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認知症対応、本当にそれでいいの?今こそ見直したい本当の対応術

介護職員として日々接する、認知症の方々。
教科書や参考書にはさまざまな対応方法が記載されていますが、実際にはそれぞれ症状の出現の仕方は違うため、対応に苦慮している方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、筆者が経験した3つの事例から、対応方法を検討していきたいと思います。

物盗られ妄想に対しては一緒に探すことが本当に適切か

認知症の方をケアしていると、どなたでも一度は「物盗られ妄想」を経験されたことがあるかと思います。
この物盗られ妄想は、「大事なものをしまった」という記憶が認知症により忘れてしまっているため、忘れた記憶を補うために「盗られた」というウソの体験をつくりあげることで起こります。
そのため、まず前提として「盗られたという考えを否定しないこと」そして「一緒に探す」対応が奨励されています。
しかし、考えを否定しないことはまだしも、この「一緒に探すこと」は本当に適した対応なのでしょうか?
実際に筆者は物盗られ妄想に対して一緒に探すようにしたことで、逆に利用者さんから「本当はこの人が盗ったのではないか」と疑いをかけられたことが何回かありました。
また、物盗られ妄想の方と一緒に物を探すことができる時間は非常に限られているため、探している途中でほかのスタッフに呼ばれてしまい、結果として一緒に探すことができなかった、という経験を何回もしています。
上田(2016)は物盗られ妄想について、
「本人にほかの誰かに関われるような役割があるか、本人が生きがいをもてる生活になっているかを考えることは、欠かさないようにしたい」
と述べています。
認知症ではない方であっても、物を探しているときは大きな不安感に襲われます。
それが毎日のように続いてしまうのだとしたら、その不安感はかなりのものと推測されます。
そんななか、盗られたと感じるものを介護職員として一緒に探すことは、かえって不安感をあおってしまうのではないでしょうか。
そこで、物盗られ妄想のある方に対しては、物を取られたという思考になってしまうほど、この方は毎日の生活に対して生きがいや、人のために役立つ居場所を感じることができていないのではないか、とまず考えます。
そして、その方に対する情報を集めたうえで、生きがいや居場所だと感じてもらえるための方法を検討することが、結果として物盗られ妄想を減らすことにつながるのではないかと考えます。

帰宅願望が、ある物を渡すことで劇的に改善!?

施設への入居直後など、環境が変わることで認知症の方が落ち着かず、繰り返し家へ帰ろうとしてしまう「帰宅願望」。
この帰宅願望については、繰り返し「ここは施設です。今日はもう遅いので、明日ご家族へ連絡しましょう」と説明し、その都度納得していただく、という対応をとられている方が多いかと思います。
実際に筆者も病院や施設にて帰宅願望が強い方に対しては、そのように対応していました。
しかし、その方は本当にただ家へ帰りたいだけなのでしょうか。
筆者が以前経験した事例を紹介します。
その方は帰宅願望が大変強く、毎日のように「タクシーを手配してちょうだい。家に帰るから」とおっしゃっており、その都度今日はこちら(施設)に泊まることになっていますよ、と説明していました。
しかし何日か説明を繰り返すなかで、その方が突然「お父さんに会いたいの…」とつぶやいたのです。
実はその方はただ家に帰りたいと思っていたのではなく、家に帰れば亡くなった旦那さんに会えると思っていたために、帰宅願望が強くなっていたことがわかった瞬間でした。
すでに亡くなっている旦那さんに再び会わせてあげることはできませんが、筆者はすぐにご家族へ連絡し、旦那さんの写真を何枚か持ってきていただくようお願いしました。
そして、帰宅願望がでたらその写真を見ていただくことで、写真越しに旦那さんに会っていただくようにしたのです。
旦那さんの写真を用意してから、その方の帰宅願望は劇的に収まりました。
そして眠りにつくときは必ずその写真を手元に置き、とても大切そうにされていました。
このように、帰宅願望については利用者さん一人ひとりに「帰りたい理由」があります。
よって、その帰りたい理由を探り、その対応策を考えることで、帰宅願望も収まることがあると考えます。

言葉での対応一つでも、症状は変わる?

認知症の方に対してケアを提供しているなか、突発的に危険な行動をしていたら、つい止めることを優先し「ダメ!」「止めて!」と声をかけてしまいがちです。
しかしこういった行動を抑制する言葉は、言葉による拘束であり、原則廃止とされているスピーチロックと呼ばれる行為になってしまいます。
ある施設では、認知症ケアとしてドラムの即興演奏を行っています。
初めはリズムがバラバラだった方が、徐々にリズムが正しくなり、そろっていく様子が認知症には良いとされていますが、このケアの重要性はドラムのリズム感だけではありません。
演奏が終わったあと、すぐ隣に座った職員が「すごくよかったです」とものすごく褒める、というのです。
この方法は、教育心理学での「即時フィードバック」というものであり、脳を活性化させる効果が期待されています。
この効果、認知症の方に対し、初めにでてくる言葉が「ダメ」などその人を否定する言葉をかけることにも当てはまるのではないでしょうか。
本人としてはなに気なくとった行動に対し、職員が「ダメ」や「止めて」という言葉をかけ続けることで、その方自身のやる気を低下させ、ひいては日常生活における自発的な行動を妨げている可能性があるのです。
危険に直結する場合はやむを得ませんが、日ごろの声掛けにおいて、このスピーチロックという言葉を念頭に置くことで、利用者さんの症状を抑えることができるかもしれません。

まとめ

認知症というと、つい利用者さんを一括りにしてしまいがちですが、実際には一人ひとり個性があります。
しかし日々の業務に追われ、その個性をないがしろにしてはいないでしょうか。
今回ご紹介した対応は、そんな個性を重視した提案の一つです。
ぜひ、教科書や参考書だけに頼るのではなく、利用者さん一人ひとりに合った対応を検討し、随時更新しながら対応方法を探っていただけたらと思います。

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参考:
上田諭:認知症 そのままでいい 「そっとついて歩き…」介護の工夫の「常識」を疑う:メディカ出版:医療と介護Next:2016年2巻2号:p41-43
宮下公美子:地域密着の介護現場から:メディカ出版::医療と介護Next:2016年2巻2号:p73-77
岡庭豊:病気がみえるVol.7 脳・神経:メディックメディア社:東京:p436

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