拘縮予防には正しいポジショニングが重要!ポジショニングの考え⽅やクッションの使い⽅を紹介
介護の現場において利用者さんの拘縮が生じるのは、誤った介護方法による筋緊張の亢進や活動性の低下からくる「介護の二次障害」が原因となることも少なくありません。
そのため、適切な介護をすることで利用者さんをリラックスさせて、こわばった筋肉の緊張を緩めることが重要です。
今回はポジショニングに焦点を当てて、正しい調整をするための考え方やクッションの具体的な使い方について紹介します。
目次
拘縮予防には「重さの流れ」や「動く場所」を意識することが重要
不適切な姿勢で拘縮が発生する原因は、「体重を支えるために過剰な緊張が入る」ことと「動く部分を制限する」ことです。
まずは、このような原因を理解して、拘縮予防に必要な考え方を整理しましょう。
●重さの流れを意識して体重を支える助けをしよう
人間は体の重さを支えるために筋肉の力を使います。
もし、体の一部に重さが集中してしまうと、それを支えるために筋肉が常に緊張してしまいます。
その結果、関節の動きが妨げられて、拘縮につながってしまいます。
通常、拘縮や動きの制限がない状態で背臥位になった場合、体重は全体に分散されていますし、圧が集中すれば体位変換をして圧を取り除くことができます。
しかし、活動性が低かったり、拘縮がある利用者さんはそういうわけにはいきません。
たとえば、上下肢や体幹に屈曲拘縮がある利用者さんが背臥位になった場合に、重さがどのように流れるのかを表で示します。
屈曲拘縮の傾向がある場合に生じる重さの流れの例 |
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頭部の重さ→頚椎〜胸椎 上肢の重さ→肩関節〜胸郭 胸部の重さ→胸椎〜腰椎 大腿部の重さ→股関節〜腰椎 下腿部の重さ→足関節 |
以上のように、拘縮などがあると頭部や上肢、下肢の重さが一部の関節に集中的にかかってくるため、筋肉の緊張を亢進させてしまいます。
そのため、重さを分散させるようにポジショニングをする必要があります。
また、重さが一点に集中することは、褥瘡のリスクを高める要因にもなるため、ポジショニングは褥瘡予防にもつながります。
※褥瘡に関しては、「褥瘡予防におけるリハビリ職の関わり方とは?ポジショニングやシーティングをうまく実践するコツ」の記事で紹介しています。
●動かす場所を制限しないように注意しよう
人間が体を動かすには関節の動きが必要です。
そのためには、関節をなるべく動かしやすくなるように保つことが理想です。
しかし、先ほど紹介した重さの流れを示した表では、体の重さが動きを生み出す関節にかかってしまっていることがわかります。
そうすると、「動かす場所」である関節の動きを悪化させ、拘縮を引き起こしてしまいます。
また、実際の介護現場では、誤ったポジショニングにより動きを制限する場合があります。
誤ったポジショニングによる関節の動きを制限してしまう例 |
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・膝の屈曲拘縮による隙間を埋めるために膝下にクッションを挟む ・頚椎の過伸展を防ぐための枕を頭部のみ支える位置に置く |
介護現場では、「隙間を埋める」という視点でクッションを挟むスタッフを見ることがあります。
これでは、クッションがあることで関節の動きが妨げられて、拘縮を引き起こす要因となってしまいます。
また、枕を高くしすぎると頭部の重さが頚椎にかかり、頚椎の動きを妨げ、頚部の筋肉を緊張させ、拘縮や嚥下障害などを引き起こします。
このように、不適切なポジショニングも拘縮を引き起こす要因となってしまうため、拘縮の予防に必要な原理・原則を理解して実践することが重要です。
正しいポジショニングをするための評価するポイント3つ
ご紹介した2つの視点を踏まえて利用者さんの状態を評価することが、正しいポジショニングにつながります。
今回は3つの評価ポイントについて、それぞれ解説します。
●支える場所により重さの流れが変わるのを確認
自分の手で利用者さんの体の一部を支えることで、重さの流れ、体重のかかり具合を確認しましょう。
たとえば、円背がある利用者さんに頭部のポジショニングをする場合、頭部だけを手で支えても、重さがかかりません。
これは、頭部の重さが頚椎や胸部に流れていってしまっているためです。
そこで、肩甲帯と一緒に頭部を支えると頭部の重さを感じることができます。
これは、頭部〜胸部の重さを分散して支えることで、しっかりと全体に重さがかかっていることが確認できます。
このように、重さの流れを確認できれば、体重を分散させるためにどこにクッションを使用すればいいのかがわかります。
●どれくらい関節が動くのかを確認
重さの流れを確認しながら、関節がどれくらい動くのかを確認することで、理想的な姿勢を決めることができます。
たとえば、背臥位で股関節が外旋してしまう利用者さんの場合、どの程度内旋をするのかを大腿部の重さを支えながらチェックします。
ある程度内旋可動域が保たれていれば、股関節の内旋を保ったままにできるような調整をします。
●ねじれや傾きをチェック
重さを支えても、体がねじれていたり、傾いていたりすると不快な姿勢となり、筋緊張を高める要因になってしまいます。
局所的な視点はもちろん、姿勢を全体的に見てねじれや傾きがないかをチェックしましょう。
拘縮を予防するための部位別クッション使用例
これまでのポイントを踏まえた上で、拘縮を予防するためにクッションを使用したポジショニングの具体例を部位別に紹介します。
また、クッションを挿入する際のコツも紹介します。
●部位別のクッション使用例
頭部、上肢、下肢に分けてクッションの使用方法を解説します。
1)頭部
頭部のポジショニングでは、頭の重さを頚部や胸部に流れないようにする必要があります。
そのため、頭だけ支えたり、円背があるのに肩甲帯を支えなかったりしないように注意が必要です。
クッション(枕)は、頭部だけでなく頚部も支えるように広めのものにして、硬さも沈み込みすぎて頚部が伸展しないように注意しましょう。
円背がある場合は、肩、肩甲骨、腕まで支えるように大きめのクッションの使用がオススメです。
2)上肢
上肢といっても肩、上腕、前腕、手と各部位で重さの流れが異なります。
そのため、ただ隙間にクッションを挟むのではなく、重さの流れに合わせて支えるようにクッションを入れましょう。
肩であれば、肩甲骨まで十分に重さを支えることで、胸郭が開き呼吸がしやすくなります。
腕の重さを全体的に支えるようにクッションを入れれば、腕全体の体重が分散され、肘から先の緊張も緩みやすくなります。
3)下肢
ポイントは大腿部全体でしっかり体重を支えることです。
出来るだけ臀部に近い部分までクッションを入れることで、大腿部全体に体重が分散して、臀部や腰椎にかかる負担を減らすことができます。
下腿も同様に全体を支えるようにクッションを使用しましょう。
また、足底を支えることで、立位と似たように足裏に体重をかけることができます。
さらに、評価ポイントのところで紹介したように、股関節の外旋にも注意が必要です。
じゃばらのようにステッチが入ったクッションを使用したり、大腿の外側から斜めにクッションを入れたりして、外旋予防のポジショニングをするようにしましょう。
●クッションの挿入後は「なじませる」のがポイント
クッションを挿入してそのままだと、うまくクッションに体重が乗っていないことが少なくありません。
そのため、上から圧をかけてゆするようにして、クッションに体をなじませるようにしましょう。
たとえば、大腿部にクッションを入れたときは、大腿部を上から両手で軽く押さえて、股関節を内外旋するようにコロコロ転がしてなじませます。
原理・原則を理解して応用のきくポジショニング技術を身につけよう
今回、いくつかポジショニングの例を紹介しましたが、利用者さんの状態はさまざまですので、それぞれの状態に応じた調整が必要です。
そこで重要なのが、拘縮を引き起こす原理やそれに伴う対応方法の原則を理解することです。
「重さの流れ」や「動く場所」というポイントをしっかり理解すれば、利用者さんの状態に合わせた応用がききます。
ぜひ、マニュアル的なポジショニングではなく、利用者さん一人ひとりの状態に対応できる、ポジショニング技術を身につけていただければと思います。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級