ホームヘルパー向けアプリを活用して、現場とリアルタイムに情報共有。サービス向上にもつながる
訪問介護事業所ではホームヘルパーの外出が多いことから、情報共有や事務作業をスムーズに行うことが課題です。
この課題を解決する手段として「ホームヘルパー向けアプリ」が有効です。
本記事ではアプリの例や活用するメリットについて解説します。
ホームヘルパーの業務における課題
ホームヘルパーの業務には、いくつかの課題があります。
ここでは4つの課題を取り上げ、内容を解説していきます。
●現場との間で、タイムリーな情報共有を行いにくい
ホームヘルパーの事業所では、以下のような運用をしているケースも多いのではないでしょうか。
- 1)現地でメモやノートに記録する
- 2)オフィスに戻り、書き留めた内容をパソコンに入力する
もちろん緊急で報告すべき事項があれば電話が使われますが、何を緊急とみなすかという判断はヘルパーに任されます。
またその場合でも、詳細の内容は事業所に戻ってから報告となりがちです。
このためサービス提供責任者(以下「責任者」と略)が利用者の状況を把握するには、どうしてもタイムラグが生じます。
重要事項がタイムリーに報告されなければ適切な対応を迅速に行えず、利用者に不利益を与える結果となりかねません。
●事業所に戻ってからの事務作業も負担に。認識の相違も起きるおそれがある
ホームヘルパーは、事業所に戻ってからの事務作業も負担の1つです。
紙にメモした内容を、正しくパソコンに入力しなければなりません。
この過程では事務作業の時間がかかることはもちろん、以下に挙げる認識の違いが起きることも課題の1つです。
入力者 | 考えられる課題 |
---|---|
担当したヘルパー | 利用者宅の状況を思い出しながら入力するため、思い違いなどが起きるおそれがある |
担当ヘルパー以外の方 | ヘルパーとの解釈の違いにより、状況を誤って認識する可能性がある |
もちろん、事業所への移動時間も大きな負担の1つです。
報告は重要な業務に違いないものの、できることならその手間は省きたいものです。
確かな情報をスピーディーに報告するためには、現場で使えるツールが求められます。
●訪問スケジュールのダブルブッキングが起こるおそれがある
スケジュール帳などを使ってスケジュール管理を行っているホームヘルパーも、多いのではないでしょうか。
訪問日時を利用者から正しく聞き取り、その情報を担当のヘルパーが認識していれば、間違いは起こりません。
しかし実際には、以下の理由によるミスが起こりえます。
- ○電話による聞き取りミス(例:1(いち)と7(しち)は聞き間違えやすい)
- ○聞き取った訪問日時を、紙に書く際に間違える
- ○責任者が伝えた内容を、ヘルパーが誤って認識する
人間の特性上、どれだけ注意を払っていたとしてもミスは起こる可能性があります。
このため、「気をつける」という心構えで防ぐことはできません。
一方でダブルブッキングが起こると、少なくともどちらかの利用者はサービスを受けられなくなりますから、事業所の信用を失う事態につながりかねません。
このような事態を防ぐにはシステムを活用するなど、仕組みでスケジュール管理ミスを防ぐ工夫が求められます。
●電話では手間や時間がかかる上に、ヘルパーと必ず連絡がつくとは限らない
ホームヘルパーとの連絡に、電話を使っている事業所は多いでしょう。
しかし連絡に電話を使うことには、多くの課題があります。
- ○一度に複数のヘルパーと会話できない
- ○お互いの会話が必要となるため、両者のタイミングを合わせることが求められる
- ○電話中は手を止める必要がある。このため運転中や介護の業務中は電話に出にくい
- ○電話代がかさむ。特にヘルパーからかける場合は、大きな負担となりうる
上記の通り、電話でのやり取りには手間や時間、費用がかかることが難点です。
加えて忙しい方同士の場合は、どちらかが留守電となるケースも多いもの。
このため連絡がつかなかった結果、以下の問題を生みかねません。
- ○利用者宅で至急対応すべき項目がヘルパーに伝わらず、不信感につながる
- ○ヘルパーを変更する場合、利用者の事情をよく知らない方に任せざるをえない
- ○訪問後に利用者から問い合わせなどがあった場合、迅速に対応できない
上記に挙げる課題があるため、電話は最適なコミュニケーション手段といえません。
ホームヘルパー向けアプリの活用で、課題を解決できる
ホームヘルパーの業務における課題は、アプリの利用で解決できるものも多いです。
ここではアプリを活用する4つのメリットを解説します。
●スマートフォンで入力・報告可能。迅速な判断に役立てられる
ホームヘルパー向けアプリは、スマートフォンでの入力・報告ができることが特徴です。
介護ヘルパー一人ひとりに持たせて活用することで、以下のメリットを得られます。
- ○ヘルパーは業務終了後すみやかに、かつ都合の良いタイミングで報告できる
- ○報告が重なるタイミングでも、電話と異なりヘルパーを待たせずに済む
- ○責任者は、自分のペースで報告内容を確認できる
- ○ヘルパーの帰所を待たずに、必要な対処ができる
- ○ヘルパーの直行直帰が可能となり、移動の負担や費用が軽減される
ケアの終了後すみやかな報告が得られ、異常があった場合に迅速な対処ができることは大きなメリットとなります。
加えてヘルパーの負担軽減も可能となりますから、働き方改革にもつながります。
●音声入力が可能なアプリもあるため、ITに苦手意識がある方でも安心
ホームヘルパー向けアプリには画面からの文字入力に加えて、音声入力が可能なアプリがあることも特徴の1つです。
以下のような方は音声入力を選ぶことで、安心して使えます。
- ○キー入力に慣れず、時間がかかってしまう
- ○どうしても文字を間違えて入力してしまう
「機械は苦手」という方でもスムーズに活用できることは、メリットの1つとなるでしょう。
●タブレット端末でも可能。入力項目が多くても安心
ホームヘルパー向けアプリは、スマートフォンアプリに対応するタブレット端末でも使えます。
タブレット端末はスマートフォンとくらべて、画面が大きいことが特徴です。
多くの情報を一度に表示できるためすばやく情報を確認できることはもちろん、入力しやすいことも魅力に挙げられます。
●急なスケジュール変更でも、スピーディーに代わりのヘルパーを選定できる
訪問介護においては、以下の事情により急なスケジュール変更が起こりえます。
- ○ヘルパー自身の急病や家族事情による欠勤
- ○利用者による予定変更
電話で代わりのヘルパーを探すことはよく行われますが、一人ずつしか打診できないため、決定までに時間がかかることが難点です。
訪問日時が迫っている場合は、数人に確認を取っている間に、あっという間に訪問予定時刻になってしまうおそれもあります。
この点ホームヘルパー向けアプリのなかには、複数のヘルパーに対して一斉に訪問可能か打診できるサービスもあります。
もし複数の介護ヘルパーから訪問可能という返事があった場合は、そのうちの1人を選定すれば良いわけです。
スピーディーに代わりのヘルパーを選定できることは、利用者に安心感を与えられるメリットにもつながります。
ホームヘルパー向けアプリの例
ホームヘルパー向けアプリは、いくつかあります。
ここでは3つの例を取り上げ、それぞれの特徴を解説していきます。
●三菱商事「けあピアノート」
「けあピアノート」は、わかりやすい画面が特徴の1つです。
スケジュールを一覧で確認でき、体温や血圧などは画面をスライドした入力にも対応。
報告は画面から入力するほか、音声入力にも対応しています。
ケア前には申し送りを読まないと「到着」ボタンを押せないため、利用者宅での作業漏れを防げます。
導入の体制が整っていない場合は、「到着」「終了」のボタンを押すだけという運用も可能なため、手軽に始められることも魅力の1つです。
運営会社の三菱商事は、首都圏の大手訪問介護事業所にて実証実験を行ったことがあります。
公式サイトによると電話連絡の確認時間が43%、通信費が35%削減できた一方で、ヘルパーからの情報共有は3倍以上にアップしたという効果が得られています。
●アルム「Kaigo」
Kaigoは、タブレット端末で利用できることが特徴です。
大画面のタブレットを使って多くの情報を表示できることはもちろん、5.5インチ~7インチといった小さいサイズのタブレット端末も利用可能です。
このため軽さと快適な使用を同時に実現できます。
訪問実績をデータ出力するなど、ほかのシステムと連携できることも特徴の1つです。
Kaigoの導入により、1人当たり1日50分、1カ月で約25時間もの時間を削減できます。
残業時間の削減と人件費の節約を実現できるアプリといえるでしょう。
またモバイルプリンターを導入すればその場で情報を印刷できることも、メリットの1つに挙げられます。
●アルバス「おもいやりケアシステム」
おもいやりケアシステムのヘルパーさん用アプリの「Helperさん」は、落ち着いた雰囲気の画面が特徴です。
前回に行ったケア内容や留意事項、特記事項を確認できるため、スムーズに利用者のケアを進められます。
ケア報告画面では当日に必要な作業項目が示されているので、漏れや抜けも防げます。
加えて、予測変換機能が搭載されていることも特徴の1つです。
途中まで文字を入力したら文章や語句の候補が表示されるため、すべて手入力するよりも早く文章を書き終えることができます。
音声入力にも対応していますから、画面からの入力が苦手な方でも安心です。
アプリの活用で、働きやすさとサービスの向上を両立できる
ホームヘルパーの業務にアプリを活用することには、迅速かつ確実な情報共有が行えるとともに、経費を削減できるメリットがあります。
加えて急な対応が求められるケースでも、利用者の要望にこたえることができます。
このため働きやすさとサービスの向上を両立でき、安定した事業運営に役立つことでしょう。
ホームヘルパー向けアプリはITに詳しくない方でも使いやすくする工夫がされていますから、積極的な導入をご検討ください。
参考:
小松原明哲: ヒューマンエラー 第3版. 丸善出版, 東京, 2019, pp.35-56.
芳賀繁 ヒューマンエラーの基礎知識 : ヒューマンエラーとは何か(2020年9月22日引用)
NTTドコモ らくらくスマートフォン me(F-01L)(2020年9月24日引用)
世界文化社: へるぱるPICK UP 働きやすさ&介護の質がアップ ホームヘルパー向けアプリ(けあピアノート)って何?. へるぱる2019.3・4: 94-97, 2019.
Google けあピアノート(2020年9月22日引用)
三菱商事 「けあピアノート」とは?(2020年9月22日引用)
株式会社アルム Kaigo(2020年9月22日引用)
アルバス ヘルパーさん用アプリ「Helperさん」(2020年9月22日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ