ケアマネジャーの業務軽減のための政策~「ケアプラン標準仕様」について
ケアマネジャーの業務負担が社会保障審議会においても問題とされています。
そのため厚生労働省は「ケアプラン標準仕様」を作成し、負担軽減につなげようとしています。
今後「標準仕様」はどうなっていくのかお伝えしていきます。
「ケアプラン標準仕様」の背景
ケアマネジャーの業務負担は国においても問題視されています。
専門性を発揮することができず、質の低下が懸念されているのです。
そのため厚生労働省の社会保障審議会においては、業務の効率化を図るために、各介護サービス事業所間で相互にデータのやり取りができる実証研究を実施しています。
●ケアマネジャーの業務の実際と問題点
介護サービスの現場においては、互換性の違いによって他事業所間のデータをやり取りすることができません。
情報共有したいデータについては、FAXなどによって紙媒体でやり取りを行い、情報共有する仕組みになっています。
しかしこれでは、他事業所が作ったデータをパソコンに再入力しなければならず、その作業だけでも多くの時間を費やしている実態があります。
これは各事業所において、異なる介護ソフトを活用しているからで、フォーマットの統一化を指摘する声が以前から大きくあったのです。
●「ケアプラン標準仕様」のイメージ
現在、居宅介護支援事業所と介護サービス事業所において、情報提供しなければならない書類は数多く存在します。
「アセスメント」「居宅サービス計画書」などといった、現場におけるサービスに必要な情報から、「予定表」「給付実績」などといった給付管理に必要な情報も存在します。
また医療機関との連携においても、「入院時情報提供書」「退院・退所時情報記録書」といった仕様書を作成しなければなりません。
これらの書類が統一のフォーマットによって作成することになりますので、すべてデータでのやり取りが可能となります。
「ケアプラン標準仕様」にするための補助金制度
「ケアプラン標準仕様」を導入するためには必要な介護ソフトを導入することが不可欠です。
しかし新たな費用負担のために導入をためらっている居宅介護支援事業所も存在します。
そのため国は業務改善支援のために、「ICT導入支援事業」「介護事業所に対する業務改善支援事業」を2019年に新設されています。
積極的に制度を活用し業務効率の改善化に取り組むことを期待した制度ですが、どのような制度なのかご紹介しましょう。
●「ICT導入支援事業」の内容
「ICT導入支援事業」とは、必要なソフトや端末などを導入するための費用を助成する事業です。
居宅介護支援事業所だけではなく、すべての介護サービス事業所が対象となっています。
補助される経費については、ソフトだけではなくパソコンやタブレット端末などのハードウェアやクラウドサービス、保守・サポート費用なども対象となっています。
ただし居宅介護支援事業所については、冒頭から述べている「ケアプラン標準仕様」に準じたソフトが対象となっています。
助成費用については対象となる介護ソフトやタブレット端末の半分までとなっていて、上限は30万円までとなっています。
●「介護事業所に対する業務改善支援事業」の内容
「介護事業所に対する業務改善支援事業」とは、ICT化だけではなく介護ロボットなども含めて職員の負担軽減の支援を行う事業です。
業務改善の後押しを行うなかで、取り組み事例を集約し、その事例を地域で共有してノウハウを活用していくことが目的となっています。
そのため業務改善の支援が必要な事業所が利用できる事業となっており、事業者団体などから推薦が必要となります。
また補助金を受けた後においても、業務改善にかかる成果を報告する義務があります。
助成費用については対象となるソフトや端末の半分までとなっていて、上限は30万円までとなっています。
「ケアプラン標準仕様」によって業務はどのように変化するのか
- ●業務負担が大幅に軽減される
- ●ICT活用による介護サービス同士の情報連携の推進
- ●医療と介護の情報連携の推進
「ケアプラン標準仕様」が浸透することによって、業務は上記の通り、大きく変化することが考えられます。
●業務負担が大幅に軽減される
介護サービス事業所間での情報共有に必要な「アセスメント」「居宅サービス計画書」など、また給付管理に必要な「予定表」「給付実績」などのデータ共有によって、大幅に業務軽減できることが考えられます。
新規利用者のサービス導入時や介護保険証更新時期の担当者会議などの情報共有はスムーズに済みますし、月末月初の請求業務については大幅に負担を軽減させることができるでしょう。
●ICT活用による介護サービス同士の情報連携の推進
データ共有が可能となることは、必要な情報をもれなく伝えることができます。
また情報を受け取っているにもかかわらず、データが未入力になっているといったこともなくなります。
さらに介護専門職が担うべき業務に専念することができます。
本来、業務軽減が検討されてきた背景には、質の問題が懸念されてきたことにあります。
利用者のケアに専門性を発揮できるようになるならば、サービス向上につなげていくことができるのです。
●医療と介護の情報連携の推進
「入院時情報提供書」「退院・退所時情報記録書」といった医療機関との連携においても、データでのやり取りが可能となります。
これらは「入院時連携加算」の取得に必要な書類になりますので、報酬面においても影響を与えるものになります。
入院時情報連携加算には「Ⅰ(200単位/月)」「Ⅱ (100単位/月)」があり、Ⅰであれば入院後3日以内に、Ⅱ であれば入院後7日以内に情報提供することによって取得できます。
入院時情報連携加算(Ⅰ) がより取得しやすい状況になるのではないでしょうか。
まとめ
「ケアプラン標準仕様」については業務負担軽減につながると期待できるものだと考えます。
ただし業務負担の軽減は、厚生労働省社会保障審議会において「専門性を発揮するため」とはっきりと述べられています。
今後、導入を検討している事業所においても、何のために導入するのかをはっきりしておかねば、負担だけが軽減されて専門性の低下を招く可能性もあるでしょう。
参考:
厚生労働省 地域医療介護総合確保基金(介護分)を活用した介護事業所に対する業務改善支援及びICT導入支援(平成31年度新規).(2020年1月23日引用)