高齢者の靴の選び方は足の状態や目的に注目!医療介護現場で正しい靴を履いてもらおう
「スリッパでは危ないので靴を履いてきてください」
介護の現場では、このような場面が少なくありません。
このとき、介護従事者は入居者やその家族へ、どのような靴を選ぶべきと伝えたら良いのでしょうか。
今回は高齢者の靴を選ぶポイントを紹介します。
目次
なぜ高齢者に適切な靴選びが必要なの?不適切な靴の使用に潜むリスク
高齢者の靴は選び方次第で、足のトラブルや転倒などのリスク要因となります。
なぜ高齢者は適切な靴を選ぶ必要があるのかを、解説します。
●不適切な靴は足のトラブルを招く
高齢者は、経年的な変化や病気により、足に以下のような変形を多く認めます。
- ○扁平足(へんぺいそく・土踏まずの部分がない状態)
- ○外反母趾(がいはんぼし・足の親指の部分がくの字に曲がってしまっている状態)
- ○内反小趾(ないはんしょうし・足の小指の部分がくの字に曲がってしまっている状態)
- ○巻き爪
など
また、以下の病気では、足のトラブルが起きやすくなるため、注意が必要です。
- ○糖尿病:靴ずれなどの小さな傷でも治癒がしにくく、重篤な障害に至る恐れがある
- ○人工透析:足の浮腫が生じやすく、透析前後でも足のサイズが変化
- ○関節リウマチ:薬の影響で感染症を起こしやすく、足の変形が起こりやすい
以上のように、足のトラブルを招きやすい高齢者が不適切な靴を使用すると、これらのトラブルを助長する要因になります。
たとえば、靴が履きやすいからといって、歩行レベルの高い糖尿病患者さんにサイズの合っていない靴を履かせると、靴ずれが生じて皮膚の潰瘍などを招くこともあります。
そのため、患者さんの疾患や足の状態に合わせた靴の選択が必要なのです。
●履物次第で転倒が増減する
Sherringtonら(2003)の報告では転倒により大腿骨の骨折をした高齢者の履物として、固定性の悪い靴を要因として挙げています。
その他にも履物によりバランス機能が変化する報告もあり、転倒予防の観点からも、適切な履物を選択することが重要となります。
以上のように適切な履物を選ぶメリットは大きいものの、多くの高齢者は脱ぎ履きの容易さなどからサイズの大きい靴を自発的に履いているという研究もあります。
そのため、高齢者と接する介護の専門職が、適切な靴を選ぶ必要があるのです。
高齢者の靴の選び方その1〜足の状態を良く観察しよう〜
高齢者の靴を選ぶためには、足の状態をよく観察して、靴を選ぶ際の情報を収集する必要があります。
●足のサイズに合わせた靴の選び方
足に合った靴の選び方として、まずサイズを測定することは誰もが思い浮かべるでしょう。
ただ、足の長さだけではなく、幅の広さや周径にも注意が必要です。
靴のサイズにおいて、足の幅(第1趾の付け根と第5趾の付け根の距離)とその部分の周径は、10段階(A、B、C、D、E、EE、EEE、EEEE、F、G)に分けられており、足の長さに対して、一定の大きさに決められています。
そのため、足の長さを測定しても、いざ靴を履くと幅が狭くてきついということが生じてしまうのです。
・EサイズとEEサイズの男性用靴の比較
足の長さ(cm) | Eサイズ | EEサイズ | ||
---|---|---|---|---|
足幅(cm) | 周径(cm) | 足幅(cm) | 周径(cm) | |
25.0 | 24.3 | 10.0 | 24.6 | 10.2 |
25.5 | 24.6 | 10.1 | 25.2 | 10.3 |
26.0 | 24.9 | 10.2 | 25.5 | 10.4 |
26.5 | 25.2 | 10.3 | 25.8 | 10.5 |
27.0 | 25.5 | 10.5 | 26.1 | 10.7 |
また、靴は規定より少し余裕をもたせて作られており、この余裕はメーカーなどにより異なります。
そのため、靴はカタログで選んで決めるだけではなく、必ず試着して捨て寸を含めてサイズが合うかを決める必要があるのです。
●傷やむくみ、変形があった場合の選び方のポイント
高齢者に多い変形や傷があった場合のポイントを表に示します。
足の状態 | 選び方のポイント |
---|---|
足に傷がある (糖尿病などで傷ができやすい) |
●傷がある場合は免荷用靴の使用を検討 ●傷ができやすい場合は甲の部分に伸縮性があったり、縫い目の少ない靴がオススメ ●靴ずれを生じないようにサイズを合わせる |
むくみやすい (透析、心疾患があるなど) |
●足がむくんでいる夕方や透析前のサイズに合わせて靴を選ぶ ●マジックベルトで浮腫の増減に合わせてサイズの調整ができる |
変形がある | ●サイズを確実に合わせつつ、ベルトなどで変形に合わせて調整できる靴がオススメ ●靴が柔らかすぎると足の負担が増え変形を助長する |
高齢者の靴の選び方その2〜靴を履く目的を明確にしよう〜
適切なサイズの靴を選ぶことができたからといって、靴が目的に沿っていなければ宝の持ち腐れです。
そこで、靴を履く目的によって靴の特徴を考慮するようにしましょう。
●高齢者が歩くための靴の選び方
靴は歩行するための道具ですので、高齢者が歩くときの安全性や歩きやすさ、足への負担を考慮することが必要になります。
履きやすいからといって、サイズを大きくしたり、踵の部分が柔らかいものを選ぶと、歩行にとっては悪影響になります。
サイズをしっかりと合わせるのはもちろんですが、以下のようなポイントを見るようにしましょう。
- ○踵を安定させるために、踵部分が柔らかい素材でできていないか
- ○靴底は薄くて硬さがあるものが安定する
- ○つま先部分が少し上がっているとつま先が引っかかりにくい
また、靴底は滑りやすいと転倒のリスクがあるため、滑りにくい素材のものを選びましょう。
しかし、パーキンソン病などすり足傾向が強い場合は、滑りにくい靴で歩行すると転倒を招く恐れがあるため、滑りやすい靴をあえて選択することもあります。
●車椅子を足でこぐ高齢者が履く靴の選び方
歩行ができない車椅子を使用する方は、靴を選ぶ際はしっかり足で地面が捉えられるように、滑りにくい靴底の素材を選ぶようにしましょう。
また、歩行をしないという観点から、脱ぎ履きのしやすさを優先して靴を選ぶようにすることで、活動性を高めることにつながります。
専門的な視点で靴の選び方を工夫して高齢者の生活の質を高めよう
高齢者の靴はただサイズを合わせればよいだけではなく、疾患や生活環境などをしっかり把握することで目的に合った靴を選択する必要があります。
そのためには、介護の専門的な視点で靴を選ぶことが、非常に重要です。
専門職としての強みを生かした選び方を身に付けて、高齢者の足を守るだけではなく、生活の質を高めることを目指しましょう。
参考:
Sherrington C, Menz HB:An evaluation of footwear worn at the time of fall-related hip fracture.Age Ageing 32(3):310-314,2003.
長谷川正哉,島田雅史,他:高齢者が自覚する靴サイズ、着用する靴サイズ、足型に基づく靴サイズの相違.理学療法の臨床と研究 第24号:9-12,2015.
坂口顕:理学療法士のための足と靴のみかた.文光堂,東京,2013,pp.120-127.