一括りは危険!認知症の「病名」を確認し、対応方法を導きだそう
認知症だということで、どの入居者さんにも同じような対応をしてはいませんか?
一言で「認知症」と言っても、実際にはさまざまな種類があり、病名によって対応方法を変えないと、入居者さんを傷つけてしまう恐れがあるほか、思わぬトラブルを引き起こしてしまうリスクもあります。
そこで今回は、職員としてぜひ知っておいていただきたい4つの主な認知症をご紹介するとともに、対応方法についてもお伝えしていきます。
アルツハイマー型認知症とは
認知症全体の約半数を占めているのが、「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症は、2対1の割合で女性に多く発症する病気であり、少しずつ進行していく認知症です。
特徴としてよくあげられる症状の1つに、「物盗られ妄想」があります。
この症状は、実際には盗られていないにも関わらず
「ここに置いておいた財布がない!誰かが盗ったに違いない!」
と思い込み、物を探し続けてしまう症状です。
実際には盗っていないのに、泥棒だと入居者を名指ししてしまうこともあり、施設入居者同士のトラブルとなりかねないため、物盗られ妄想に対して、職員にはより慎重な対応が求められます。
入居者さんに物盗られ妄想が見られたとき、本人に対して
「盗られてなんていませんよ」
と、考えを否定してはいけません。
ご本人は自分の大切なものが何者かによって盗まれたと考えており、それに対して怒りと不安を強く感じています。
そのため自分の「盗られた」という意見を否定されてしまうと、怒りや不安が増してしまい、症状がより強く出る恐れがあります。
職員として、まずは
「Aさんは物を盗られたと思ったんですね」
と、入居者さんの不安と怒りに共感するとともに、周囲の利用者が不安に感じないよう、職員と1対1になれるように誘導することをお勧めします。
そして、職員も一緒になって探すことで、「この人は私の言うことを信じてくれている」という安心感を与えることができ、症状も少しずつ落ち着いてくるでしょう。
脳血管型認知症とは
脳血管型認知症は、認知症全体の約2割を占めており、アルツハイマー型認知症の次に多い認知症です。
女性にくらべ男性に多く発症し、高血圧や糖尿病、心臓疾患等の持病を抱えていることがほとんどとなっています。
脳血管型認知症がほかの認知症と大きく異なる点、それは「認知症の症状が強く出る部分と、そうでない部分がはっきり分かれる」という点です。
脳血管型認知症は高血圧や糖尿病などの病気によって脳内の血液の流れが悪くなることで起こります。
そのため血液の流れが悪くなっている部分の症状が強く出る一方、流れが悪くなっていない部分は正常に保たれているため、症状がはっきりと分かれます。
どの症状が出るのかは個人差もありますが、料理など、順序通りに物事をこなすことができない「遂行機能」障害や、新しいことを覚えられない「記銘力の低下」などはよく見られる症状となります。
そのため、「どの部分に症状が出て、どの部分は正常か」を職員全員が把握し、できない部分のみをフォローする体制づくりが大切となります。
また、アルツハイマー型認知症にくらべると感情が不安定になりやすく、些細なことで泣いたり笑ったりする「感情失禁」と呼ばれる症状が出やすくなるのも、この脳血管型認知症の特徴となります。
脳血管型認知症の利用者さんに対応する場合には、どの症状が強く出て、どの部分は正常に保たれているのかを前もって把握し、利用者さんが「この職員は、態度や言動がコロコロ変わる」という不信感を与えないようにすることが大切です。
また、突然怒り出す、泣き出すといった感情の起伏が激しいため、レクリエーションを行う際は必ず側に職員が付き添い、感情の変化が見られたら早めに大勢がいる場所から離れ、ゆっくりと落ち着ける環境をつくることが大切です。
レビー小体型認知症とは
レビー小体型認知症は、認知症全体の約2割であり、脳血管型の次に多い認知症です。
アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症にくらべると知名度が低い認知症ですが、全体の約2割、5人に1人はレビー小体型であることを考えると、いつレビー小体型認知症の利用者さんに出会ってもおかしくないといえます。
レビー小体型認知症の特徴として、発症早期に幻覚が発生する、という点があげられます。
誰もいないところを指さして
「ほら、あそこに〇〇がいる」
と、お話しされるなど、ご本人しか見えていないことを、周囲へ説明されることが多くあります。
幻覚について、職員側が肯定すると、「ほかの人にも見えているんだ」と症状の自覚が乏しくなりますし、逆に否定すると「私は本当に見えているのに」と信頼感を得ることが難しくなってしまいます。
よって、職員としてレビー小体型認知症の方の場合は幻覚・妄想の症状が出やすい、ということを事前に把握し、仮にご本人が幻覚や妄想のお話をされていると気づいても
「〇〇さんには見えているんですね」
と、肯定も否定もしないことが大切です。
また、症状として知っておきたいのが「パーキンソニズム」と呼ばれる症状です。
この症状はその名の通り、パーキンソン病のように、安静にしていても小刻みに震える、歩き始めると徐々に前のめりになってしまう、といった症状が出現します。
よって症状が進行すると転倒・転落のリスクが高くなるため、事故防止対策を万全に行う必要があります。
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症は、認知症全体の約2%と非常にまれな認知症です。
この認知症は、人間の脳の中で、主に人格・社会性・言語をつかさどっている前頭葉と、記憶・聴覚・言語をつかさどっている側頭葉が障害を受けることで、ほかの認知症とくらべても発症後早期に人格が崩壊してしまう、という特徴があります。
具体的な症状としては、初期の段階では、物を盗む、人が食べているものを勝手に食べるなど、自分の行動を抑制できない「脱抑制」と呼ばれる症状や、感情が鈍くなる「感情鈍麻(どんま)」などがあげられます。