介護施設で最新の歩行器を導入するメリットは?商品の特徴や具体的な選び方のポイントを紹介します
多くの種類が販売されている歩行器を介護施設で導入する場合、どのようなものを活用すれば良いのか迷うことがありませんか?
しっかり歩行器の特徴を把握して施設のニーズに合った商品を導入できれば、利用者さんはもちろん介護スタッフにもメリットがあります。
そこで、最新の歩行器をスムーズに導入できるように、商品の選び方や活用の方法を紹介します。
目次
介護施設にとって最新の歩行器を導入するメリット
最新の歩行器を施設に導入するのには、利用者さんにとってのメリットのほかにも介護スタッフにとってのメリットもあります。
導入を前向きに検討できるように、導入によるメリットを理解しましょう。
●利用者さんにとってのメリット
利用者さんに最新の歩行器を導入するメリットとして以下のような点が挙げられます。
1)身体機能・ADLの低下を予防できる
歩行器は下肢にかかる荷重を上肢でしっかり支えることができるため、支えがなかったり、杖を使用したりするだけでは歩くことができない利用者さんに歩いてもらうきっかけになります。
万が一膝折れしてしまったときでも、サドルが荷重を受け止めてくれるので安心です。
歩行することで下肢筋力を保ち、寝たきり・座りっぱなしによるADLの低下を防ぐことができます。
2)疾患や要介護度悪化の予防につながる
下肢への荷重をかけることはさまざまな疾患の予防につながります。
たとえば糖尿病や高血圧症といった生活習慣病の予防には、歩行をして一定量の活動量を保つことが大切です。
これらの生活習慣病の悪化を防ぐことは、心疾患や脳血管障害などさまざまな疾患の予防につながります。
また、歩行や自転車といった有酸素運動は脳を活性化させるのに効果的で、認知症予防に対しても歩行器を使用した歩行をすることが大切です。
さらに、フレイルなどの研究でも明らかであるように、要介護状態の悪化と歩行機能の低下は密接に関係しているため、歩行を継続することは要介護度悪化の予防にもなります。
3)意欲やQOLの向上につながる
「歩く」という行動は二足歩行をするために発達した人間にとって当たり前に獲得する能力です。
そのため、利用者さんにとって「歩けなくなる」ということは、大きく自尊心を失う行動の1つで、生活の意欲やQOLの低下につながることも少なくありません。
支えなしでは歩けなくなったからといって利用者さんに車椅子の生活を送ってもらう前に、歩行器を含めた歩行補助具を活用することは、身体機能を高めるだけでなく、意欲やQOLの向上にもなります。
●介護スタッフ・施設にとってのメリット
歩行器を使用することによる利用者さんへのメリットは想像しやすいですが、実は介護スタッフや施設にとってもメリットがあるのはあまり考えたことがないかもしれません。
以下に歩行器使用による介護スタッフへのメリットを紹介します。
1)介護度悪化による介護負担の増加を防ぐことができる
前述の通り、利用者さんが歩行できなくなると心身に悪影響を及ぼし、要介護度の悪化につながります。
要介護度の悪化は介護スタッフの介護負担を増加させ、スタッフの腰痛や精神的な負担を招きます。
そのため歩行器を使用して少しでも介護量を少なくすることは、介護スタッフの負担軽減につながります。
2)サービスの質向上で売り上げがアップ
介護施設において集客アップをするためには、ほかの事業所とサービスに差をつけることが大切になります。
そこで最新の歩行器を導入することをケアマネジャーや家族へしっかりアピールして施設の売りにすることで、新規利用者さんの獲得につなげることができます。
また、歩行器を使用した結果として利用者さんの能力向上・維持に効果があったことを研究発表したり、ホームページに掲載したりすることも売り上げアップにつながります。
※介護事業所のホームページによる売り上げアップについては「デイサービス経営にお悩みのかた必見!ホームページなどを使った、研究成果の発表が黒字化への突破口!?」で詳しく解説しています。
3)利用者さんのADL・QOL向上で介護スタッフの働きがいも向上
介護をしているなかで「利用者さんが笑顔になる」ことや「元気になり目標を達成できる」ことは、介護に携わるスタッフにとって大きな喜びの1つです。
歩行器の使用により、利用者さんのADLが向上し元気になる、QOLが向上し生き生きとしているといった様子が見られることは介護スタッフがやりがいを持って働く要因となります。
歩行器のタイプ別の特徴を知り上手に活用しよう
歩行器は杖とは違い以下のような特徴があります。
- ○両手で体重を支えるため筋力低下のある利用者さんでも歩行できる
- ○持ち手を体に近づけられるためしっかり体重を支えて良い姿勢が保てる
- ○多くの支点で地面を捉えるため安定して歩くことができる
このような基本的なことのほかに、歩行器にはさまざまな特徴を持った商品があり、その特徴を知ることは上手に活用することにつながります。
そこで特徴的な歩行器の機能について解説していきます。
●すぐに座れる歩行器で介護度の高い利用者さんの歩行を実現
歩行器は両手で支えるのが一般的ですが、OGウエルネスで扱っている「Safety Walker(セーフティウォーカー)」のように、座るためのサドルが一体となった歩行器があります。
このような歩行器を使用すれば、短い距離しか歩行できなかったり、転倒リスクの高かったりする利用者さんでも、すぐにサドルに座って休むことができるため、より安全に歩行に取り組むことができます。
使用方法を理解できる認知機能があれば、介護スタッフが介助をしたり、見守りをしたりする機会を減らすこともできるため、人員コストの削減にもつながります。
●抑速ブレーキ付きの歩行器ですり足や突進歩行の利用者さんの歩行を支援
パーキンソン病のようにすり足や突進歩行の利用者さんに歩行器を使用した場合、歩行器だけが前に進んでしまうため転倒の危険性があります。
そのような場合に歩行器だけが前に行かないよう、進行速度を制限することができる歩行器がおすすめです。
また、足の筋力が低下しているために、より腕で体重を支えたいような利用者さんに対しても、抑速ブレーキ付きの前腕支持ができる歩行器を使用することで、しっかり体重をかけて歩行器を押すことができるのでおすすめです。
※すくみ足の対策については「パーキンソン病のすくみ足対策って?リハビリですぐに役立つ方法をご紹介」で紹介しています。
●積極的な歩行リハビリを導入できる免荷機能付き歩行器
ベルトやスリングを使用して体重を免荷しながら歩行ができる歩行器は、歩行が困難な利用者さんでも歩行ができます。
歩行器の中で最も高価な種類ですが、二人がかりでの介助でしか歩行ができないような利用者さんでも歩行につなげることができ、今注目されている歩行器です。
介護度が重い利用者さんでも積極的な歩行リハビリをしていきたい施設にもってこいの歩行器です。
コストが気になる施設でも安心できる選び方のポイントを紹介
歩行器の導入をする上で一番ネックになるのが導入コストではないでしょうか。
どの施設でも最新の機器を思う存分導入できれば申し分ないですが、筆者の施設でもなかなかそうもいきません。
介護施設ではサービスの種類によって利用者さんのニーズや介護度が異なります。
そこで、利用者さんのニーズやサービスの種類を踏まえた歩行器選びのポイントを紹介します。
●介護度が重度の利用者さんが多い入所施設の歩行器の選び方
特別養護老人ホームなど介護度の重度な利用者さんが多い入所施設では、少しでも利用者さんに歩行の機会を持ってもらうためにも、サドル付きの歩行器や免荷機能付きの歩行器がおすすめです。
日常生活における歩行の自立が難しい利用者さんでも、このような歩行器があれば歩行のリハビリの導入や介護スタッフの支援による歩行時間の確保が可能になります。
●在宅生活を見据えた事業所の歩行器の選び方
在宅生活を見据えた老人保健施設のような入所施設では、在宅で実際に使用できるような歩行器が施設にあれば、利用者さんに在宅復帰や在宅生活の支援のために必要な歩行をすることができます。
そのため、コンパクトな歩行器を導入して自宅内の環境を想定しながら施設内の歩行自立につなげるようにしましょう。
●積極的なリハビリをアピールしたい事業所での歩行器の選び方
在宅サービスにしろ、施設サービスにしろ、積極的なリハビリを売りにしたい事業所には免荷式の歩行器の導入がおすすめです。
「重度の利用者さんでも歩行練習ができる」というのは、ほかの施設とサービスの差をつけることができ、リハビリを受けたい・受けさせたいといった利用者さんや家族にとってアピールになります。
同じような観点で、平行棒などで使用できるリフトを導入することで、積極的な歩行練習をすることができ、利用者さんのADLやQOL向上はもちろんですが、質の高いサービスの実施ができる施設としてのアピールになるのでおすすめです。
※平行棒で使用できる免荷リフトについては「重度の利用者さんでも歩行練習ができる!平行棒と一体化できる 免荷リフトの付いたオーバーヘッドフレームを紹介」で詳しく解説しています。
必要な歩行器を積極的に導入してサービスの質を向上させよう
歩行器の導入は積極的に進めるメリットはあるものの、コストや施設の規模によりすべてを導入するのは難しいこともあります。
そのため歩行器に対する適切な知識を持ち、利用者さんや施設のニーズを把握し、必要な歩行器を選択して導入することが大切です。
施設に合った最新の歩行器を導入して、利用者さんに健康で意欲的な生活を送っていただくことはもちろん、施設の売りとしてサービスの質を向上させましょう。
参考:
OG Wellness カタログ 2020(Safety Walker)(2020年5月28日引用)
OG Wellness カタログ 2020(オーバーヘッドフレーム)(2020年5月28日引用)
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級