精神疾患=暴力は間違い!苦手意識を持つまえに、介護士として把握してほしい症状と状態像を解説します
これから担当する方に精神疾患があるとわかったとき、皆さんはどのように感じますか?
精神疾患は、マイナスイメージがいまだに強く、介護職員であっても苦手意識や偏見を持っている方も多いのが実情です。
そこで今回は、精神疾患によって引き起こされる症状について、看護師が解説します。
特定の疾患が暴力行為を起こすとは限らない
精神疾患についてお伝えするうえで、まず知っておいてほしい重要なことがあります。
それは「同じ精神疾患を持つ方が、同じ行動を起こすとは限らない」という点です。
精神疾患について厚生労働省は「こころの病気」と表現しています。
体の病気ならば、自分で体調の変化を訴えたり、採血やレントゲンといった検査によって客観的なデータにも表れるため、医師もそれらを参考にしながら病名を確定することができます。
しかし精神疾患はこころの病気であるために、アンケートなどで情報を収集することこそできるものの、医師を含む第三者が状況を正確に把握し、診断を下すことが難しくなっています。
よって内科や整形外科など、ほかの領域では医師が病名を「診断」するのに対し、精神医療では診断名がつけられず、代わりに、「〇〇状態である」という「状態像」と呼ばれる表現でとどめるケースが多くなっています。
「医師が病名を診断せずに〇〇状態でとどめる」という事実は、精神疾患がそれほど多様な症状が複雑に絡み合っており、ひとつの病名に集約することが難しい、ということを意味しています。
よって同じ病名であっても、Aさんは意欲が低下しているが、Bさんは興奮しやすい、というケースは十分に考えられ、その結果「特定の疾患が特定の行動を起こすとは限らない」ということがいえるのです。
感情のコントロールができないことが、暴力行為につながってしまう
こちらの記事(在宅ヘルパーが直面した困難事例!コミュニケーションで解決できた!)の「精神疾患があり、暴力行為を引き起こしてしまう利用者さんへの対応」
でもお伝えしたように、たとえ同じ精神疾患を持っていたとしても、同じ行動を起こすとは限りません。
では、なぜこの事例では暴力行為が引き起こされてしまったのでしょうか?–>日本精神看護協会が公表している「精神科看護ガイドライン2011」では、精神疾患を持つ方の暴力行為について、
「不眠による過敏性や衝動性の高まり、対人間関係や治療環境に由来するストレス、あるいは要求が受け入れられないことによる不満などが攻撃性を高め、時に暴力へ発展する要因になる」
と記しています。
不眠や人間関係のストレス、要求が受け入れられない不満といった状態は、精神疾患を持たない人であっても不快です。
精神疾患がない場合は、その不快な感情をある程度自分でコントロールすることができるため、暴力行為までには発展しません。
しかし精神疾患を持つ方のなかには、こういった不快な感情をうまく自分でコントロールすることができない方もいます。
不快な思いをそのまま怒りという感情に変えてしまった結果、自身の攻撃性を高めてしまい、周囲への暴力行為へと発展してしまうのです。
攻撃性を高める状態像を把握しよう
また、先ほどの精神科看護ガイドライン2011では、攻撃性を高める状態像として、「せん妄等の意識障害」「幻覚妄想状態」「躁状態」を挙げています。
せん妄についてはこちら(認知症とせん妄。2つの疾患を理解し、介護の現場における暴力行為への対策へつなげていこう!)で詳しく解説しているため、ここでは攻撃性を高める症状として挙げられている、「幻覚」「妄想」そして「躁状態」について解説します。
●幻覚(幻聴・幻視・幻味・幻臭・体感幻覚)
人間には、聴覚・視覚・味覚・嗅覚・触覚の五感が備わっています。
五感は耳・目・舌・鼻・皮膚という5つの感覚器がつかさどっていますが、これらが直接感覚を伝えるわけではありません。
感覚器が情報を脳に伝え、脳内で処理されることで、初めて人はその感覚を認識することができます。
しかし幻覚が起こると、感覚器への刺激がないにも関わらず、脳が誤作動を起こしてあたかも本当に見えているかのように認識してしまいます。
実際には存在しないものを、脳が勝手に認識してあるように見せてしまうこの症状は、ご本人にとって心理的な苦痛が大きい症状の一つです。
幻覚を起こしている方に対して、介護者は「実際にはなにも見えていませんよ」と、状況そのものを否定してはいけません。
幻覚が見えてしまうつらさを理解すること。
それが、幻覚が起こっている方の苦しみを軽減させることにつながります。
●妄想
妄想は、現実には起こっていないことが実際に起こっていると考えてしまう症状です。
妄想には、自分が周囲から被害を与えられていると確信する「被害妄想」、自分自身を過小評価する「微小妄想」、逆に自分を過大評価する「誇大妄想」の3つがあります。
妄想がでている方に対して注意しなくてはならないのが、妄想について否定も肯定もしてはいけない、という点です。
妄想を肯定すればさらに妄想が強まり、不安や興奮をあおることで攻撃性を高めてしまうリスクがあるためです。
よって、肯定も否定もせず、妄想がある方の気持ちに焦点をあて共感することが大切です。
●躁状態
躁状態とは、気分爽快、過活動、不眠の3つが病的に表れるのが主な特徴です。
最初は通常の高揚感と区別しにくいのですが、徐々に「私はすごい!」という自己肯定感が強くなってしまい、何日間も眠らずに仕事をし続けたり、夜通し遊び続けるなど、会話が誇大的で精力的となり、睡眠時間もどんどん短くなります。
また、突然不動産や株を購入するなどの無計画な買い物をしたり、おしゃべりが途切れず、一方的にずっと話し続けるようになります。
躁状態はずっと興奮状態が続くため、ささいな刺激に対しても過剰に反応してしまいます。
よって躁状態は攻撃性が高まる症状の一つとされています。
まとめ
精神疾患に対し正確な知識を持っていないのは、一般の人だけではありません。
医療の現場でさえも、正しい知識を持たないまま対応してしまうことで、症状を悪化させてしまうケースは珍しくないのです。
今回ご紹介したことが、精神疾患に対する誤解を解き、精神疾患を持つ方と介護職員双方が安心してケアができる一助になればうれしいです。
参考:
厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス(2018年2月7日引用)
日本精神科看護協会 精神科看護ガイドライン2011(2018年2月7日引用)
山根俊恵著:ケアマネ・福祉職のための精神疾患ガイド:中央法規:東京:2016:pp43-49,pp72-78,pp99-103