カナダの認知症患者向け施設がハイテク!AI技術やスマートセンサーを導入した海外の取り組み事例
認知症の方のケアを行う施設は、国内外に数多くあります。
海外の事例から学びとれることも多く、介護施設の経営やケアの質向上のためのヒントが得られます。
北米・カナダでは、認知症の方を対象とした施設を建設予定であり、AIやセンサーなどさまざまなテクノロジーが導入されることから注目を集めています。
目次
認知症の入居者が暮らすハイテク施設がカナダで建設予定
カナダのハミルトンで、認知症の方が48名暮らすことのできるハイテク施設「Ressam Gardens」の建設が進められています。
認知症の方を対象としている、高度なテクノロジーを活用した施設が誕生するのは、北米で初めてのことです。
このプロジェクトは、マクマスター大学工学部の教授によってデザインされたものであり、1,600万ドルものコストをかけて建設される予定です。
この施設では、人工知能(AI)やセンサーなどのテクノロジーを導入することが特徴になっています。
テクノロジーを使用する目的は、入居者のケアを支援するほかにも、認知症やアルツハイマー病の研究をすることにもあります。
施設の1階は、マクマスター加齢研究所とマクマスター大学の研究者が使用することになっており、研究なども進められる見通しです。
このプロジェクトに携わっているLotfi Belkhir氏は、ここで暮らす人々を対象として技術を開発・テストすることから、「生活の場にある研究室(living lab)」と呼んでいます。
さらに、メインフロアには治療センターや医療クリニックを設ける予定であり、トレーニングのプログラムには、大学院生や研究者などが従事する予定です。
施設の設備が充実しているだけでなく、研究成果や知見を得て、それをまた社会に還元していくことを目指している点で、ユニークな海外事例といえます。
Ressam Gardensは、2020年の12月にオープンする予定となっています。
AIやセンサーも!Ressam Gardensに導入される予定のテクノロジーとは
2020年のオープンに向けて、すでに準備されているテクノロジーもあります。
また、これから開発や準備を予定しているセンサーやAIなども存在します。
現時点では具体的な内容については決まっていない技術もありますが、すべてが設備に加わると、まさにハイテク施設という雰囲気になるでしょう。
●呼吸モニタリングと転倒検出の技術を準備中
2019年4月の時点で、呼吸パターンの遠隔モニタリング、転倒予防と転倒の検出をするシステムの準備が進められています。
呼吸パターンのモニタリングでは、赤外線イメージングを用いて、呼吸の障害を早期に評価することを目的としています。
また、転倒に関するシステムでは、赤外線カメラを使用して歩行パターンを分析します。
潜在的な転倒の可能性を早期に警告したり、転倒が発生したときにすぐに検出したりすることを目的としています。
そして、転倒に関する治療の一環として、転倒時の記録を振り返る機会を提供することができる点にも恩恵があります。
●導入を予定しているテクノロジーも
Ressam Gardensは、さまざまなテクノロジーを備えた、新しいタイプの施設になります。
将来的なプロジェクトとしては、次のような仕組みの導入を視野に入れています。
- ●高齢者のためのスマートな暮らしの空間
- ●生体モニタリング機器
- ●AIを用いたプロジェクト
- ●ドアの出入りのトラッキングシステム
- ●データのサイバーセキュリティ
- ●電動車椅子、電動自転車、ゴルフカート
また、このプロジェクトを設計したAl-Mutawaly氏によれば、GPSのシステムがあれば、屋内外で入居者の居場所を追跡できるとされています。
入居者の行方がわからなくなったときに、GPSによりスタッフがすぐ発見できる体制が整っていれば、認知症のある方やご家族が安心できるでしょう。
オランダの認知症村「ホグウェイ(Hogeweyk)」を参考にデザイン
Ressam Gardensのデザインにあたって参考にした、オランダの「ホグウェイ」という認知症村があります。
2009年にオープンしたホグウェイで暮らしているのは認知症の方だけであり、敷地内には、住居だけでなく、スーパーやカフェ、クリニック、美容院などがあります。
認知症の方が暮らすコミュニティが形成されており、住民が自由に日々の生活を楽しんでいます。
Ressam Gardensは、ホグウェイのように「村」というわけではありませんが、認知症のある方がコミュニティの中で安心安全に暮らせる点では共通しています。
日本では認知症ケアといえば、「どうすれば徘徊がなくなるか」など、その人の行動を問題ととらえて対応するような場面も少なくありません。
しかし、海外の事例をみてみると、基本的には自由に暮らしてもらい、必要な見守りをしていくという前向きな気持ちで対応しているケースもあります。
なお、オランダの認知症村については、こちらの記事(住民は認知症患者のみ・オランダの革新的な村ホグウェイ(Hogewey)から学べること)でも解説しているため、ご興味のある方はご一読ください。
日本の介護施設でも認知症ケアをスマート化
今回ご紹介した海外事例では、潤沢な予算があり、さまざまな仕組みを盛り込んでスマート化を実現しようとしています。
日本の介護施設やグループホームで同じように設備を整えることは、コスト面で難しい部分もあります。
しかし、ケアの質をあげたり、スタッフの負担を減らしたりする目的で、優先度が高いと判断される仕組みは、予算と相談しながら導入を検討してみても良いでしょう。
なお、認知症ケアにおいて活躍が期待されているAI、テクノロジーの例は、こちらの記事(認知症ケアにAIを活用できる?予防や介護に役立つテクノロジーの例をご紹介)でもご紹介しています。
参考:
North America’s first smart-tech care home for patients with dementia and Alzhemier’s being built in Hamilton.(2019年6月27日引用)
Ressam Garden Memory Care Retirement Home & Smart Living Lab.(2019年6月27日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士