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認知症

認知症とせん妄。2つの疾患を理解し、介護の現場における暴力行為への対策へつなげていこう!

介護を受ける方(要介護者)のなかには、介護従事者に対して暴力をふるってしまう方もいます。
暴力行為に対しては、正しい対応を取ることはもちろんですが、それと同等に「なぜこういった行為に至ってしまうのか」という正しい知識を持つことが大切です。
そこで今回は、要介護者からの暴力を高齢者に多い「2つの疾患」から考えます。

介護現場でよく見られる「認知症」と「せん妄」

要介護者の大多数を占めるのは高齢者です。
そして、それまで穏やかだった性格の方が、介護を受けるようになってから突然怒りやすく、そして暴力を振るうようになってしまった、というケースは珍しいことではありません。
ではなぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
その理由としてまず考えられるのが「認知症」そして「せん妄」です。
まずは、この二つの疾患について解説します。

●認知症

認知症とは、一度獲得した記憶や言語などを認知する機能に障害が起こり、社会生活や日常生活に支障をきたす状態が持続することをいいます。
ではなぜ、同じ認知症でありながら、暴力行為を起こす人とそうではない人がいるのでしょうか。
その理由を知るためには、認知症の特徴を知る必要があります。
認知症の主な病型には、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つがあります。
詳しくは、次の記事(一括りは危険!認知症の「病名」を確認し、対応方法を導きだそう)で紹介しています。
そして、認知症によって引き起こされる症状は「中核症状」と「BPSD」の二つに分類されます。
中核症状とは、脳の神経細胞が死んでしまうことによって起こる症状のことです。
たとえば、夕食を食べたこと自体を忘れてしまうような記憶障害や、料理の段取りがわからず、食事を作ることができなくなる「遂行(すいこう)機能障害」が、この中核症状に分類されます。
この中核症状は、まさに認知症の「中核」と呼べるものであり、先ほどあげた主な4つの認知症すべての方に共通してみられる症状です。
一方、「BPSD」とは別名「行動・心理症状」と呼ばれているものです。
BPSDは、すべての認知症で起こるものではなく、認知症に加えてご自身の性格や人間関係、環境などが複雑に絡み合うことで起こる症状のことを指します。
BPSDには、大声や怒りっぽい、昼夜逆転や帰宅要求など、通常よりも激しい行動や動作を伴う「過活動症状」と呼ばれるものと、抑うつや不眠、拒食(食事を拒否すること)といった、反応が鈍くなる「低活動症状」と呼ばれるものがあり、この両極端ともいえる二つの症状を総合したものとなっています。

●せん妄

せん妄とは、一時的に脳の機能が低下することで、さまざまな精神神経症状を引き起こす意識障害のことをいいます。
せん妄には、興奮や幻覚・妄想といった「過活動型せん妄」、無気力や無関心、活動量の低下といった「低活動型せん妄」、そして過活動と低活動の症状が相互に移行する「混合型せん妄」の3つのタイプに分類されます。
たとえば、
「家族が手術を受けたあと、落ち着かずにスタッフに対して暴力を振るうようになってしまったが、数日間で治まった」
という経験をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
それも、おそらくこのせん妄による過活動型せん妄である可能性があります。

認知症とせん妄の違いを把握しよう

認知症とせん妄。
一見すると同じ脳の障害からくるものであり、出現する症状も似ている点が多いことから、一緒に考えてしまいがちです。
しかし、認知症とせん妄には大きく違う点がいくつもあります。
その違いを下の表にまとめました。

認知症 せん妄
基本的な症状 記憶の障害 意識の障害
発症様式 ゆっくり 急激
治るかどうか 引き起こす病気がない場合、治らない 数日から数週間で治る
一日での変動 変動は少ない 夕方から夜間に悪化
経過 不可逆性(改善困難) 多くは可逆性(ほぼ改善)

こうしてみると、認知症とせん妄は同じようで違う点が多い、ということがおわかりいただけるかと思います。
一方で、高齢者の場合は認知症とせん妄を同時に発症している、ということもあります。
よって、医療者であっても症状だけを見て、認知症とせん妄のどちらによって引き起こされているのか、という判別は難しいのが現状となっています。

認知症とせん妄による暴力行為に対し、どう対応すべき?

では、認知症またはせん妄によって引き起こされる暴力行為に対し、介護職員はどう対応すべきなのでしょうか。
医療の現場においては、認知症かせん妄かによって治療方針が変わってくるため、判別は重要です。
しかし、介護現場は治療の場ではなく生活の場であるため、たとえどちらの場合であっても、「暴力行為に対する対応」という部分は共通しています。
そこで、暴力行為に対しての対策について、ポイントをご紹介します。

●なぜ暴力をふるうのか、その原因を考える

暴力行為が起こった場合、まず行うべきは「なぜ暴力行為に至ったか」という要因を考えます。
認知症やせん妄によって引き起こされる暴力行為のほとんどは、不安や苦痛、ストレスなどの要因に加え、自分の気持ちをうまく表現できないことで起こります。
よって、暴力行為に至る場合、それはその方の言葉にならない表現である、という解釈もできます。
原因を考えるときに大切なのは、その方を「暴力をふるう人」としてひとくくりにしない、ということです。
暴力をふるうときとふるわないときの違いを、常に分析・検討することが大切です。

●ケア時は事前になにを行うのか説明し、適宜声かけを行う

これからなにをするのかを説明し、ケアを受ける気持ちになるような声かけを行うこと。
それだけでも、暴力行為を減らすことが期待できます。
このとき、興奮している方に対し「静かにしてください」「止めてください」というような強い口調で話してしまうと、より利用者さんは興奮してしまいます。
どんなことに不安を感じ、なにに困っているのかを把握し、混乱していることに対して、わかりやすい言葉で説明することが大切です。

●必要最低限の人数で対応する

暴力行為に対し、常に大人数で対応することも適切ではありません。
なぜなら、人数が多いことでより恐怖心をあおりやすく、暴力行為を誘発する恐れがあるからです。
あくまでも利用者さんと介護職員の安全が守れるということを前提に、最小限の人数で対応するようにしていくとよいでしょう。

まとめ

暴力行為は、介護職員にとってつらく大変なことですが、同様に暴力行為に至ってしまう利用者さん自身も、強いストレスにさらされているといえます。
「あの人は暴力をふるうから対応したくない」と考えるまえに、ぜひ「なぜ暴力をふるってしまうのか」を考え、対策を検討してみてください。
その検討の積み重ねが、結果として暴力行為を起こす利用者さんを救うことにもつながるはずです。

関連記事:
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参考:
岡庭豊:病気がみえる Vol.7 第2版:メディックメディア社:東京:2017:pp427-428
金盛琢也:Q&Aで考える 高齢患者さんのせん妄ケア:ナース専科 2017年10月号:pp39-57
熊谷亮他:病棟での困ったを解決!認知症「BPSD」対応!:ナース専科 2017年11月号:pp10-39

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