⽼健⼊所でのリハビリに悩むリハ職必⾒!介⼊⽅法の⼯夫を具体的に解説
介護老人保健施設の入所(以下老健入所)で働く場合、どのような関わりを持っていけばいいのか悩む方も多いのではないでしょうか。
「リハビリテーション施設」といわれるものの、個別の介入やリハ職の人数は少なく、経験の浅いリハ職はもちろん、回復期病院やクリニックで働いてきた経験者も戸惑うことも多いかもしれません。
そこで、入所で10年以上働いてきた経験をもとに、老健入所での関わり方の工夫を紹介します。
老健入所では生活リハビリの視点が重要
病院やクリニックと違い、老健入所は病気や障害の治療よりも、在宅や別施設で生活を送るために必要なADL・IADLのリハビリを中心とする施設です。
そのため、利用者さんが施設内で生活する場面全てをリハビリとして捉えて、リハ職として介入したり、多職種に適切な介助方法や介助量を伝えたりする視点が必要です。
具体的には以下のような「生活リハビリ」を実践します。
●トイレ
トイレの介助現場にリハ職が関わり、動作や介助量、介助方法や福祉用具使用の必要性を確認します。
必要に応じて、リハ職がトイレ介助を実施して、評価や動作練習をしていくことが重要です。
※トイレでのリハビリについての詳細は、「トイレ動作のリハビリを徹底ガイド|着眼点・動作練習・心理面への配慮まで」で紹介しています。
●入浴
施設での入浴は家庭浴や大浴槽、リフト浴などいくつかのタイプがあります。
実際にゴールとなる環境を想定した浴室を利用して、評価・練習をすることが必要です。
※入浴に必要な評価・介入、環境設定の方法は、「入浴動作のリハビリで使える!評価・介入のポイントから環境設定の知識まで解説」で解説しています。
●食事
食事場面では、姿勢調整や補助具の選定、嚥下評価などを実施して、食事動作の自立や誤嚥の予防を目指します。
※食事姿勢についての内容は「姿勢を見直して誤嚥を減らそう!誤嚥性肺炎予防のためにできること」で解説しています。
●IADL(掃除、料理、洗濯など)
病院では作業療法士がIADLの練習をします。
老健でも作業療法士が個別にIADLの評価・練習をしますが、その他の時間でも利用者さんにできるだけ関わってもらうことが生活リハビリとなります。
たとえば、フロアの掃除を手伝ってもらったり、スタッフがする洗濯を手伝ってもらったりすることで、IADLの練習につながります。
※IADLのリハビリについては、「IADL訓練とは?基本項目から訓練方法・環境調整まで幅広く解説」で詳しく紹介しています。
●余暇活動
在宅復帰した後の目標として、余暇活動が挙げられる場合は、入所中から実施していくことも生活リハビリです。
利用者さんの目標とする余暇活動をしっかり把握して、レクリエーションを工夫したり、参加を促したりします。
以上のように、さまざまな生活場面が利用者さん一人ひとりの目標に合わせたリハビリ現場になります。
老健では、以上のような考え方をリハ職が理解して、積極的に生活の場面に関わっていくことが重要です。
多職種協働の意識を持とう
老健ではリハ職だけではなく、医師、看護師、介護福祉士、ケアマネジャー、管理栄養士、歯科衛生士など多くの職種が働いています。
その中で、「多職種協働」の視点を持って働くことが重要になります。
なぜ多職種協働でなければならないのか、どのようなメリットがあるのかを解説します。
●多職種協働ができなければリハビリの効果は減少
老健は生活リハビリが重要であることは解説しました。
しかし、リハ職がすべての現場で働けることは多くはありません。
実際、老健では回復期病院にくらべ個別リハビリとして加算が算定できる回数や時間は限られています。
そのため、リハ職が20分ほどの個別で関わる時間だけを重視していると、残りの23時間以上の十分なリハが提供できず、リハビリの効果は減ってしまいます。
そこで、リハ職は自分たちが直接的に関わることばかりにとらわれずに、多職種が利用者さんの目標に向かって生活リハビリを実践できるように、協働するための工夫をすれば、24時間365日、切れ目のないリハビリが実践できます。
※老健でのリハビリ回数については、「老健ではどれくらいリハビリできるの?リハビリ回数や内容を現役理学療法士が解説します」
●多職種協働を成功させるためのポイントは「居室のあるフロア内でのリハビリ」
リハ職がリハビリを実施する場所は、「リハビリ室」であることが多いです。
しかし、それでは、他職種のスタッフから見て、リハ職が何をしているのかわかりません。
逆に、リハ職も他職種がどのような介護・看護をしているのかわかりませんし、そもそも利用者さんの生活状況を把握しそびれてしまいます。
そのため、リハ職も「居室のあるフロア内」でリハビリを実施することがオススメです。
●他職種の現場に積極的に関わり同じ現場を共有
リハ職が口頭で利用者さんの自主練習の補助や介護方法の助言を他職種にしても、うまく実施してもらえない経験のある人も多いのではないでしょうか。
それは、他職種の業務の流れや忙しさなどを理解しないまま一方的に依頼をしているためです。
そのため、関わり方の助言に関して、「〇〇のようにやってください」と一方的に口頭で伝えるだけでなく、しっかりと介護や看護の現場に関わりを持ち、お互いの専門性を生かしながら介入することが重要です。
たとえば、介護福祉士がトイレ介助をしている場面に一緒に入って、介助のアドバイスや利用者さんのできる動作の説明などを実施します。
また、シーツ交換など一見リハ職が全く関係のなさそうな仕事でも、利用者さんの生活環境のチェックや多職種での情報交換、業務内容の把握など、さまざまメリットがあります。
リハ職が手伝ったことで時間が空いたぶん、利用者さんのリハビリを実施してもらうこともできます。
結果として、リハ職からの依頼も他職種にスムーズに伝わり、お互いの信頼関係の構築につながります。
以上のような関わりをする時間を作るためにも、前述したリハビリ場所の工夫が重要になります。
施設の外へ出る意識を!真の生活場面を知ってこそ十分な関わりが可能
老健入所は通所リバビリや訪問リハビリにくらべ、施設内にとどまって働くイメージが強いかもしれません。
しかし、入所だからこそ、積極的にリハ職が施設の外へ出る意識を持つ必要があります。
●退所先へ訪問は必須
老健は生活リハビリが重要といっても、どうしても退所先である「本当の生活現場」での活動とは異なります。
そのため、自宅にしろ、他施設にしろ、真の生活場面を把握して介入することで、目標設定や関わり方が大きく変わってきます。
リハ職が積極的に施設の外へ出る流れを作り、生活現場の評価をした上で、多職種で生活リハビリを実施すれば、非常に理想的な介入ができます。
そのため、入所前後訪問や退所前後訪問を積極的に活用して、利用者さんの退所先に赴くようにしましょう。
●地域貢献活動にも積極的に参加しよう
老健は地域の中核施設として、地域の中で介護が必要な方の在宅生活を支える施設です。
そのため、リハ職が地域住民と顔の見える関係ができていると、利用者さんの在宅復帰や在宅生活の支援に以下のようなさまざまメリットがあります。
- ○家族と顔の見える関係が作れる
- ○退所先の社会資源の把握ができる
- ○施設のアピールができる
老健では、一人ひとりの生きがいや社会参加を目標に設定したリハビリが重要視されています。
そのため、ただ在宅に帰ればいいというわけではなく、その先も見据えた関わりが重要です。
そこで、地域のサロンや催し、介護予防教室など地域貢献活動に積極的に関わるようにしましょう。
老健入所での介入方法を知ってやりがいを持って働こう
老健入所は多くの職種がリハビリの視点を持って、在宅復帰を目指したり、在宅での生活を支えたりする施設です。
そのため、リハビリの専門職であるリハ職の役割は大きく、やりがいを持って働くことができます。
しかし、ただ漫然と個別的なリハビリをしていくやり方では、老健で働く魅力ややりがいを感じられない可能性があります。
ご紹介したような、介入方法を参考にして、「チームで働く楽しさ」、「みんなでリハビリを実践する楽しさ」を感じていただければ幸いです。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級