介護・高齢者施設が抱える課題(ヒト・モノ・カネ)をサポート

  • Facebook

医療従事者向け 介護プラス

介護職員による医療行為(痰の吸引・経管栄養)が可能に。医療行為を利用者さんに提供できるようになるまでの過程は?

医療行為である「痰の吸引」と「経管栄養」の実施が、2012年4月の法改正により、一定の条件を満たした介護職員に認められました。
実地研修の指導看護師である筆者が、2つの医療行為を利用者さんに提供できるようになるまでの過程について解説します。

医療行為(医行為)とはなにか?

はじめに「医療行為(法律用語では医行為)」とはなにを指すのかを整理しましょう。

絶対的医行為 医師の資格を有する者しか実施できない
相対的医行為 医師の指示、指導のもと、看護師等が実施できる

医療行為は医師、看護師などの医療職にのみ認められている行為であり、原則として介護職が実施することはできません。
医療行為でないとされる項目についてはこちらの記事(医療行為の「できる」「できない」訪問介護と訪問看護の違いと、医療行為ではないサービス11種)をご覧ください。

●痰の吸引、経管栄養の実施が介護職員に認められた背景

近年、アイス・バケツ・チャレンジで一般の人にもその名が知られるようになった難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)。
ALSの方は病状が進むと、自力で痰を出すことはおろか唾液を飲み込むこともできなくなります。
ALSは在宅介護が基本であり、ご家族は24時間体制の介護が必要になります。
頻繁にしなければならない痰の吸引をどうするか?
経管栄養の実施を介護職員に依頼することはできないのか?
日常のケアはご家族と訪問看護師、介護士が中心になるため、日本ALS協会は2002年、介護士にも痰の吸引を認めるよう要望書を提出しました。
以後「やむを得ない措置」としての容認から、2010年には「介護職員によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」が設置され、2011年には社会福祉及び介護福祉法が改正されるに至りました。(2012年4月施行)

喀痰吸引等研修

2012年の法改正で実施可能になった医療行為の範囲は以下の通りです。

喀痰吸引 口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内
経管栄養 胃ろうまたは腸ろう、経鼻経管栄養

しかし、法が改正されたからといって上記の医療行為が介護職員全員に認められるわけではありません。
医療や看護との連携による安全確保が図られているなど、一定の条件のもとでのみ実施することが可能になります。
一定の条件とは、介護職員が定められた研修を受講すること、事業所が医療行為を実施する事業者として登録することです。

●介護職員は「喀痰吸引等研修」を受講する

研修には第1号、2号、3号の3種類があり、都道府県または登録研修機関※で実施されています。
※登録基準を満たした上で都道府県知事に登録申請をした機関。事業者、養成施設もなることができる。

対象者 実施できる医療行為 研修
第1号研修 不特定多数 対象となる医療行為すべて ・基本研修
講義50時間+各行為のシミュレーター演習
・実地研修
第2号研修 不特定多数 喀痰吸引
(口腔内、鼻腔内)
経管栄養
(胃ろう、腸ろう)
・基本研修
講義50時間+各行為のシミュレーター演習
・実地研修
気管カニューレ内吸引、経鼻経管栄養を除く
第3号研修 特定の者 特定の者に対する、
特定の医療行為のみ
・基本研修
講義及び演習9時間
・実地研修
必要な医療行為のみ

研修修了後、業務開始までの手続きは以下の通りです。

  1. 1.研修を受けると「修了証明書証」が交付される。
  2. 2.都道府県に、修了証明書証を添付して「認定証」の申請を行う。
  3. 3.認定証が交付される
  4. 4.医師の指示のもと、看護師等と連携し、利用者さんに痰の吸引等を提供できる。

●介護福祉士は養成課程で研修を行う

2012年の法改正に伴い、介護福祉士の養成カリキュラムが新しくなりました。
2012年以降に介護福祉士を目指す方は、養成課程の中で学習することができます。

  1. 1.国家試験を受験し合格後、介護福祉士として登録を行う。
  2. 2.事業者に就業する。養成課程で実地研修を修了していない場合、必要な実地研修を行う。
  3. 3.医師の指示のもと、看護師等と連携し、利用者さんに痰の吸引等を提供できる。

●事業所の登録がなければ実施できない

介護職員が研修を修了しただけでは、医療行為を実施することはできません。
事業所は都道府県に申請し「登録喀痰吸引等事業者」または「登録特定行為事業者」登録をしなければなりません。

登録喀痰吸引等事業者 介護福祉士が喀痰吸引を行う場合
登録特定行為事業者 介護職員が喀痰吸引を行う場合

実地研修の実際~指導看護師の立場から~

実地研修では、施設または訪問看護ステーションの指導看護師のもと、施設または居宅の利用者さんに対して痰の吸引、経管栄養を実際に行い、指導と評価を受けます。
筆者は訪問看護ステーションに所属する指導看護師ですので、難病など特定の利用者さんが対象の場合(第3号)がほとんどです。
流れとしては、ご本人とご家族に了承を得て、研修先から評価票を送付してもらい、実際に利用者さんに実施させていただき、評価するというものです。
10回、20回など決められた回数の実施を繰り返し、評価します。

●「怖い」という気持ちは大切

実地研修を受ける介護職員の中には、手が震える方や、「怖い」とおっしゃる方がいます。
もちろん、利用者さんの前で不安な言動をすることは避けなければなりません。
しかし、筆者は「怖い」という気持ちは大切だと考えています。
喀痰吸引や経管栄養の実施は、長年看護師をしている筆者も怖いものです。
不適切な手技で命が危険にさらされることもあるのですから。
リスクを伴う行為であることを知り、慎重に実施することは利用者さんの安全を守るためにも大切なことではないでしょうか。

介護と医療、看護の連携はサービスの質の向上につながる

超高齢化、地域包括ケアシステムの推進から、医療行為の必要な利用者さんが増えています。
痰の吸引、経管栄養の実施もそのひとつですが、在宅ではこの2つを介護職員に依頼できるようになったことで、ご家族の介護負担を軽減できた例が多くあります。
看護職員が少ない施設においては、サービスの質の低下を防ぐ一助になるでしょう。
介護と医療、看護がより良い連携を図ることは、利用者さんに提供するサービスの質の向上につながると考えています。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)