介護報酬改定から見る今後の特別養護老人ホームの運営方針の重要性
2018年度(平成30年度)介護報酬改定の報酬単価が発表されています。
今回の介護報酬改定の内容については、医療との連携が色濃くでていますが、特別養護老人ホームにおいても同様です。
ここでは、特別養護老人ホームの報酬改定の内容と今後の方向性について考えてみます。
特別養護老人ホームはたいへん厳しい経営状況にある
独立行政法人福祉医療機構(WAM)発表のデータによりますと、特別養護老人ホームの経営状況については、とても厳しいものになっていることが読み取れます。
このデータの中で、特別養護老人ホームの収益性が把握できるものとして「サービス活動収益対経常増減差額比率」があります。
これは、高いほど収益性が良好だと判断できるものです。
⚫サービス活動収益対経常増減差額比率
従来型特養 | ユニット型特養 | |
---|---|---|
2014年度(平成26年度) | 3.5% | 6.7% |
2015年度(平成27年度) | 3.2% | 6.2% |
2016年度(平成28年度) | 2.7% | 5.5% |
共にどんどん低下していることが分かります。また入所利用率の低下も考えられます。
⚫入所利用率
従来型特養 | ユニット型特養 | |
---|---|---|
2014年度(平成26年度) | 95.7% | 95.7% |
2015年度(平成27年度) | 95.6% | 95.0% |
2016年度(平成28年度) | 94.8% | 94.4% |
こちらも共に低下傾向です。
さらに人件費率が上昇していることが原因に挙げられるでしょう。
⚫人件費率
従来型特養 | ユニット型特養 | |
---|---|---|
2014年度(平成26年度) | 64.2% | 60.5% |
2015年度(平成27年度) | 64.9% | 61.5% |
2016年度(平成28年度) | 65.5% | 62.2% |
と上昇傾向であることが分かります。
このような状況から、赤字に陥っている特別養護老人ホームもたいへん多くあるのが現状です。
2015年度(平成27年度)には、ユニット型特養の47.9%が赤字経営になっていることも分かっています。
このような状況の中、2018年度(平成30年度)介護報酬改定を迎えることになります。
特別養護老人ホームの経営状況を改善するための鍵はあるのでしょうか。
次の章で詳しく見ていきたいと思います。
2018年(平成30年度)介護報酬改定は医療連携がキーワード
2018年(平成30年度)介護報酬の単位数について厚生労働省から発表されています。
この内容から、今後の特別養護老人ホームにおける国が考えている方向性を見ていきたいと思います。
厚生労働省発表の新報酬単価を見てみますと、基本報酬については従来型特養、ユニット型特養、すべて引きあげされていることが分かります。
さらに加算創設が多くあることが分かります。
新設された加算や見直しがされた加算のうち、特徴的なものをご紹介したいと思います。
1)配置医師緊急時対応加算
医師との連絡方法などの取り決めや連携、24時間対応できる体制づくりなどの評価。
2)生活機能向上連携加算
訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションのリハビリテーション専門職との連携や計画的な機能訓練の実施を評価。
3)排せつ支援加算
排せつにかかる状態の軽減に対する評価。
4)褥瘡マネジメント加算
褥瘡の管理に対する評価。
5)低栄養リスク改善加算
低栄養状態を改善するための栄養ケア計画の作成に対する評価。
6)夜勤職員配置加算(Ⅲ)(Ⅳ)
喀痰吸引等の実施ができる介護職員の配置を評価。
7)看取り介護加算(Ⅱ)
医師との連携の方法や、複数名の医師を配置しているなどの評価。
ほかにも新設、見直しの加算はありますが、ここで紹介したものについては、医療連携にかかる加算になります。
冒頭にも申しましたが、今回の介護報酬改定は医療連携が色濃くでていることが分かります。
特別養護老人ホームだけではありません。
今後、医療と介護は同時に報酬改定が行われていくことになっていますから、この流れは今後も続くものと考えていいでしょう。
ハードルが高い加算の取得
単純にいいますと、今回の特別養護老人ホームの介護報酬については基本報酬がアップしていることと、加算のオンパレードによって、収益状況は改善するものと考えられます。
しかし、加算を取得していくためにはかなりの労力を必要とします。
医療との連携が条件になっていますので、実際、特別養護老人ホームに配置されている産業医がどこまで協力できるかということがネックになってくる施設も多くあると思います。
医師が常駐している施設においても、特に夜間においてどのように対応するかは検討材料になるでしょうし、非常勤で配置している施設であればさらにハードルは高くなるのは間違いありません。
夜勤職員配置加算においては、今まで喀痰吸引等の実施ができる介護職員の育成に積極的に取り組んできた施設であれば、取得可能な加算だと思います。
しかし、この喀痰吸引等の実施ができる介護職員を1名育成するだけでも相当な労力がいりますから、今後も加算取得は大変なものになるでしょう。
排せつ支援加算については、加算取得してもそもそもの要介護度が下がってしまう可能性もあります。
看取り介護加算、褥瘡マネジメント加算、低栄養リスク改善加算などについては、カンファレンスの開催、計画書の作成など、とても手間が必要になる加算です。
現状の業務に追加して加算を取得することは、職員の負担を考慮し、どのように進めていくことがいいのか、しっかりとした検討が必要になるでしょう。
そのためには、2018年4月以降の施設の体制について、事業計画などの見直しを図りながら、進めていかねばなりません。
まとめ
特別養護老人ホームの介護報酬改定について、お伝えしました。
今回の介護報酬改定は、ある意味、今後の特別養護老人ホームの方向性を決定づけされたものであるように思います。
終の住処としての機能を充実させ、利用者が安心して生活できるように目指したものであるといえます。
その意味を理解して、今後の運営を行っていくことができなければ、さらに運営が厳しくなっていくことは間違いありません。
参考:
独立行政法人福祉医療機構(WAM) 平成27年度 特別養護老人ホームの経営状況について(2018年2月13日引用)
独立行政法人福祉医療機構(WAM) 平成28年度決算分 特別養護老人ホーム 経営分析参考指標(2018年2月13日引用)
帝国データバンク 医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査(2018年2月13日引用)
厚生労働省 2018年度(平成30年度)介護報酬改定 介護報酬の見直し案(2018年2月13日引用)