起き上がり介助のポイントを理学療法⼠が解説!動きを引き出す介助の工夫をしよう
起き上がり介助は、行う頻度の高い介助の1つです。
皆さんは次のような介助をしていませんか。
「仰向けの状態から頭と膝裏を持ってくるっと起こす」
しかし、このような介助では利用者さんの体をこわばらせ、拘縮や褥瘡を引き起こすリスクが高くなります。
今回は私の体験も踏まえながら、正しい起き上がり介助の方法を解説します。
目次
間違った起き上がり介助方法で利用者さんの状態が悪化する理由
仰向けの状態から臀部を支点にして、頭と膝裏を持ち、勢いよく起き上がり介助をすると、時間もかからず、介助量も少なく感じるため、忙しい業務の中でついついやってしまいがちです。
しかし、そのような方法では利用者さんの心身の状態悪化を引き起こしかねません。
まずは、なぜそのような介助が利用者さんに悪影響を及ぼす可能性があるのかを解説します。
●仰向けからの起き上がりでは筋緊張を高めたり関節への負担が強まる
皆さんも仰向けから一気に起き上がろうとしたら、体のいろいろな部分に重力がかかって、腹筋や首を持ち上げる筋肉の力をかなり必要とするのではないでしょうか。
利用者さんが起き上がる場合も同様で、仰向けから一気に起き上がると、体に負担がかかるため、筋肉の緊張が高まりやすかったり、痛みを引き起こしやすかったりします。
●圧が一点に集中して表皮剥離や褥瘡のリスクを高める
臀部を支点にして起き上がることで、上半身、下半身の体重が一気に臀部に集中します。
また、起き上がる場合に回転することで臀部の皮膚にずれが生じます。
このような、「圧」や「ずれ」は表皮剥離や褥瘡の発生につながり、利用者さんの状態悪化を引き起こします。
●利用者さんだけでなく介護者への負担も増える
無理な起き上がり介助は利用者さんはもちろん、介護者の負担を増やし腰痛の原因になります。
なぜなら、仰向けからの介助は利用者さんの体重を一気に持ち上げるため、体重分の負担が介護者にかかるためです。
特に起き上がりの介助は介護者が中腰になりやすく、腰に大きな負担がかかってしまいます。
※介護者の腰痛に関する記事は、「介護職員を腰痛から守る!知っておきたい介助のコツ4つ ベッド上介助編」で詳しく解説しています。
●間違った介助を繰り返すと介護量増加→介護負担増加の悪循環に
間違った介助を繰り返すと、利用者さんの緊張を高めたり、拘縮が悪化したり、褥瘡ができたりといった、いわゆる「不適切な介護による2次障害」を招いてしまいます。
結果として、介護量が増加していき、介護者の負担も増えるといった悪循環に陥ります。
そのため、正しい介助をして、利用者さんの状態を改善・維持させる必要があるのです。
正しい起き上がり介助の方法のポイントは2つ
正しい起き上がり介助のポイントは「側臥位を経由する」ことと「起き上がる軌道を考える」ことです。
それぞれのポイントを理解して正しい起き上がり方法を習得しましょう。
●側臥位を経由して起き上がる
側臥位を経由して起き上がることで、持ち上げての起き上がりにならず、利用者さん、介護者ともに負担の軽減になります。
そのため、起き上がり介助をするためには、まず寝返りをして側臥位になる必要があります。
このとき、しっかりと側臥位を取らないと、背中のほうに重心が残ったままになり、結局起き上がる介助をする場合に、持ち上げる必要が出るので注意しましょう。
とりわけ、麻痺があって後ろに反る力が入りやすい場合は、十分に側臥位を取って体の緊張を緩める必要があります。
側臥位ができたら、両下肢をベッドからおろして、上半身を起こす準備をします。
●後ろへ反らないように軌道を考える
私たちが普段ベッドや布団で側臥位の状態から上半身を起こす場合は、真横に起きるのではなく、上半身の重さを腕や手に移しながら前に弧を描くように起きます。
介助をする場合もそのようなイメージで上半身を起き上がらせることが重要です。
具体的な手順を以下に示します。
- 1.介護者の片方の手は利用者さんの背中に、もう片方の手は利用者さんの腰に添える
- 2.背中においた手で上半身を頭のほうに引くように力を入れる
- 3.上半身の重さを頭→腕→手と移していきながら、お辞儀をするように弧を描いて起き上がらせる
- 4.上半身を起き上がらせるのに合わせて腰を臀部の方向へ押して上半身の重さを臀部にしっかり移して座位を安定させる
以上のように上半身の重さを持ち上げるのではなく、徐々に体重を移動させながら弧を描くように介助することで、利用者さんの自然な動きを引き出すとともに、介護者の持ち上げる負担も減らすことができます。
また、腰に当てた手を臀部のほうへ押しながら起こすことで、起き上がるための支点ができてスムーズに起き上がられるとともに、座位になったときにしっかり臀部に体重が移り、安定した座位につながります。
重度の利用者さんへの介助は福祉用具の導入をしよう
重度の介助が必要な利用者さんに対しては、いくら正しい介助方法を行ったとしても利用者さん、介護者ともに負担が大きくかかります。
そのため、福祉用具を積極的に利用することで、双方の負担を軽減することができます。
そこで、起き上がり介助で福祉用具導入の目安となる利用者さんの状態とオススメの福祉用具を紹介します。
●端座位が取れるかどうかが福祉用具導入の目安
起き上がりが自力で難しい場合でも、端座位がある程度可能であれば、介助しながら起き上がりをすることができます。
しかし、自力で端座位が難しく、支えていないと体がすぐに倒れるような場合は、起き上がった直後に不安定になりやすく、結果的に利用者さんの体へ負担を与えたり、介護の負担が大きくなったりします。
そのため、端座位が困難で介助量が多い場合は、介護用リフトなどの福祉用具での起き上がりや移乗をしましょう。
●介護用リフトの導入は利用者さんの体にもメリットがある
「介護用リフトは時間もかかるし、吊り下げられて利用者さんが怖そうなので使わない」
実は筆者も新人時代に介護用リフトのことを詳しく知らなかったため、上記のようなことを思っていました。
しかし、リフトを使うことで、介護負担が軽減することはもちろん、利用者さんにとってもメリットがあります。
介護用リフトを使用することで、体に無理な力が入らない起き上がり、移乗を繰り返すことができます。
結果として、体の緊張が抜けて、関節可動域が増えたり、筋肉の緊張が緩んだりといった経験があります。
このように、介護用リフトは利用者さんの体への負担を軽くすることもできるため、状態に合わせて積極的に活用していきましょう。
※介護用リフトに関する記事は「介護用リフトは入浴や移乗動作に便利!使えば介護者の負担軽減のメリット大」で詳しく紹介しています。
毎日の正しい起き上がり介助で利用者さんの生活の質を高めよう
起き上がることは利用者さんの状態改善にとって大切な「離床」につながるため、毎日のケアでは欠かせない介助です。
そのため、正しい介助を繰り返すことは、利用者さんの拘縮や褥瘡を予防し、ベッドから離れて活動的な生活を送ることにつながります。
また、状態に合わせた福祉用具の活用は利用者さんはもちろん、介護者の負担軽減にもつながります。
常に利用者さんの状態を観察して、福祉用具の活用も含めた正しい介助方法を実践し、利用者さんの生活の質を高めていきましょう。
-
執筆者
-
整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級