アニマルセラピーとは?定義や内容、期待できる効果、問題点を解説
「アニマルセラピー」とは、具体的にどのように定義されている療法なのでしょうか。
介護施設で何か変わった取り組みをしてみたいとお考えの方のなかには、興味をお持ちの方もいるでしょう。
今回は、アニマルセラピーとはどのようなものなのか、定義や内容、期待できる効果、問題点について解説していきます。
アニマルセラピーとは?
アニマルセラピーとはどのような療法なのか、定義や内容について確認していきましょう。
動物のセラピーといえば犬を思い浮かべる方が多いですが、実はそれ以外の動物が選ばれることもあります。
●アニマルセラピーの定義
アニマルセラピーとは「動物介在療法」のことであり、動物とのふれあいによって、人々の生活の質を高めるアプローチです。
英語の場合は「Animal Assisted Therapy(AAT)」といい、日本語をそのまま英語にした「Animal Therapy」とは表現が少し異なります。
日本アニマルセラピー協会は、アニマルセラピーを「動物を通した癒やし」と表現しています。
動物を見たり、動物とふれあったりすることで、なんとなく気持ちが癒やされたり、ストレスを発散できたりした経験をお持ちの方もいるでしょう。
そのような癒やしの力を活用して、人々の健康や生活の質を回復させることを目的としています。
●アニマルセラピーで活躍する動物
アニマルセラピーでは、ペットとしても身近な存在である犬が活躍するケースが多いです。
犬の場合は、行動学的にもさまざまな知見が得られているため、セラピーにも応用しやすいという側面があります。
アニマルセラピーのなかでも、訓練された犬(セラピードッグ)が介在する場合は、「ドッグセラピー」と呼ばれています。
なお、アニマルセラピーでは、馬やイルカなどが選ばれることもあります。
特に馬に関しては「乗馬療法」という言葉もあるほどで、病気や障害がある人のリハビリに応用する事例も増えてきました。
医療や福祉におけるアニマルセラピーの応用
医療や福祉の分野において、具体的にどんな人を対象としてアニマルセラピーが展開されているのでしょうか?
アニマルセラピーの導入分野や期待できる効果についてお伝えしていきます。
●アニマルセラピーの導入分野
日本の場合、アニマルセラピーの導入例はそれほど多くありませんが、医療や福祉の現場では注目を集めています。
高齢者をはじめ、認知症、精神疾患、難病、自閉症、小児がんなどの病気や障害のある方々、不登校や引きこもりの子供に対しても応用されています。
●アニマルセラピーで期待できる効果
アニマルセラピーで期待できる効果にはさまざまなものがあります。
精神的・社会的・身体的な面で、良い反応が得られると考えられています。
次に、その一例をご紹介します。
- ◯表情が明るくなる
- ◯情緒面の安定を図る
- ◯不安やストレスを軽減する
- ◯自己肯定感を高める
- ◯世話をすることで身体活動量が増える
- ◯歩きたい、動きたいという意欲がわく
- ◯自発性の向上
- ◯世話をするという役割を持つ
- ◯動物にまつわる会話が増える
- ◯発声のリハビリになる
もちろん個人差はあるものの、動物とのふれあいが精神的・社会的によい効果をもたらす可能性があるということは想像に難くありません。
また、動物を介したアプローチによって、自然に身体活動の機会となりますし、何かしようという意欲がわく方もいます。
動物の世話をする、動物と遊ぶ、といった作業を通じて、心身のリハビリにつなげるという考え方もあるのです。
●研究論文で示される科学的根拠
アニマルセラピーで期待される効果は多いですが、残念ながらそのすべてについて科学的に根拠が証明されているわけではありません。
しかし、学術的な観点からもアニマルセラピーの効果検証は進められています。
Einら(2018)は、ペット療法がストレス反応に与える影響をメタアナリシスから分析しています。
その結果、ペット療法のあとでは血圧に変化がないものの、主観的な不安やストレスが軽減することが明らかになりました。
今後もエビデンスを確立するための研究・論文発表が待たれます。
アニマルセラピーの課題や問題点
動物が持つ癒やしの力は多くの人が実感できるところですが、実際に介護施設などでアニマルセラピーを実施するには、課題や問題点も念頭におく必要があります。
●人間側
- ◯動物のかみつき、ひっかき
- ◯動物の無駄吠え
- ◯動物に対するアレルギー
- ◯衛生面の問題
- ◯感染症の可能性
- ◯動物恐怖症
人間にとって不都合となる可能性がある点としては、上記のような事柄が挙げられます。
犬の場合、セラピードッグになるためには、民間団体で訓練を受け、試験に合格する必要があります。
基本的に人間が好きでフレンドリーな性格の犬がセラピードッグを目指すため、高齢者施設などでも、入居者からかわいがられているケースが多いです。
ただ、動物も不安やストレスを感じるため、状況によってはかみつきやひっかきのリスクが100%ないとは断言できません。
また、アレルギーや動物恐怖症の方がいたり、衛生面を気にされる方がいれば、その場に動物を連れていくことは難しくなるという課題もあります。
●動物側
- ◯動物が感じるストレス
- ◯疲労の蓄積
- ◯運動不足や肥満になる可能性
人とふれあうことが好きな動物もいますが、多くの人と接し続けると、どうしても動物側にストレスや疲労がたまる可能性はあります。
動物とセラピストが施設を訪問する場合にも、ストレスや疲労には配慮が必要です。
仮にある施設で犬を飼うことになれば、入居者がえさをあげすぎたり、散歩に行く時間が確保できなかったりするケースもあるでしょう。
動物に負担がかからないように考慮することは前提であり、その上でどんなアニマルセラピーを行っていくのか検討する必要があります。
動物とふれあうことによる恩恵がある一方で、課題や問題点もあり、日本では広くアニマルセラピーが普及している状況にはなっていません。
海外ではどのような事例があるのか、ご興味のある方はこちらの記事(アニマルセラピーの海外事例6つ!アメリカやイギリスの事例・論文をご紹介)もご参照ください。
介護施設で導入する際はアニマルセラピストに協力を仰ぐ
アニマルセラピーを手がける「アニマルセラピスト」という民間資格があります。
民間資格とはいえ、必要な知識を身につけた専門家がついていれば、安心してセラピーを導入できるでしょう。
あるいは、地域のドッグスクールなどがボランティアで犬を連れて施設を訪問する取り組みをしているケースもあります。
そのような機関を探し、ボランティアの派遣などを要請してみることも方法です。
参考:
NPO法人日本アニマルセラピー協会 アニマルセラピーとは.(2019年5月30日引用)
Ein N., Li L., et al.:The effect of pet therapy on the physiological and subjective stress response: A meta-analysis. Stress Health34(4):477-489, 2018. (2019年5月30日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士