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  • 蔵重雄基

    公開日: 2019年10月28日
  • 入居者さんのケア

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高齢者の体重変化を⾒逃さず早めに対応しよう!体重増減の理解と具体的な対応⽅法について紹介

介護現場で体重測定をする機会が多いと思いますが、測定結果をどのように判断していますか?
体重の増減はさまざまな疾患や状態変化のサインとなる、重要なバイタルサインの1つです。
そのため、体重の増減を適切に評価して、早めの対応をする必要があります。
今回は体重増減で予想される状態や、変化が見られた場合の対応について解説します。

高齢者の体重変化を⾒逃さず早めに対応しよう

体重増加は肥満だけじゃない!心不全や腎不全のことも

体重の増加といえば肥満とそれに伴う健康障害を想像する人が多いのではないでしょうか。
しかし、体重増加で考えられる体の変化は肥満だけでなく、心不全のような緊急性を要する病気が潜んでいる場合があります。
そこで、体重増加で考えられる状態の変化や疾患について解説します。

●体重増加の代表である肥満は多くのリスクの原因となる

体重増加の代表である肥満は多くのリスクの原因となる

日本肥満学会が作成した「肥満症診療ガイドライン2016」によると、もっとも一般的な体重の指標であるBMI(body mass index)を使用して、以下のような肥満の基準が設けられています。

BMI(kg/㎡) 肥満度
<18.5 低体重
18.5≦ <25 普通体重
25≦ <30 肥満(1度)
30≦ <35 肥満(2度)
35≦ <40 肥満(3度)
40≦ 肥満(4度)

BMI25以上が肥満とされるのは、BMI25を超えると死亡率が上昇したり、肥満が原因となる合併症を引き起こしやすくなったりするためです。
合併症は以下のようなものがあり、肥満の解消をするため食事の工夫や運動の継続などの対応が必要になります。

肥満に関連して起こる健康障害
・糖尿病
・脂質異常症
・高血圧
・心筋梗塞や狭心症
・脳梗塞
・睡眠時無呼吸症候群
・変形性関節症(膝や股関節)
など

●急激な体重増加は病気により体内に体液がたまるため

肥満であれば徐々に脂肪が蓄積されて体重が増えるため、月単位での体重増加になります。
しかし、週単位で体重の増加が見られるような場合は、病気による体液の貯留の可能性があります。
以下に体液の貯留を引き起こす疾患を挙げてみます。

1.心不全

心臓から血流を押し出す機能が低下することで、体液の流れが止まり、体液の貯留を招きます。
1週間に2kg以上の体重増加が見られた場合は、心不全の症状悪化の可能性があるため、早めに医師への連絡が必要です。

2.腎不全

腎臓の機能が低下してしまい、体内の水分を排出できなくなってしまうことで、体液がたまってしまいます。
腎不全を放置すると体内の毒素が排出されない尿毒症などを引き起こすため継続した治療が必要になります。

3.肝不全

肝臓の機能が低下すると肝臓へ流れる血流が悪くなるため、体内に体液がたまってしまいます。
また、肝臓は血液を流れるタンパク質を作っています。
肝臓の機能低下により血液中のタンパク質が低下してしまうと、血管の外に血液の成分が流れ出てしまい体液の貯留を引き起こします。

以上のように、急激な体重増加は、悪化すると重篤な症状を引き起こす病気の可能性が考えられるため、早めに医師と連携を図り病気の治療につなげる必要があります。

体重の減少で考えられる状態は?リハビリが逆効果の場合も

体重の減少で考えられる状態は?リハビリが逆効果の場合も

体重の増加だけでなく、体重の減少も多くの状態悪化や病気と関連しています。
ここでは、体重が減少する要因として挙げられる、「カヘキシア」、「サルコペニア」、「フレイル」の3つの状態について解説します。

●慢性的な疾患が原因で引き起こされる「カヘキシア」

最近では、慢性的な病気が原因で体重の減少を引き起こす状態を「カヘキシア」といいます。
カヘキシアの判断基準を以下に紹介します。

カヘキシアの判断基準
1.慢性疾患(がん、心不全、慢性閉塞性肺疾患など)にかかっている
2.「12カ月間で5%以上体重減少がある」または「BMI<20」
3.以下のうち3つ以上に当てはまる
・筋力低下
・食思不振
・倦怠感
・低除脂肪量指標
・生化学指標異常
・炎症亢進(CRP>5.0mg/L、IL-6>4.0pg/mL)
・貧血(ヘモグロビン<12g/dL)
・低アルブミン:血中アルブミン<3.2g/dL)

このような状態は、疾患による炎症状態が原因となった体重減少ですので、無理に運動をすると疾患の増悪や重度の疲労を招きかねません。
そのため、しっかりと医師と連携を取って、治療に合わせた運動のメニューを検討していく必要があります。

●加齢による筋肉量の減少である「サルコペニア」

加齢が原因で筋肉量が減少することで、筋力が低下して日常生活の活動に影響を及ぼす状態をサルコペニアと呼びます。
体重低下がある場合で、ふくらはぎが細くなっていたり、握力が低下していたりする場合は、サルコペニアが原因である可能性があります。
また、筋肉量減少に伴う体重低下があるのに体脂肪が多い場合は、過剰な体脂肪の蓄積と筋肉量減少が同時に起こっている可能性があります。
このような場合を「サルコペニア肥満」と呼び、通常のサルコペニアより日常生活の制限や病気のリスクが高い状態であるため注意が必要です。

※サルコペニアに関する記事は「高齢者がサルコペニア状態になると、転倒リスクが上がる!?その定義や原因を知ろう!」で詳しく解説しています。

●筋力低下や低下活動、低栄養による虚弱状態「フレイル」

サルコペニアのような筋肉量や筋力の低下だけでなく、活動性の低下や低栄養などが絡み合って、病気や転倒、要介護状態になりやすい状態をフレイルといいます。
フレイルのような低栄養状態による体重低下の場合、過剰な運動を行うことが逆に筋肉量の減少を招く危険性があります。
そのため、医師や管理栄養士と相談して、運動より先にタンパク質を中心とした栄養摂取の取り組みをしていくことが重要です。

※フレイルについての解説は「介護が必要になるのは目前!?介護予防のためには必ず知っておきたいフレイルについて解説します!」でしていますので参考にしましょう。

体重の変化があった場合は早めの多職種連携が重要

介護現場における体重変化は、利用者さんの体調や病気のリスクを管理する重要なバイタルサインです。
そのため、定期的に測定して変化を観察し、病気や状態悪化の早期発見をすることが重要です。
そこで、早期発見のポイントや発見後の対応方法について紹介します。

●異常の早期発見のため疾患によって体重測定の頻度を変えよう

異常の早期発見のため疾患によって体重測定の頻度を変えよう

介護現場では体重測定の日程を決めていることも少なくありません。
筆者の働く事業所でも、月の最初の週に月1回の体重測定をしています。
しかし、これは最低限の測定頻度です。
心不全などの既往がある利用者さんに対しては、週単位の体重変化を見逃さないようにするため、利用毎の測定や週1回の測定というように測定頻度を増やしています。
事業所には車椅子に乗ったまま体重測定ができる装置があることも少なくないため、車椅子レベルの利用者さんにとって唯一の体重測定の機会ということもあります。
そのため、しっかりと体重変化を見逃さないように、適切な頻度で測定を実施することが重要です。

●異変に気付いたらすぐに医師につなげるため連携を図ろう

体重の異変に気付いた場合は早めの治療が必要になります。
そのため、早期の病院の受診につなげるようにするために、急激な体重の増加や継続する体重減少が見られた場合は、すぐにケアマネジャーや家族に連絡して、主治医へと連絡ができるよう連携を図りましょう。
その際、体重変化の推移を見ることができるように、日頃からグラフや表に体重測定の結果を記載することがオススメです。
このようなグラフや表を作成しておくと、定期的な受診時に持参してもらうことで医師の診察の貴重な情報となります。

体重増減の早期発見、早期対応で状態悪化を未然に防ごう

体重測定は誰でもなじみのある測定項目ですが、介護現場では状態の悪化を未然に防ぐための大切なバイタルサインとなります。
心不全のような重篤な疾患の悪化を発見する可能性もあり、体重の増減を早めに発見することが重要です。
そして、多職種で協力して早めの対応を図れば、状態の悪化を予防することにつながります。

今回お伝えした体重増減に関する知識を身につけて、日々の業務の中で異常を察知する力を磨いていただければ幸いです。

  • 執筆者

    蔵重雄基

  • 整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
    現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
    医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。

    保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級

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