退院前後訪問や退所前後訪問はリハビリ職の関わりが重要!スムーズな在宅⽣活を⽀えるポイントを紹介
病院や老健から退院前後、退所前後訪問に行く場合、リハビリ職の関わり方により、患者さん利用者さんの在宅生活に大きな影響を及ぼします。
そのため、リハビリ職は訪問により得た情報をしっかり施設でのリハビリに反映させたり、退院後の生活をしっかり考えた適切な提案をしたりする必要があります。
今回は、経験の浅いリハビリ職でもしっかり訪問の役割を果たせるように、知っておきたい訪問時の関わり方のポイントを紹介します。
目次
退院・退所前後訪問に行くタイミングと目的
訪問に行くタイミングは非常に重要です。
また、訪問に行く時期によって目的が異なってきます。
そこで、訪問の目的を確認しながら、適切な時期を紹介します。
●早めに一度訪問をしよう
退院・退所前訪問といっても、どのくらいの時期に訪問をすべきか明確な規定や記載はありません。
そのため、患者さんや利用者さん一人ひとりの状態や生活状況に合わせて、スタッフが選択することになります。
理想はできる限り早めに訪問することです。
早めの訪問をすることで次のようなメリットがあります。
- ○目標設定を明確に立てられる
- ○早期から環境を想定したリハビリ・ケアができる
- ○アプローチの軌道修正をかける時間的猶予が多い
- ○本人の意欲を高める
- ○住環境のチェックポイントを本人、家族に伝えられる
以上のように、早期の訪問によって、施設内での生活や本人や家族からの話だけではわからない、生活様式や生活観などに関して多くの情報を得ることができます。
そして、それを生かしたリハやケア、アドバイスが早い段階でできるため、より効率よく、目標に即したアプローチが可能になります。
また、より目標が明確になることで、本人や家族ともリハビリに対する意欲向上が図れます。
●退院・退所直前の訪問は要注意
早期の訪問にメリットがある一方、退院・退所の直前に初めて訪問をする場合は注意が必要です。
なぜなら、実際に目の当たりにしなければ、具体的な生活環境を把握するのは難しいためです。
そのため、今までのリハやケアをする上で想定していた環境と違うということは少なくありません。
また、退院・退所直前だと、想像と違っていた部分を、以降のリハやケアで修正する時間がありません。
そのため、直前に初めて訪問に行くのではなく、少なくとも1カ月前には訪問するようにしましょう。
●複数回訪問するのが理想
訪問は一度より複数回することで、一度の訪問では気づかない意外な発見をすることが少なくありません。
たとえば、一度の訪問で多くの職種や事業所が集まる場では、誰もが家を綺麗にして、もてなす気分になり、「よそ行きの生活環境」になってしまうことがあります。
そこで、何度か訪問するうちに、「日常の生活環境」が見られる場合もあります。
「いつもは座布団が散乱してつまずくリスクがある」、「片付けないとポータブルトイレを置くスペースがない」など普段の様子を見て初めてわかる情報もあります。
そのため、可能であれば複数回訪問して、より多くの気づきを得るようにしましょう。
●多職種で訪問すると提案の質が上がる
多職種で訪問すると、リハビリ職以外の視点から提案が生まれるため、質の高い助言をすることができます。
筆者の経験では、夜勤をしている施設の看護・介護スタッフと退院前訪問をするとそれを実感できます。
なぜなら、介護者にとって夜間介護の不安は大きく、夜勤を担当するスタッフが一緒に同行することで、訪問する機会が多いリハビリ職や支援相談員が実際に目にするところが少ない部分に対して実践的な助言ができます。
どこを見ればいいの?訪問時に確認したい4つのポイント
経験の浅いリハビリ職が訪問をする場合、どのような点を確認すれば良いのか悩むことも多いと思います。
そこで、確認したいポイントを解説を交えて紹介します。
1.自宅内の環境
手すりや段差の有無、廊下や扉の幅、扉の形状、移動の導線など訪問時に家屋内の環境を確認します。
特にトイレや浴室はADL能力の変化に伴い、改修の必要性が高くなるため、トイレの形状(洋式、和式、ポータブルなど)や浴槽の広さや深さなど細かいチェックは必須です。
また、玄関や勝手口は自宅内への出入りに必要なため、移動方法やスロープ、昇降機など福祉用具の使用に合わせて、必要な段差や広さをチェックします。
さらに、調理や掃除などIADLを踏まえて、環境をチェックして必要に応じて、福祉用具の導入や環境調整の提案をする必要があります。
※入浴に必要な環境設定の方法は、「入浴動作のリハビリで使える!評価・介入のポイントから環境設定の知識まで解説」で、IADLの環境調整については、「IADL訓練とは?基本項目から訓練方法・環境調整まで幅広く解説」でそれぞれ詳しく紹介しています。
2.自宅周辺の環境
自宅周辺の環境をチェックすることは、自宅復帰後に買い物や趣味活動など屋外での活動につなげるために必要です。
坂や階段の有無、公共交通機関の種類や距離、道のりなどをチェックすることで、必要な移動手段や移動支援について検討できます。
3.ADL・IADLの確認
自宅内外の環境をチェックしながら、患者さんや利用者さんが自宅に帰った場合に、ADLやIADLを「いつ(時間)・どこで(場所)・どのように(方法)・どのくらい(自立度)」行うのかを確認します。
そして、屋外を想定する場合は、どこまで(活動範囲)行動するのかも確認して、環境を調整していきます。
また、一日の生活の流れを想定して、どのような動作の頻度が多いか、移動の頻度も踏まえて確認しましょう。
そうすることで、漠然と環境をチェックするより、具体的に改善するポイントが見え、リハ・ケアにて練習する目標を立てやすくなります。
4.本人・家族の思いを確認
本人や家族に自宅での生活に対する思いを知ることで、目標や提案の方法や内容をすり合わせていくことができます。
訪問時に専門職から一方的に提案するのではなく、本人はもちろん介護する家族の意向も確認して、自宅復帰後の生活方法を意思統一することが重要です。
そうしなければ、せっかく設置した手すりが使用されなかったり、福祉用具が活用されなかったりといったケースも少なくありません。
訪問時の指導内容を具体例を交えて紹介
病気や障害によって訪問時に指導するポイントが異なります。
そこで、具体的な方法をいくつか紹介します。
●パーキンソン病の場合
パーキンソン病に特有のすくみ足や方向転換の困難さ、姿勢反射障害などを考慮した指導をする必要があります。
たとえば開き戸の場合、ドアに近づきすぎるとドアを開くときに、後方へ移動しなければならず、姿勢反射障害によりバランスを崩して後方に転倒するケースが考えられます。
そのため、ドアを開ける動作の練習はもちろん、ドアの開く導線にテープを貼って視覚的に容易に確認できるように工夫します。
ベッドへのアプローチでは、直線的に移動してはすくみ足が出やすくなります。
そこで、弧を描くようにベッドの配置を変えたり、テープによる視覚的キューを使用して、膝から上がるような工夫ができます。
●転倒による骨折後の場合
転倒を防ぐために環境調整を求められるケースは多くあります。
そこで、以下に転倒の要因となるポイントを挙げるので、チェックして改善をしましょう。
場所 | 転倒の要因 |
---|---|
居間 | ・カーペット、コード、新聞紙、本などが床にある ・滑りやすい床 ・不安定または軽い家具 ・低い位置にある家具 ・照明が暗い ・扉が開き戸 |
階段 | ・傾斜がきつい ・滑りやすい ・照明が暗い ・手すりがない ・一番下の段と床が不明瞭 ・踏面が短い |
トイレ | ・便座が低い ・入り口に敷居がある ・照明が暗い ・手すりがない ・扉が開き戸 |
トイレ | ・便座が低い ・入り口に敷居がある ・照明が暗い ・手すりがない ・扉が開き戸 |
玄関 | ・框が高い ・手すりがない ・靴や置物が多い |
風呂 | ・滑り止めがない ・入り口に段差 ・浴槽が深い ・手すりがない |
以上のようなポイントをチェックし、必要に応じて住宅改修の提案、福祉用具の活用を実施することが重要です。
一人ひとりの住みなれた自宅での生活を支えるのは早めの訪問と適切な評価・指導
自宅内外の環境は誰一人同じケースはなく、また心身機能やADL・IADL能力も異なります。
そのため、早めに訪問して、環境を踏まえたリハビリを早くから実践し、状態に合わせた環境調整をすることが重要になります。
また、自宅を訪問することは、具体的に患者さんや利用者さん、家族の思いや目標、生きがいを把握することができます。
住みなれた自宅で、生き生きと生活をしてもらうためにも、積極的に退院前後訪問や退所前後訪問をしましょう。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級