片麻痺の利用者さんへの起居動作の介助・練習のコツは?理学療法士が具体的な方法を伝授します
「片麻痺の方の起き上がりや立ち上がり介助がうまくできない…」
筆者の働く現場でもこのような悩みを抱えているスタッフは少なくありません。
片麻痺の利用者さんへうまく起居動作の介助ができれば、利用者さんの負担が減ることはもちろん、片麻痺で生じる体への悪影響を取り除き、起居動作の自立に向けた練習にもなります。
そこで新人スタッフの方にはぜひ知っておいてほしいポイントをご紹介します。
片麻痺の利用者さんの起居動作の特徴
片麻痺の利用者さんは非麻痺側での代償動作や過剰な緊張、感覚の不足による重心移動の困難さなどにより不適切な動作が生じてしまいます。
そこで、これらの動作の特徴を知り、介助の方法をより実践しやすくしましょう。
●起き上がり動作の特徴
片麻痺の起き上がりでは、非麻痺側の上肢でベッド柵やマットの端を引っ張る力を利用することが少なくありません。
このような動作は背筋群の緊張を高めるため、体幹を屈曲・回旋させるという起き上がりで必要な動作を妨げてしまいます。
また、腹筋の働きが弱いため起き上がりの際に支点となる胸郭や肩甲帯に体重を移すことができません。
結果として麻痺側の重さが残ったままになってしまったり、頭部の挙上ができず顎を突き上げたりといった動作になってしまいます。
そこで無理に起き上がろうとすると、余計な力が生まれ、上記の姿勢を助長させる要因となります。
●立ち上がり動作の特徴
立ち上がり動作も起き上がり動作同様に非麻痺側の上肢で手すりを引っ張るようにして立ってしまうと、背筋が緊張して立ち上がりに必要な股関節の屈曲が生じず、後方へ重心が残ったままになってしまいます。
結果として離殿が不十分になってしまい、再び座ってしまいます。
また、上肢の力で勢いよく立ってしまうと、立ち上がった後の姿勢が不安定になる恐れがあります。
上肢だけでなく下肢においても非麻痺側に過剰に頼って立ち上がると、麻痺側の緊張が亢進する連合反応により、上肢の屈曲や骨盤の後傾、足部内反を助長してしまい、立ち上がりをさらに困難にしてしまいます。
片麻痺の利用者さんの起居動作介助・練習のポイント
片麻痺の利用者さんによく見られる起居動作の特徴を踏まえながら、正しい動作を促すようにしましょう。
●起き上がり動作の介助・練習のポイント
まずは起き上がり動作の介助や練習で知っておきたいポイントを紹介します。
1.声かけは動作の流れの中で行う
最初に意識したいポイントは声かけです。
「起き上がりましょう」という一言だけで済ませてしまうと、無理やり起きようとするため筋緊張の亢進や代償動作の出現を招いてしまいます。
そのため声かけをする場合は、動作を誘導しながら流れの中でポイントごとに実施するようにしましょう。
たとえば、動作の初めは「顎を引いて」と声をかけることで、起き上がりを阻害する頸部の伸展を改善して、起き上がりに必要な頸部の屈曲・回旋のきっかけにします。
そこから、「肩を前に出して」と肩甲骨を前方に突き出すようにして誘導しながら、上半身の屈曲・回旋を促します。
以上のように、起き上がり動作を段階的に誘導しながら、流れに合わせて声かけをすることが、利用者さんの自発的な動きを引き出すことにつながります。
2.支持面を意識させる
起き上がりは仰臥位という体を支える面が広い状態から、いろいろな部分に支点を移しながら、最終的に座位で両側の殿部(坐骨)で支えます。
そのため、介助する場合に「持ち上げる」という意識ではなく、「支持する面を移動させる」という意識で実施するようにしましょう。
この考えは、片麻痺だけでなく、起き上がり介助全般に通じる部分ですので、しっかり理解して実践しましょう。
※起き上がりの介助方法については「起き上がり介助のポイントを理学療法⼠が解説!動きを引き出す介助の工夫をしよう」でも詳しく解説しています。
●立ち上がり動作の介助・練習のポイント
次に立ち上がり動作の介助・練習のポイントを紹介します。
1.座位で足底に体重を乗せる
座った状態からいきなり立ち上がろうとする場合、麻痺側に体重が乗らず、下肢がつっぱりうまく立てなくなります。
また前述のように非麻痺側のみに過剰に体重がかかり連合反応を引き起こしたり、バランスが崩れやすくなったりします。
できる限り麻痺側での支持を促すために、座位の状態から両足底にしっかり体重が乗るように姿勢をつくることが大切です。
とりわけ麻痺側はスタッフが大腿部を地面のほうへ押し付けて、足底に体重が乗るよう刺激を加えましょう。
2.骨盤の前傾を促す
片麻痺の利用者さんは骨盤が後傾し猫背の状態で座っていることが多く、恐怖心も加わって重心を前方に移すことができません。
上肢の力に頼ることでさらに重心が後方になりやすく、うまく立ち上がりができなくなります。
そのため、立ち上がり動作の最初に必要な骨盤の前傾をしっかり誘導しましょう。
誘導で難しい場合は、座面を高くしたり、殿部の後ろにクッションなどでくさびを入れたりすると骨盤が前傾しやすくなります。
●失敗を繰り返させないことが重要
上記の2つの動作を介助・練習する上で共通する視点として、失敗を繰り返させないことがあります。
できるだけ自力で動作をしてもらおうとして、何度も失敗を繰り返すと、動作の自立に向けた意欲の低下や誤った動作パターンの習得、筋緊張亢進などの悪影響につながります。
できるだけ滑らかな動作ができるように介助を加えながら、失敗をしない範囲で自分の力を発揮してもらいましょう。
※失敗を繰り返させない重要性については「リハビリのやる気を引き出すために PT・OTが気をつけたいポイント」で詳しく紹介しています。
介助をするスタッフの動きや触り方の注意点
「介助のポイントはわかったけどうまくできない…」
そんな場合はもしかすると自分自身の動きや姿勢に原因があるのかもしれません。
そこで、介助するスタッフの動きや姿勢の注意点を紹介します。
●利用者さんだけ動かずスタッフも一緒に動こう
利用者さんに起き上がりや立ち上がりの介助をする場合、動きに合わせてスタッフも立ち位置を変えていく必要があります。
たとえば立ち上がりでは、最初は利用者さんの麻痺側に座った状態から、利用者さんが離殿して、立位になるタイミングに合わせて、スタッフも立ち上がるようにしましょう。
そうすることで、利用者さんの動きに合わせて、流れを止めることなく誘導することができます。
●利用者さんに手全体で触るようにしよう
スタッフの手は利用者さんにとって適切な刺激になる場合もあれば、不快な刺激になる場合もあります。
たとえば利用者さんの腕などを持つ場合に、指先に力を入れて持ってしまうと、皮膚を強く圧迫してしまい、痛みなど不快な刺激となり場合によっては表皮剥離といったけがを引き起こしかねません。
手のひら全体で優しく触れるようにして、利用者さんに不快な刺激とならないように注意しましょう。
起居動作介助で利用者さんの動きを改善しよう
起居動作は毎日の生活で何回も行う動作です。
そこで体に負担のかかるような動作を繰り返すと、筋緊張の亢進や痛みの出現、拘縮の発生など悪影響につながっていきます。
逆に正しい動作を行い続けると、利用者さんの体や動きの改善につながり、自立した生活のきっかけになります。
今回ご紹介した内容を踏まえて、利用者さんの力を引き出す起居動作介助・練習を実施していただければと思います。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級