高齢者が自宅でできる体力測定とは?簡単にできる方法で体力低下を予防しよう
「利用者さんの体力が低下していないか気になる…」
在宅ケアでこのような場面は少なくありません。
特にフレイル傾向にある高齢者は、定期的に体力をチェックして、状態の変化を知ることが重要です。
そこで専門的な器具がなくてもできる体力測定の方法を紹介します。
筋力を確認する測定方法3つ
高齢者の気になる体力低下として「筋力の低下」を挙げることが多いのではないでしょうか。
そこで筋力を確認する方法として椅子を使った3つの指標を紹介します。
●5回椅子立ち上がりテスト
椅子から5回立ち上がるのに必要な時間を測定する方法です。
加齢による筋力低下である「サルコペニア」の目安として、5回立ち上がるのに12秒以上かかるという項目があります。
約40cmという一般的な高さの椅子さえあればできるのに加え、5回という少ない立ち上がりの回数ですので実施しやすい測定です。
●30秒椅子立ち上がりテスト
30秒で何回立ち上がることができるかを測定する方法です。
5回立ち上がりテストにくらべて長い時間、連続して運動し続ける必要があり、筋力はもちろん筋肉をどれくらい続けて働かせられるかという筋持久力の評価につながります。
一般的な立ち上がりテストの方法は、できるだけ下肢筋力のみを測定するために両腕を胸の前で組みますが、体力低下がある高齢者は難しい場合があります。
その場合は手を膝の上に置いて、腕の力を使って測定する方法でも実施可能です。
●ロコモ度テスト(椅子からの立ち上がり)
10cm・20cm・30cm・40cmといった高さの異なる台から両脚または片脚で立ち上がり、そのまま3秒保持できるかを確認する方法です。
骨や筋肉の衰えで移動能力が低下する「ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)」の指標として行われる検査で、40cmの椅子から片脚で立てない場合は「ロコモが始まっている状態」とされています。
自宅で高齢者が実施する場合、家庭にある椅子から片脚で立てるかどうかを観察して、ロコモの状態をチェックしましょう。
※ロコモについての詳しい内容は「健康寿命を左右する!ロコモティブシンドローム(運動器症候群)のセルフチェック・予防の方法」で解説しています。
●そのほかの筋力を確認する方法
そのほかの筋力を確認する方法としては、握力計を使用できる環境にあれば、上肢を含めた全体的に筋力を評価する目安になるので活用していきましょう。
また、日常生活で以下のような点に着目することで筋力低下を確認する目安になります。
- ○ペットボトルのふたが開けにくい
- ○買い物袋が重たく感じる
- ○ビニールの袋を開けにくくなった
- ○横断歩道を渡るのがギリギリになった
- ○両手の人差し指と親指で作った輪でふくらはぎをつかむと隙間がある
など
以上のような筋力・筋肉の量の低下は栄養状態と密接に関係しているので、普段の食事の様子も聞き取るようにしましょう。
転倒予防に欠かせないバランスのチェック方法
転倒を防ぐためにバランス能力を確認することが重要です。
道具のいらない簡単な方法を紹介します。
●開眼片脚立ちテスト
目を開けたまま片脚で何秒立てるかを確認する方法です。
何も支えがない状態で5秒立てないと転倒の危険性が高くなっている目安ですので、早急な対策が必要になります。
もし、支えがなくてはできないという場合は、手で支える量を両手、片手、指の本数、指先など変化させながら測定しましょう。
支える量または同じ支え方でどれくらいの時間立つことができたかを確認すれば、体力の変化を確認する目安にできます。
また、この測定はそのままバランスのトレーニングになるので、運動としても一緒に練習するのがおすすめです。
※片脚立ちトレーニングの方法は、「健康寿命を左右する!ロコモティブシンドローム(運動器症候群)のセルフチェック・予防の方法」で解説しています。
●ファンクショナルリーチテスト
片方の腕を前ならえのように90度上げて、前に向かってどこまで届くかを測定します。
自宅の壁にそうように立ち、壁に付箋を貼り付けて前後の距離を確認できれば簡単に測定できます。
15.3cm未満で転倒の危険性が高くなるとされています。
●立位保持テスト
片脚立ちが難しい場合におすすめのバランス検査です。
両脚を閉じて立つ「両脚閉脚立位」と綱渡りのように両脚の踵とつま先をつけて立つ「タンデム立位」の2種類の方法でどれくらいの時間立てるかを測定します。
両脚閉脚立位が20秒間できれば屋内での歩行は見守りで可能、タンデム歩行が20秒できれば屋内での歩行は自立可能な目安とされています。
柔軟性を確認する方法
筋力やバランス以外にも体力の低下を把握して対策を立てる方法として、柔軟性の評価が挙げられます。
一般的な柔軟性検査として長座体前屈がありますが、今回はより簡単かつ安全に実施できる方法として次の2つを紹介します。
1)シットアンドリーチテスト
座ったまま体の柔軟性を測定できる検査です。
以下に方法を紹介します。
- ○椅子に浅めに座った状態で片側の脚の膝をしっかり伸ばして踵を地面につけます。
- ○つま先は天井を向くようにして、反対の脚は足裏を地面につけて安定させます。
- ○両手を重ねて指先がつま先に向かうように体を前にかがめていきます。
- ○つま先と指先の距離を測定します。
- ○反動をつけたり、息をこらえたりしないように注意しましょう。
- ○伸ばしている側の膝が曲がらないように注意しましょう。
- ○痛みのでない範囲で実施しましょう。
2)バックスクラッチテスト
上肢の柔軟性を測定する検査です。
方法は以下の通りです。
- ○頭側から背中をかくように上方から背骨を触ります。
- ○反対の手を腰のほうから背骨に添わせて、先に上げている手と重なるように動かします。
- ○両手の中指がどれくらい近づいているかを測定します。
- ○両手が重なっている場合は重なっている距離を測定します。
- ○痛みのでない範囲で実施しましょう。
柔軟性は個人差が大きいので、定期的に測定して柔軟性の低下がないかを確認しましょう。
これらの評価で上肢、下肢の柔軟性低下が見られる場合は、ストレッチやラジオ体操などの全身を動かす運動を行いましょう。
定期的に測定をしてフレイルの早期発見・対策につなげよう
今回は筋力やバランスなどの体力測定についていろいろな方法を紹介しました。
関わる利用者さんによって能力や測定への意欲はさまざまです。
そのため、1つの評価にこだわらず、利用者さんの継続しやすい評価を選ぶことが重要です。
まずは医療や介護の専門職が体力のチェックを利用者さんと行い、利用者さん自身で体力低下を確認できるように促してフレイルを予防しましょう。
参考:
日本老年医学会 サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A(2020年8月25日引用)
日本サルコペニア・フレイル学会 サルコペニア診療ガイドライン2017年版(2020年8月25日引用)
日本サルコペニア・フレイル学会 サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019 発表)(2020年8月25日引用)
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級