リハビリで使えるバランス訓練の道具6選 手軽な器具から本格的なリハビリ機器まで
理学療法士や作業療法士が行うリハビリで、「バランス訓練」は定番のプログラムです。
バランス機能を高める訓練をすることは、転倒予防の観点でも重要になります。
今回は、リハビリで行うバランス訓練で役立つ道具を6つご紹介するので、訓練の幅を広げる上でご参考にしてください。
目次
バランス訓練を始める前に!高齢者のバランス機能をチェック
バランス機能の訓練を開始する前には、十分な評価を行うようにしましょう。
まずは、バランス機能に関する評価の視点として、いくつか例をお伝えしていきます。
- 1.座位・立位を保てるか
- 2.不安定さはないか
- 3.背もたれ・手すりなどの補助が必要か
- 4.自分で重心移動できるか
- 5.どれくらい上肢を動かせるか
- 6.外乱に対する立ち直り反応や踏み出し反応があるか
- 7.姿勢保持のベースとなる筋力はあるか
座位・立位のどちらのバランスを訓練したいのか、どのレベルで機能を高めていきたいのか、目的によってアプローチは変わってきます。
座位バランス・立位バランスのどちらを訓練するにしても、どんなトレーニングが必要なのか検討し、リハビリで使う道具・器具類を選んでいきましょう。
リハビリで活用したいバランス訓練の器具・機器6選
特別な道具を使わなくても、片足立ちや重心移動などのバランス訓練は行えます。
しかし、必要に応じて器具を活用することで、セラピストが意図する運動を引き出しやすくなります。
次にご紹介するバランス訓練のツールのうち、まだ導入していないものがあれば視野に入れてみてください。
1.リハビリの定番!使い道が広がる「ボディボール」
バランスボールの名称でも親しまれているこちらのボールは、高齢者でも利用しやすいため、施設に一つは用意しておきたい道具です。
利用者さんがボールの上に座り、ボールが転がる特性を生かしながら、座位バランスを訓練できます。
ボールの傾け方や揺らし方によって難易度の段階付けが可能となりますし、輪投げなどのアクティビティをプラスして重心移動を引き出すこともできます。
空気の入れ方によってもバランスの取りやすさは変わり、空気が入っているほどボールがよく転がるため難易度は上がります。
また、反射的な姿勢制御を促したければ、素早くボールを揺らすなど、セラピストが手で外乱刺激を加え、立ち直り反応を誘発することもできます。
バランス訓練のほかに、ストレッチにも使えるので、使い道が広がるアイテムです。
2.外乱に耐えうるバランス機能を鍛える「ロッキングボード」
ロッキングボードは、バランスボードとも呼ばれるトレーニングツール。
ボードにボスを取り付けることで不安定面を作り、バランス機能の向上を図ります。
高齢者には難易度が高いというイメージをお持ちの方も多いですが、取り付けるボスには大小あり、段階付けが可能です。
また、手すりにつかまりながらバランスを取ることもできるため、実施時の条件設定によっては高齢者のリハビリにも使えます。
立位バランス訓練はもちろん、足首まわりや足指の筋力トレーニングにもつながります。
3.座位・立位バランス訓練に使える「バランスクッション」
不安定なクッションの上に立つ・座ることによって、バランス機能の訓練につながります。
2つのクッションを並べ、足を片方ずつ乗せて立つだけでも訓練になりますが、軽いスクワットなどを行って重心移動を大きくするほどトレーニングのレベルは高まります。
また、座位バランスの安定が目標という方も、端座位が十分に安定していたら、その次のステップとしてバランスクッションを使うことができます。
バランスクッションをお尻の下に敷いて座ることで生じる不安定さを利用して、座位バランスの強化につなげていきます。
利用者さんのレベルに合わせて、リーチ動作を引き出したり、体幹を回旋させたり、棒体操をプラスしたりして、段階付けを行いましょう。
4.柔らかな支持面でバランス感覚を鍛える「バランスパッド」
やや弾性のある柔らかい素材でできたパッドであり、この上に立つだけでも、硬い床の上で立つときとくらべて不安定性が増します。
ロッキングボードやバランスクッションのように支持面が動くことはないため、比較的多くの利用者さんが使いやすいトレーニングツールです。
バランスパッドの上に立ちながら、つま先と踵に交互に体重をかけたり、膝関節の屈伸を行ったりすることで、重心のコントロールを訓練できます。
5.狭い支持面でバランスを保ちながら歩く「バランスビーム」
バランスビームは、平均台のような見た目のバランストレーニング器具です。
先にご紹介したバランスパッドと同様に、柔らかな素材でできているため、より不安定さがある条件下で訓練を行うことができます。
バランスパッドと比較すると、細長い形状であるため支持面が狭くなり、その中で重心をコントロールしていくことが特徴的です。
厚みは55mmほどなので、恐怖心を感じにくく、バランスを崩したときも踏み出し反応で足をつける高さなので安心です。
踵とつま先を近づけてタンデム歩行のような歩き方をすれば、さらに支持面が狭くなるため、よりレベルアップしたバランス訓練を行えます。
なお、こちらのバランスビームは折りたたみ式であるため、収納時に省スペースで済むという利点があります。
6.振動するボードに立って使う本格派の機器「シェイキングボード」
シェイキングボードは、振動するボードの上に立って使うトレーニング機器です。
外乱刺激に対する姿勢制御をトレーニングすることが可能となります。
このリハビリ機器では、一定モード・ランダムモードを搭載しており、レベルは8段階で設定可能であるため、利用者さんのレベルに応じた段階付けも簡単です。
また、基本的にボードに立ってバランスを取るだけで済むため、高齢者が気軽に利用できるというメリットもあります。
今回ご紹介したほかのトレーニング器具と比較すると大型の機器ですが、施設に設置するとPRポイントの一つになるかもしれません。
バランス機能の訓練効果は、定量的な評価でとらえていこう!
バランス機能の評価方法には、ファンクショナルリーチテスト(FRT)やTimed Up and Go Test(TUG)、片脚直立検査などが挙げられます。
特に立位バランスの評価は定量的に実施できるものが多いため、訓練の前後で生じた変化をとらえるために活用していきましょう。
ただし、「FRTは介入前よりも伸びたけれど、TUGの結果には変化がない」というように、結果に違いが出る場合はあります。
たとえば、バランスクッションの上に立つ訓練であれば、基本的に静的バランスのトレーニングになります。
その場合は、TUGのように動的な指標よりも、FRTや片脚直立検査など支持面が変化しない検査に効果が反映されやすいと仮説を立てることができます。
「バランス機能」にはさまざまな要素が含まれているので、仮説を立て、それを検証していく姿勢も大切です。
なお、リハビリで積極的に行っていきたい定量的評価については、こちらの記事(ここで差がつく!優秀なPT・OTは必ず実践している患者の定量的評価のススメ)で解説しています。
計測が便利になるリーチ計測器の情報はこちらの記事(デジタル式のリーチ計測器!?スピーディな測定でリハビリ業務を効率化)でご紹介しています。
定番のバランス訓練も器具・機器の活用で幅が広がる
さまざまなリハビリ器具・機器がそろっていると、定番の訓練であっても、幅が広がっていきます。
今回ご紹介した器具・機器を導入することで、利用者さんのレベルに応じたバランス訓練を提供しやすくなります。
そして、十分な器具や機器を用意していると、利用者さんやご家族の目線でも「リハビリを一生懸命やっている施設」という印象を受けるものです。
リハビリ室のアイテムを少しずつ充実させてみてはいかがでしょうか。
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士