梗塞における血栓溶解療法の適応は発症から4.5時間
脳卒中はよく「一刻を争う病気」と表現されますが、その理由は主に2つあります。
- ●早期に治療を開始することで脳のダメージを最小限にできる
- ●脳梗塞の治療に時間の制約がある
先ほど、脳卒中の4分の3を脳梗塞が占めているというデータをご紹介しました。
脳梗塞は血の塊が脳の血管に詰まり、そこから先に血液が流れなくなる病気です。
血流が止まると、脳細胞は栄養を受けとることができず、どんどん死滅していきます。
脳細胞が死滅すると最悪の場合死に至り、命が助かっても手足のまひや言語障害など重い後遺症が残ることが多々あります。
そこで、脳細胞が死んでしまうまえに血の塊を溶かす、あるいは血の塊を取り除く治療が行われるのです。
ところがこの治療には時間の制約があり、たとえ条件に合う方でも、決められた時間を超えてしまえば治療を受けることはできません。
●血栓溶解療法(t‐PA静注療法)は発症から4.5時間、血管内治療は6時間がリミット
脳梗塞の超急性期治療には2つあります。
治療名 | 治療方法 | 適応時間 (発症から治療開始まで) |
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血栓溶解療法 (t‐PA静注療法) |
静脈からアルテプラーゼという薬を点滴して、血の塊を溶かす | 4.5時間 |
血管内治療 | カテーテルという細い管を血管の中に通して血の塊を取り除く | 6時間 |
どちらも治療を受けるための条件はありますが、救急要請のときに「脳卒中が疑わしい」と伝えることができれば、治療の可能性を広げることができます。
2018年現在、脳卒中治療の発達にともない、救急隊員によるトリアージ(脳卒中かどうかの判断)とバイパス搬送(t‐PAが実施できる病院を選んで直接搬送する)が行われています。
救急要請の時点でACT FASTを活用し、トリアージが行われていれば、病院への搬送はよりスムーズになります。
脳卒中発症時の適切な初期対応は「要介護者」を減らすことにもなる
脳卒中は、加齢も発症因子のひとつであるため、高齢者には予防が難しい部分があります。
とはいえ脳卒中は「介護が必要になった主な原因」の21%を占めるなど、要介護者になったきっかけとしては最も多く[2017年度(平成29年度)版高齢社会白書]、健康寿命の延伸を妨げる問題であり、見過ごすことはできません。
高齢者の脳卒中対策は、病院へ到着するまでの受診行動が重要です。
そのためには、誰でも初期症状をチェックできる「ACT FAST」のようなテストを積極的に取り入れ、発症から治療までの時間短縮を図ることが非常に有効になってきます。
脳卒中を発症しても、適切な初期対応ができれば後遺症の残る方が減り、ひいては要介護者を減らすことにもつながるのです。
参考:
荒木信夫,小林祥泰:病型別・年齢別頻度.脳卒中データバンク2015,中山書店,東京,2015,pp.18.
内閣府 2017年度(平成29年度)版高齢社会白書(2018年5月19日引用)