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事故予防に必要なアセスメント~その人を知ることから始めよう

介護サービスの事故予防において、大事な考え方の一つに
「同じような事故を繰り返さない」
というものがあります。
しかし実際に現場に入ってみると、同じ利用者さんが同じような場所で、同じような事故にあってしまうケースは少なくありません。
ここでは、事故予防を行うためには不可欠ともいえる「アセスメント(情報を得て評価をする)」についてお伝えします。

アセスメントの重要性

介護現場で起きる事故にはさまざまな要因がありますが、共通していえることは「利用者さんへのアセスメント不足」ではないでしょうか。
現場のスタッフにどれくらいアセスメントができているかを確認しても、意外に知らないことが多かったり、職員によっても把握している内容には差があります。
各事業所には専用のアセスメント表があると思いますが、重要視されるのはICF(国際生活機能分類)に基づいてアセスメントを行うことです。

詳しい概念などについては割愛しますが、ICFの考え方は以下のもので構成されており、それぞれが個別に働いているものではなく相互に作用している、というものです。

  • 「健康状態(変調または病気)」
  • 「心身機能・身体構造」
  • 「活動」
  • 「参加」
  • 「環境因子」
  • 「個人因子」

これらの項目について、介護スタッフはどれだけ利用者さんをアセスメントできているでしょうか。
健康状態や心身機能については直接介護を行っているため、ある程度の情報は得られているでしょう。
しかし、環境因子や個人因子については、かなり深いアセスメントが必要になり、あまり把握できていないという介護スタッフは少なくありません。

介護現場において「良いケア」を考えたとき、健康状態や心身機能を把握していれば、利用者さんが望むケアを提供できるといいきれるのでしょうか?
答えは「NO」です。
そもそも事故予防対策は、利用者さんの豊かな生活を保ちつつ、事故リスクを下げるものでなければなりません。
そのためには、利用者さんのことを幅広くアセスメントしておく必要があるのです。

ケアの質も向上する「個人因子」のアセスメントについて

事故予防の本質は、「リスクを下げる」ということにあって「リスクをゼロにする」という考え方ではありません
たとえば、転倒事故が起きた場合は、また転倒しないよう何かしらの対策をとる必要がありますが、「リスクをゼロにする対策」では利用者さんの自由を奪うことにもなりかねません
在宅の利用者さんなら、家族から「足腰が弱っているから外出しないように」などといわれてしまうでしょう。
しかし、散歩をすることが好きな利用者さんであれば、転倒するリスクがあっても散歩に行きたいと思うのは当然のことです。
また、楽しみである「散歩」を奪ってしまうことで、利用者さんの生活にハリや潤いがなくなってしまう可能性もあります。
これに対し「リスクを下げる対策」は、安心して散歩ができる方法を考えることです
まずは散歩に対する利用者さんのアセスメントを行いましょう。
歩くことがとても好きなのかもしれませんし、公園などで会う人たちと井戸端会議を楽しんでいるのかもしれません。
単に「散歩」と評価するのではなく、利用者さんがその行動のなかでどんな喜びを得ているのか、なにを楽しいと感じているのかを、しっかりとアセスメントすることが大切です。
正確なアセスメントができれば、どのような対処法が必要になるのかも必然的にみえてくるでしょう。
介護施設においても、個人因子(性格やクセ、価値観など)を把握しておくことで、ケアの向上や事故予防につながったケースは数多くみられます。
また、散歩などの余暇活動ではなくても「自分のことは自分でしたい」という考えの方もたくさんいます。
ただ心身状態やその行為によっては、転倒などのリスクは高まります。
しかし、「自分のことは自分でしたい」という意志が強いことを事前に把握できていれば、それだけで「スタッフを呼ばずに車いすに移乗してしまう」「食事を急いで食べてしまう」など注意すべき点が明確になり、介護スタッフは本人の意思を尊重しながら声かけを行うことができます。
自力では難しい行為についても、利用者さんの自尊心を損なわないように配慮しながら、支援をすることが可能です。
このように、一人ひとりの状況や考え方によって異なるリスクは、事前にアセスメントしておくことで、そのパーセンテージを限りなく低くすることができるのです。

介護スタッフの感情や環境についてもアセスメントする

事故予防で見落としがちなのが、「スタッフ側のリスク」です。
これは介護スタッフの心身の状態が事故を誘発する可能性がある、ということです。
介護スタッフは、常に心身ともに健康な状態でいることを心掛けていますが、多忙な業務が続いたり、ときには遊びに出かけるなどして、寝不足になっていることもあります。
また、人間関係などの悩みを抱え、イライラすることや落ち込んでしまうこともあるでしょう。
もちろんスタッフは介護のプロですから、どのような状況においても適切な対応を行っていることは間違いありません。
しかし、スタッフも一人の人間です。
さまざまな感情があり、体調がすぐれない日があっても不思議ではありません。
そこで重要になってくるのがスタッフ側のリスクの把握です。
スタッフの心身の状態によって、介護事故のリスクが変動することがないように、スタッフに対してもアセスメントを行う必要があります。
リスクとなりえる要因を早期に見つけ、そのうえで適切な指導や改善を行うなどの対策を講じることが大切です。
そのポイントを2つご紹介します。

1)利用者さんに対するケアの質

スタッフの技量によって、ケアの質が変わるようなことがあってはなりません。
日ごろから介護技術のスキルアップを図ることはもちろん、どのような利用者さんであっても同じ対応がとれるような、相談援助技術(バイスティックの7原則※)の教育も有効でしょう。
また現場のリーダーは、スタッフの心身の状況を常に確認しながら、勤務体制などを考慮することも必要です。
※バイスティックの7原則:7つの原則から成る対人援助の基本となる考え方。

1パターン化しない(個別化の原則)・2本音を引きだす(意図的な感情表現の原則)・3平常心の保持(統制された情緒関与の原則)・4まずは意見を受け入れる(受容の原則)・5良いか悪いかを断じない(非審判的態度の原則)・6補佐役に徹する(自己決定の原則)・7プライバシーを守る(秘密保持の原則)

2)夜勤や残業による心身の負担を考慮する

ただでさえハードな毎日をこなしている介護スタッフにとって、業務の延長となる残業は決して好ましいことではありません。
また夜勤は、人も少なく高い緊張感を強いられることから、一人にかかる負担がどうしても大きくなります。
残業や夜勤をなくすことはできませんが、時間や回数が多くなっていないかなどは常に確認しておく必要があります。
また夜勤では、その過ごし方についても配慮が必要です。
「しっかりと仮眠がとれているか」「徘徊や急変時対応への不安はないか」など、スタッフが困っている点はないか聞き取りを行い、場合によっては早急な業務改善を迫られることもあります。

職員の事故予防意識を高める担当者会議の在り方

管理者がトップダウンで事故予防対策を行うと、どうしてもその考えに現場がついていけないという問題が生じます。
管理者は事故予防のためにさまざまなことを提案するのに対し、現場はこれ以上業務が増えたら事故が起こりかねない、と考えているからです。
事故予防対策をうまく機能させるには、こうした温度差を解消し、介護スタッフの事故予防に対する意識を高める必要があります。
そのために有効なのが、担当者会議の在り方を変えることです。
たとえば今までの担当者会議が、
「利用者さんの心身の状況報告や変更点を確認する場」
となっていたら、
「利用者さんの生活を充実させるにはどうすればいいかをディスカッションする場」
に変えてみましょう。
介護施設に入所している利用者さんをモデルに例を挙げてみます。
昔は熱心に家庭菜園をしていた、と話す利用者さんがいたとします。
やめてしまった理由は、足腰の衰えを感じたせいかもしれませんし、介護施設への入所が決まったせいかもしれません。
ここで、利用者さんの生活を充実させるチャンスが生まれるのです。
「家庭菜園をしていた」という情報を、さきほどの担当者会議にあてはめて考えてみましょう。

  • 1)余暇活動の一環として施設でも家庭菜園をやってもらうことはできないか
  • 2)可能な場合、利用者さんの心身の状況はどうか、安全に作業が行えるか
  • 3)見守りではなく、職員も一緒に行うレクリエーションとして、園芸を取り入れてみてはどうか

この内容のなかには、従来からある「心身の状況確認」だけでなく、「利用者さんの生活をどう充実させていくか」「そのために必要な安全管理はどうすべきか」という2つの項目がプラスされ、結果、事故予防意識につながっています。
もちろん「園芸」という取り組みによって、生活意欲の向上やリハビリ効果(ADLの向上)など、生まれるメリットも多くあります。
さらにADL(日常生活動作) の維持向上が図れれば、利用者さん自身も転倒などの事故に遭う確率を下げることができます。
このように、事故予防に対する意識を高めるには、健康管理一辺倒の観点ではなく、現場のスタッフが聞きとった声を積極的に取り上げ、いかにして利用者さんの満足度を上げていくのかを関係者全員で話し合うことが大切です。
そしてその場こそが、担当者会議なのです。
会議では管理者やリーダーが率先してアセスメントを行い、取り組みによって現場の負担はどのくらいになるのか、その業務にかかる時間帯には職員体制を厚くするなど、安全に配慮しながら提案を行っていきましょう。

関連記事「園芸療法ってどんな効果があるの?介護施設で高齢者の元気を引き出すアプローチ」

まとめ

「事故予防とケアの質向上は対極にあるもの」と捉えがちですが、必ずしもそうではありません。
利用者さんに充実した生活を送ってもらいたいと考えたとき、それをかなえるための行動のなかで、事故予防意識は自然と生まれてくるのです。
そしてその過程には、「利用者さんの希望」「現場スタッフの負担」「管理者の判断」などがありますが、それらはすべてアセスメントによってつながっていきます
より高い事故予防意識を施設全体の共通認識とするために、まずは「その人を知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。

なおリスクマネジメントについてはこちらの記事「老人ホームの管理者が考えるべきリスクマネジメントの体制整備」
言葉づかいのリスクマネジメントについてはこちらの記事「介護職員による言葉の暴力~言葉づかいのマネジメントの必要性について」に記載されていますので、ぜひご覧ください。

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