介護現場で対応に苦慮する認知症の方の睡眠障害…光療法のエビデンスを調査
睡眠障害の治療では、高照度の光を活用する「光療法」というものを用いることがあります。
認知症の診断がある方では睡眠障害が高頻度で生じますが、体内時計が乱れて夜間に覚醒してしまうと、介護者の負担も大きくなります。
認知症の方の睡眠障害を解消するために、光療法を用いることはできるのでしょうか?
今回は、認知症の方に対する光療法のエビデンスと、普段のケアのなかで実践できる対応について探っていきます。
認知症に伴う睡眠障害を「光」に着目して考える
光が人間に与える影響については、さまざまな観点から研究が進められています。
特に、人の睡眠や覚醒に影響を及ぼすものとして、光の存在が取りあげられることはしばしばです。
認知症の方では、次のような理由から睡眠障害が誘発されることも少なくありません。
- ●日中の活動量が減少する
- ●日光を浴びる量が少なくなる
- ●光に対する網膜の感受性が低下する
- ●メラトニンの分泌が減る
これらの原因による睡眠障害は、岡(2014)が「概日リズム睡眠障害」として紹介しており、特に対処が必要になるものとして位置づけています。
メラトニンとは、体内時計に関わるホルモンとして知られているものです。
Mishimaら(1999)は、アルツハイマー病の方では、健常な高齢者とくらべて、メラトニンの分泌量が減ると報告しています。
ここに活動量や日光に当たる量の問題が加わるため、認知症の方では睡眠障害に陥りやすいと考えられているのです。
どうすればいい?認知症の方の睡眠障害を防ぐためにできること
筆者が介護施設で働いていたとき、日中は食堂などで座ったまま寝て過ごす利用者さんを見かけることがありました。
こうした過ごし方によって体内時計が乱れていくのは、いまになって考えると当然のことだと思います。
認知症に伴う睡眠障害では夜間に徘徊などの行動に直結する場合もあるため、介護施設でも対応に苦慮するケースがあるでしょう。
睡眠障害がある認知症の方に対しては、体内時計をコントロールする機構を考えて、次のようなアプローチをしてみてはいかがでしょうか?
●日中に取り組める活動をともに探す
基本的な対応としては、できるだけ日中に起きていられるような関わりを続けることが大切です。
日中うとうとしながら過ごすのではなく、なにか活動に参加していただくことも効果的でしょう。
介護施設の場合は、レクリエーションやリハビリに取り組んでいただく時間を設けることも効果的です。
寝たまま・座ったままで過ごすとどうしても日中の覚醒レベルが下がってしまうため、なるべく活動や参加を促しましょう。
ただ、覚醒が低い方の場合はどんな活動にも消極的であったりと、現実問題としてなかなかうまく活動に誘導できないことも多いと思います。
しかし、なにか取り組んでいただけそうな活動がないか、過去の生活歴を参考にしながら考えることも大切なケアの一環です。
試行錯誤しながら、「この活動なら積極的に取り組んでもらえる」というものを見つけていきましょう。
●日中に光を浴びる
食堂などで過ごすことが多く、その窓から十分な光が入っている場合はそれほど気にしなくても良いかもしれません。
ただ、施設によっては日当たりが悪い場合や、照明があまり明るくない場合があるので、そんなときは対応を工夫することが必要になるでしょう。
可能であれば、日中のうちに日光を浴びることができる機会を提供することが望ましいでしょう。
日中の間に散歩をかねて太陽が当たる場所にお連れするなどの対応を試みることも視野に入れてみてください。
介護施設では日々の業務が忙しいとは思いますが、少なくとも「光」を浴びる量があまりに少なくなると、睡眠に影響し夜間の対応に苦慮する可能性があるという知識があれば、対応も工夫できるようになるでしょう。
認知症の方に対する「光療法」は、科学的にどう位置づけられるのか
認知症の方に対する光療法については、日本神経学会が「認知症疾患治療ガイドライン2010」のなかでも触れられています。
ここでいう光療法とは、先にご紹介したような「日光を浴びる」というものではなく、「高照度の光を一定時間照射」するものとして位置づけられています。
ガイドラインのなかでどのように光療法が扱われているのか解説します。
●一定の見解は得られていないことが実情
ガイドラインのなかでは、強い光を一定時間当てることで、認知症の方の睡眠・覚醒のリズムを整え、夜間の徘徊などを減少させるという目的が掲げられています。
これまで認知症に対する光療法についてはいくつかの研究報告が発表されましたが、残念ながら一定の見解が得られていないことが実情です。
光療法の効果があっても臨床的には意味がない、アルツハイマー病には効果がないといった報告もあり、十分なエビデンスが得られていないのです。
●エビデンスは不十分だが、行うように勧められる
日本神経学会では、アルツハイマー病の方に対する治療ガイドラインのなかで、光療法の推奨グレードはC1(科学的根拠はないが、行うように勧められる)と設定しています。
効果がないものは科学的根拠こそ不十分ではありますが、「行うように勧められる」とされており、利用者さんの睡眠障害が生じている原因によっては光療法が奏功する可能性があります。
「効果がない」と証明されたものは別のグレードになるので、光療法については使っても問題ないものとして位置づけられます。
現状からするとエビデンスという点では課題がありますが、睡眠障害のある認知症の方に対し、普段のケアのなかでできるアプローチとして行う価値はあるかもしれません。
まとめ
認知症の方では、睡眠と覚醒のサイクルが乱れていることも少なくありません。
認知症の方の睡眠障害に対して、光療法が用いられる例もありますが、十分なエビデンスがあるとはいえません。
しかし、日中眠っている時間が長く活動量が少ないと、体内時計が乱れてしまうことは明らかです。
つまりエビデンスが不十分でも、できるだけ日中は活動に参加していただき、ときどき日光の当たるところにお連れするなどの対応をとることで、睡眠・覚醒のリズムが整っていくことは期待できるといえます。
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参考:
岡靖哲:認知症における睡眠障害. 臨床神経学54: 994-996, 2014.
認知症疾患治療ガイドライン2010(2018年1月26日引用)
Mishima K, Tozaka T, et al.:Melatonin secretion rhythm disorders in patients with senile dementia Alzheimer’s type with disturbed sleep-walking. Biol Psychiatry45: 417-421, 1999.