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化粧療法で心身を元気に!介護従事者が知りたい効果を論文・経験から徹底解説

介護施設などで実施するアプローチとして、非薬物療法に該当するものはいくつか存在します。
今回は、そのなかでも化粧の力を使って人を元気にする「化粧療法」に焦点を当てて解説していきます。
化粧療法の概要をはじめとして、高齢者にどんな効果が期待できるのかなど、化粧療法の導入に役立つ知識をお伝えしていきます。

まずは概要を確認!医療・介護・福祉に活用できる化粧療法

女性の方にとって、「化粧」は慣れ親しんだ作業の一つといえます。
しかし、病気の治療や介護が必要になると、どうしても化粧をする機会が失われてしまうことがあります。
そこで、化粧の力を医療・介護・福祉の分野で活用していこうという考え方に基づき、「化粧療法」が展開されています。
具体的にどのような療法なのかお伝えしていきます。

●化粧療法って?

日本臨床化粧療法士協会によると、化粧療法は、化粧によって心身に起こるポジティブな変化を促すことを目的としたセラピーとして位置づけられています。
「コスメティックセラピー」と呼ばれることもあるアプローチ法です。
また、自分で化粧をするという作業では、心身を活性化させることにつながるため、リハビリの一環としても実施されています。

●化粧療法の対象になる人

化粧療法というと、介護施設で高齢者を対象に実施するというイメージが強いでしょう。
実際、テレビなどでもそうした場面が取材されることが多いです。
しかし、化粧療法の対象となる人は幅広く、手術痕やあざ、シミなどが原因で悩まれている方を対象とするケースもあります。
高齢者や認知症の方をはじめとして、老若男女問わず、幅広い対象者に用いることができるセラピーといえるでしょう。

筆者が経験した化粧療法の効果を感じるエピソード

筆者が作業療法士として見てきた介護現場のなかにも、化粧療法を取り入れている施設がありました。
すべての介護施設で化粧療法が導入されているわけではありませんが、積極的に取り組んでいる例も存在します。
入所者さん・デイサービスの利用者さんに対して行う化粧療法によって、利用者さんの様子が大きく変わるケースも少なくありません

●坂本さん(仮名・70代女性)の事例

筆者の印象に残っているデイサービスの利用者さんで、意欲や気力がわかず、活動性が著しく低下している坂本さんがいました。
作業療法の場面で「したいこと」について尋ねても「なにもない」と答え、興味関心チェックリストなどを用いても、特にこれといった希望が挙げられませんでした。
しかし、機会があって化粧療法を経験したことによって、化粧をする喜びを思い出し、身だしなみを整えて自発的に外出する頻度が増えました
外出によって人と会う機会も増え、コミュニケーションが活性化されたこともメリットとなり、化粧療法の効果がさまざまなところに及んでいることが実感できました。
化粧をする・外出するといった行動が引き出されたことから、生活における活動量が増し、結果的に心身の健康増進につながった事例です。

●前向きな気持ちはご家族にも波及する!

上述した坂本さんの事例では、ご本人の活動的な様子を見て、ご家族も一緒に喜びを感じていたことが印象的でした
一日中ベッドで寝たまま、椅子に座ったまま過ごすのではなく、身だしなみを整えてアクティブに過ごしてくれる姿を見ることは、ご家族にとっても喜ばしいことといえるでしょう。
ご本人だけでなく、周囲の人にも化粧療法の効果は及んでいくのです。

世界でも注目されている!?資生堂の研究報告・論文からわかる化粧療法の効果

日本の大手化粧品会社である「資生堂」が、東京都健康長寿医療センターとの共同研究を実施して、化粧療法の効果を検証した論文を発表しています。
第24回日本老年医学会で優秀論文賞を受賞したことでも注目を集めました。
また、資生堂が手がける化粧療法の取り組みや成果は、海外のメディアでも多く取り上げられており、注目度の高さがうかがえます。
河合ら(2016)が発表した研究では、地域高齢者を対象に化粧ケアプログラムの参加者を募集しました。
この論文では、プログラムに参加した介入群113名と、参加しなかった対照群658名のデータから、化粧ケアの効果を検証しています(実際には解析から除外されたデータも含む)。

●化粧ケアプログラムの内容

この研究で実施した化粧ケアプログラムの内容を要約すると、以下のようにまとめられます。

月に2回、3カ月間、1回60分の美容教室に参加
●教室がない日は、指導内容をもとに朝晩のスキンケアを実施
●毎日のスキンケアは実施記録表をつける
●美容教室はリラクゼーション・ストレッチを含む
●化粧準備(保湿液・下地・ファンデーション)が約10分、各回のテーマに応じた化粧が約20分

「各回テーマに応じた化粧」については、「夏を過ごした肌のお手入れ術」や「彩り鮮やかトータルメークで総仕上げ」など、美容教室のテーマを設定しています。

●化粧ケアプログラムの効果

この研究では、こうした化粧ケアプログラムを行い、介入前後で「主観的健康観」を測定することで、化粧療法の効果を検証しています。
また、主観的健康観に関連するアウトカム指標として、「抑うつ傾向」と「外出頻度」も調査しています。
この論文で提示されている、介入前後における実際の効果については、次にまとめていきます。

●主観的健康観について「とても健康だ」と回答する人の割合は、介入群で14.4%から15.6%に増加し、対照群で12.2%から7.2%に減少した。
●抑うつ傾向の指標では、両群ともに介入前後で有意差はなかった。
●外出頻度では、1日1回以上外出する人の割合が、介入群で93.3%から83.3%に、対照群で89.4%から40.6%に変化した。

※介入群=化粧ケアを実施したグループ、対照群=化粧ケアを実施しなかったグループ

この結果から、化粧ケアを実施した群では、実施しなかった群とくらべ、自分の健康状態について「とても健康だ」と感じる人の割合が増加することが示されました。
抑うつ傾向については介入前後で有意差を認めないものの、化粧ケアを実践した群ではわずかに改善が認められています。
また、外出頻度については、介入前からもともと高い人が多かったこと、秋〜冬にかけて介入期間を設けていたという背景もあり、いずれの群でも介入後には減少しています。
しかし、化粧ケアを実施した群では、そうでない群とくらべ、1日1回以上の頻度で外出する人が多いという結果が得られています。

この文献からもわかるように、化粧ケアによって高齢者が自己に対して「健康だ」と感じるようになることや、季節の影響を大きく受けずに外出頻度を維持させる可能性があることが明らかとなりました。
今回の論文では、外出頻度が高いアクティブな高齢者を対象としていますが、不活発に陥っている高齢者の方でも、化粧療法が効果的に作用する可能性があるでしょう。
身だしなみを整えることで、心を元気にして、さらに体の機能も維持できるのであれば、これほど良いことはありません
介護施設で、レクリエーションやアクティビティの一環として、化粧療法を実践してみてはいかがでしょうか?

まとめ

高齢者では、身体機能や精神機能の低下から、不活発に陥っている方が少なくありません。
そうした方を元気にするための療法には、音楽療法・園芸療法などさまざまなものがあります。
どのようなアプローチが効果を発揮するかは、個人によっても異なりますが、なかには化粧をすることで生き生きと過ごすようになる方もいます。
化粧をすること、身だしなみを整えることの楽しさを感じてもらいながら、高齢者の元気を引き出していきましょう。

参考:
JCTA日本臨床化粧療法士協会 お化粧のちからを必要とされるすべての方へ(2018年3月12日引用)
河合恒, 猪股高志, 他:化粧ケアが地域在住高齢者の主観的健康観へ及ぼす効果−傾向スコア法による検証−. 日本老年医学会雑誌53(2):123-132, 2016(2018年3月12日引用)
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