園芸療法ってどんな効果があるの?介護施設で高齢者の元気を引き出すアプローチ
園芸療法という言葉を聞いたことがあっても、「介護施設で実施するのは大変そう」というイメージをお持ちの介護関係者は多いです。
たしかに、施設で畑を用意して大々的に取り組んでいることもありますが、身近なところから園芸療法を始めることも可能です。
今回は、園芸療法に関心のある方のために、概要や期待できる効果、スタッフの関わり方について解説していきます。
目次
園芸療法ってどんなもの?医療や福祉への活用方法とは
草や花に触れたり、鑑賞したりすることで、「エネルギーをもらえる」と感じた経験をお持ちの方も多いでしょう。
筆者も自宅に観葉植物を置いていますが、水をやったり、眺めたりすることで、なんとなく心がはずみ、元気をもらえるという実感があります。
こうした花・植物の力を、医療・福祉に活用していくという考え方のもとで展開されている、園芸療法についてお伝えしていきます。
●園芸療法とは?
日本園芸療法学会によると、園芸療法は
「医療や福祉の領域で支援を必要とする人たちの幸福を、園芸を通して支援する活動」として定義されています。
つまり、畑作業や植物の手入れなど、園芸の力を医療・福祉において必要な人に役立てていくことが基本の考え方となります。
園芸療法はアメリカで誕生したものであり、日本では本格的に導入されてから20年以上がたっているアプローチです。
日本でも「園芸療法士」という資格が登場し、学術団体もできるほどになりました。
●園芸療法は精神科や介護領域で使われる
医療や介護の現場では、「園芸」の力をケアに生かしていこうという考え方に基づき、「園芸療法」が展開されています。
一般的に治療というと薬を使ったものを連想しますが、園芸療法は薬を使わない非薬物療法の一種に分類されます。
精神科や介護領域で用いられることが多い手法の一つとして普及しています。
集団活動として実施できるというメリットもあり、精神科・介護領域では奏功する例も多いです。
日本においては、介護施設などで園芸療法士を採用しているケースもありますが、リハビリに携わる作業療法士などが、治療や余暇の一環として実践していることもあります。
作業療法では「作業」を使って介入していきますが、園芸がその選択肢の一つになることがあるのです。
高齢者の活動量を増やし、心身を賦活することにもつながるため、園芸療法を実施することは施設のPRポイントにもなるでしょう。
園芸療法で期待できる効果は多様!体力づくりから気分転換まで
園芸療法では、さまざまな良い効果を期待できます。
園芸を行うことによって何らかの効果があることはイメージしやすいですが、実際にその効果を列挙してみると、非常に多様なメリットがあることがわかります。
特に介護施設の高齢者を対象として期待できる効果を解説していきます。
●自然と体を動かす機会になる
園芸療法の種類にもよりますが、畑をたがやす・作物を収穫するなど大がかりな活動では、体を動かす良い機会になります。
いくら「運動してください」といわれても、重い腰が上がらない高齢者も多いですが、目的がわかりやすい園芸という活動は効果的に作用します。
一般的な筋力トレーニングなどとは異なりますが、自然と体力づくりにつながっていくことも、大きなメリットだといえます。
リハビリでは身体機能へのアプローチとして、筋力を鍛えたり、関節を動かしたりしますが、このように「活動」というレベルから機能向上を図ることも重要な役割の一つなのです。
●高齢者の自発的な活動を引き出す
高齢者では活動性が低下している方も少なくありません。
若い頃は仕事や家事、子育てなどで自発的に活動しなければならない環境に身を置いていても、ライフステージの変化とともに「自発性」が失われていく方が多いのです。
もちろんアクティブシニアと呼ばれる人々も存在しますが、役割を喪失したことによって、気力・意欲が減退しているケースがあります。
そんな方が畑や植物の様子を見にいったり、自主的に水やりをしたりすることで、自発的な活動の促進や、役割の再構築に直結することがあるのです。
●他者とのコミュニケーションにつながる
園芸療法を通して、「だんだんと植物の芽が出てきましたね」「みなさんで育てた枝豆はおいしいですね」といった会話に発展することも魅力の一つです。
こうしたコミュニケーションは、個人での活動ではなかなか得られにくいものです。
園芸を集団で行ったり、同じ畑を共有したりすることで、さまざまなコミュニケーションにつなげることができ、これも高齢者にとっては非常に重要な作用といえます。
●気分転換の機会になる
介護施設などに入所している方は、なかなか外出の機会が得られないものです。
いくらレクリエーションなどがあったとしても、施設での生活が息苦しいと感じる瞬間もあるかもしれません。
屋外に出て、風や太陽の光を感じながら全身を動かす時間を持つことで、気分転換を図ることができます。
●季節感を味わうことができる
屋外での活動や、種まき・芽吹き・開花・収穫などのプロセスを通じて「季節感」を味わえることも、園芸で期待できる効果の一つです。
外に出る回数が減り、四季を感じる機会が少なくなると、どうしても五感を刺激するものがなくなっていきます。
認知症の検査で季節を問う質問があることからもわかるように、季節感を感じることは非常に重要です。
介護施設では季節に応じた装飾を施すなどして季節感を演出しますが、実際に五感から得られるリアルな感覚に勝るものはないでしょう。
このように、園芸療法ではさまざまな効果が期待できます。
どれも高齢者のニーズには合致しているといえるので、日々のアプローチにぜひ園芸の力を取り入れてみてください。
現場スタッフは園芸療法で得られる「心身の変化」を見逃さない
園芸療法は、植物を育てること自体に意味があるのではありません。
なにかを収穫することや、花を咲かせることに価値を置くのではなく、植物を育てる過程で得られる「心身の変化」に意味があります。
「療法」の一環として実施する以上、単なる園芸活動で終わらせずに、心身の変化を分析していくことが必要といえます。
作業療法士などの職種では、患者さんの身体機能や認知機能、精神機能を「評価」するプロセスがあります。
これと同様に、園芸療法を通じて、それぞれの機能がどのように変化したのかを分析することが大切です。
介護職の方も、園芸活動によって利用者さんの反応や発言、活動性、自主性などがどう変わったのかを、ぜひ注意深く観察してみてください。
そうした変化に、園芸療法の意義や効果を見いだすことができるのです。
これならカンタン!毎日の生活・関わりに取り入れたい「プチ園芸」
介護施設では、立地・敷地・人員などの面で、畑や花壇を使った大々的な園芸療法を実施できないケースも少なくありません。
また、寒冷積雪地では、冬場に屋外で園芸療法を行うことは難しいといった側面もあります。
そうした場合でも、園芸療法の実施を諦めず、まずは施設のなかでできる「プチ園芸」を試みてはいかがでしょうか?
- ●施設内に観葉植物を置き、水やりなどの役割を担ってもらう
- ●屋内でも育つ植物のプランター栽培をする
- ●生花・ドライフラワーなどを用意して手工芸に挑戦する
上記のような取り組みでは、大きく体を動かす機会は得られませんが、園芸によるさまざまな恩恵を得ることは可能です。
こうした活動を実施する際は、職員から「◯◯さんの作品は夏らしくていいですね」「いつも水やりをしてくれて助かっています」とポジティブな声かけをすることがおすすめです。
同じことをするのでも、スタッフの声かけが加わることで、得られる効果が大きくなるのです。
こうしたコミュニケーションに発展することも園芸療法の醍醐味なので、職員の方は積極的に声かけをしてみてください。
まとめ
今回ご紹介したように、園芸という活動によってもたらされる恩恵は非常に大きいです。
介護施設で園芸療法やその要素を持つ活動に取り組むことで、利用者さん自身に恩恵があるだけでなく、ご家族の方にも「こんなに生き生きと楽しく過ごしているのだな」という安堵感を持ってもらうことができます。
園芸の魅力を活用して、高齢者の心身を賦活するとともに、施設全体の魅力を高めてみてはいかがでしょうか?
参考:
日本園芸療法学会 園芸療法とは(2018年3月11日引用)
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辻 さん
2021年9月19日 4:22 PM
全てのお話しに感激しております。
是非早速園芸療法師さんがいらっさゃる通所リハさんを母に母にすすめる事が出来ます。
ありがとうございます☺