介護・高齢者施設が抱える課題(ヒト・モノ・カネ)をサポート

  • Facebook

医療従事者向け 介護プラス

この記事に関するタグ

腰痛予防

ノーリフティングケアで、安全・安心・快適な介護を実現しよう

介護において、「ノーリフティングケア」という言葉を聞く機会が増えてきました。
介護職員の負担軽減と良質な介護サービスを両立できる点で、重要なキーワードです。
本記事ではノーリフティングケアの特徴からメリット、活用のポイントを解説します。

介護職員の負担軽減ができる ノーリフティングケアの活用ポイント

ノーリフティングケアは、介護を安全・安心に行う方法

ノーリフティングケアは、介護を安全・安心に行う方法

ノーリフティングケアは、介護を安全・安心に行う方法として注目されています。
どのような方法か、詳しく確認していきましょう。

●人の力に頼らず、リフトなど福祉用具を積極的に活用する

ノーリフティングケアは、介護職員の力に頼り過ぎない介護の方法です。
利用者の体重を、介護職員だけの力で支えないことが特徴です。

日本ノーリフト協会高知支部では、以下の3点をポイントに挙げています。

  • 〇持ち上げない
  • 〇抱え上げない
  • 〇引きずらない

引用:日本ノーリフト協会高知支部 ノーリフティングケア宣言

力に頼らない介護の実現には、福祉用具を適切に使うことが重要です。
ノーリフティングケアに使われる代表的な福祉用具には、以下のものが挙げられます。

利用者の状態に合わせて適切に福祉用具を選び積極的に活用することが、安全・安心な介護につながります。
このうちリフトについては「介護用リフトは入浴や移乗動作に便利!使えば介護者の負担軽減のメリット大」記事で解説していますので、ぜひご参照ください。

●きっかけは腰痛を防止するための取り組み。発祥地では高い成果をあげている

ノーリフティングケアのきっかけは、看護師の腰痛がきっかけとなっています。
看護師の腰痛を予防する目的で、1998年にオーストラリア看護連盟により始められました。
日本ノーリフト協会によると、オーストラリアではノーリフティングケアを導入した効果として、以下の項目を挙げています。

  • 〇労災申請に伴う費用が、導入前の年とくらべて46%減少
  • 〇患者さんの移乗・移動に伴うケガが、導入前の年とくらべて56%減少

参考:日本ノーリフト協会 ノーリフティングケアとは(2020年12月20日引用)

当サイト「パワーアシストスーツやマッスルスーツの活用で、施設での介護もラクラク」記事でも解説の通り、腰痛は介護職員にとっても悩ましいものの1つです。
ノーリフティングケアにより腰痛を防ぐことができれば、より働きやすい職場となることでしょう。

●厚生労働省も人力に頼らない介護を求めている

腰痛は介護や看護に限らず、多くの職種で課題となっています。
このため厚生労働省は2013年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、以下のように作業の自動化や省力化を求めています。

腰部に負担のかかる重量物を取り扱う作業、人を抱え上げる作業、不自然な姿勢を伴う作業では、作業の全部又は一部を自動化することが望ましい。それが困難な場合には、負担を減らす台車等の適切な補助機器や道具、介護・看護等においては福祉用具を導入するなどの省力化を行い、労働者の腰部への負担を軽減すること。

引用:厚生労働省 職場における腰痛予防対策指針 p1

これを受けて、2020年11月9日の第192回社会保障審議会介護給付費分科会において、「ノーリフティングケア」に取り組む事業所が好事例として取り上げられています。
このように厚生労働省も、人手に頼らない介護を求めています。

ノーリフティングケアで実現できる4つのメリット

ノーリフティングケアで実現できる4つのメリット

ノーリフティングケアを導入することで、介護職員だけでなく利用者にもさまざまなメリットが生まれます。
ここでは4つのメリットを取り上げ、解説します。

●介護職員は腰痛から解放され、余裕をもって介護を行える

ノーリフティングケアにより、介護職員の体の負担が軽くなることは大きなメリットです。
高知県に12カ所ある先進モデル施設では、以下の効果をあげています。

  • 〇ノーリフティングケアを始めてから、腰痛の発生がなくなった
  • 〇腰痛持ちの方も、症状が悪化しなくなった
  • 〇腰痛による離職者がゼロになった
  • 〇「腰痛は介護職の職業病だから仕方ない」という意識がなくなり、腰痛を予防する組織風土ができた

参考:日本ノーリフト協会高知支部 ノーリフティングケア宣言 p5

介護職員の負担が軽くなることで気持ちに余裕が生まれ、利用者とのコミュニケーションも取りやすくなります。
利用者に対して、よりフィットした介護を行いやすくなる効果も期待できます。

●1人でもさまざまな介助ができる

介助に必要な人員が減ることも、ノーリフティングケアの特徴です。
とりわけ1人でも移乗やトイレ、入浴といった、さまざまな介助が行えることは大きなメリットといえるでしょう。
実際に特別養護老人ホーム「Greenガーデン南大分」では、女性の介護職員であっても、大柄の利用者の入浴介助を1人で行えています。

また「夜間もトイレ介助ができるようになったのでトイレに案内し、便座に座って排泄できるようになった」ことは、利用者にとって大きな喜びです。
職員が1人で行える介助が増えることは、利用者が施設で快適に過ごす重要なポイントです。

●利用者は安心して介護を受けられ、生活の質も向上する

介護施設を利用する側にとっても、ノーリフティングケアはありがたいものです。
たとえば無理に体を引きずられるといった、不快感を感じることがありません。
介護職員とのコミュニケーションが増すことも、安心感を高めます。

以下に挙げる不都合な事態は、ノーリフティングケアで防げます。

このように、安心して介護サービスを受けられることが特徴です。
利用者のなかには、以下の改善があったことも報告されています。

  • 〇関節が動きやすくなった
  • 〇車いすに座り、食事ができるようになった
  • 〇トイレの便座に座り、排尿や排便ができるようになった
  • 〇要介護度が5から4に改善した

参考:日本ノーリフト協会高知支部 ノーリフティングケア宣言 p6

生活の質も向上することは、大きなメリットといえるでしょう。

●介護を志す応募者が増える

ノーリフティングケアで介護職員にかかる負担が軽減されることにより、介護職を志す応募者の増加が期待できます。
一例として、以下の成果があります。

このような動きが全国に波及すれば、人手不足の悩みも軽減されることが期待できます。

ノーリフティングケアを上手に活用する3つのポイント

ノーリフティングケアを上手に活用する3つのポイント

さまざまな効果があるノーリフティングケアですが、現場で生かすためには押さえておきたいポイントがあります。
ここでは、3つのポイントを順に解説します。

●無理をせず、正しい姿勢で業務に臨む習慣をつける

ノーリフティングケアの実践には、正しい姿勢で無理のない動作を行うことが重要です。
安全・安心な介護を行うために、以下の習慣を身につけましょう。

  • 〇力任せの動作をしない
  • 〇背筋を伸ばす。中腰や前かがみ、腰をひねる姿勢を避ける
  • 〇伸縮性のある服装
  • 〇足元が安定する靴を履く
  • 〇自己流で作業を行わず、面倒でも正しい方法で実施する

参考:日本ノーリフト協会高知支部 ノーリフティングケア宣言 pp.2-4
   日本ノーリフト協会高知支部 ノーリフティングケア宣言 p7
   兵庫県社会福祉事業団 持ち上げない介護「ノーリフティングケア」の推進

上記の項目を習慣づけるようお互いに意識しあうことも、良い職場をつくり質の高いサービスを提供するためには重要です。

●利用者の能力を生かし、自立を促す視点で考える

介護が必要になった方も、自分のことはできるだけ自分で行いたい気持ちはあるもの。
ノーリフティングケアにより利用者の持つ能力を生かし、自立を促す視点で介護を行うことが重要です。

たとえば食事やトイレでの排泄をご自身で行えるようになれば、それだけ介護職員の負担が減ります。
もちろん本人にとっても、できなかったことが再びできるようになった喜びが得られます。

加えて利用者の自立度が高まれば介護保険で給付される費用も削減でき、介護保険の財務改善にも役立ちます。
自立を促すことは利用者本人だけでなく、国にとっても嬉しいことです。

●健康を維持し、体力づくりを行う

ノーリフティングケアを行うためには、介護職員の健康や体力も重要です。
バランスの良い食生活を送り、睡眠をしっかり取り体を休めましょう。

また筋トレやストレッチの実施も有効です。
詳しくは以下の記事をご参照ください。

膝折れの対策におすすめの運動は?介護現場での膝折れをなくして転倒を予防しよう
ストレッチはなぜ体に良いの?ストレッチの種類や効果を理学療法士が解説します

ノーリフティングケアの実施で、介護職員も利用者も幸せになる

ノーリフティングケアの実施により、介護職員と利用者ともに幸せになれます。
介護職員にとって腰をはじめ、体を痛めずに仕事ができることは大きなメリットです。
利用者にとってはご自身でできることが増え、生きる喜びも増すでしょう。

加えて働きやすい職場になれば応募者も増え、人手不足も解消に向かうことが期待できます。
福祉用具を積極的に活用し、職員も利用者もいきいきと過ごせる介護施設を目指しましょう。

参考:
厚生労働省 介護人材の確保・介護現場の革新(検討の方向性)(2020年12月20日引用)
日本ノーリフト協会高知支部 ノーリフティングケア宣言(2020年12月20日引用)
ケアサービス ケアサービスのノーリフティングケア(2020年12月20日引用)
日本ノーリフト協会 ノーリフティングケアとは(2020年12月20日引用)
日本ノーリフト協会 2020 ノーリフトチャレンジ・プロジェクト(2020年12月20日引用)
兵庫県社会福祉事業団 持ち上げない介護「ノーリフティングケア」の推進(2020年12月20日引用)
厚生労働省 職場における腰痛予防対策指針(2020年12月20日引用)
シルバー産業新聞 ケアニュース 大分県のノーリフティングケア実践(後編)(2020年12月20日引用)
独立行政法人 労働者健康安全機構 第3期労災疾病等医学研究「社会福祉施設の介護職職員における腰痛の実態調査、画像診断と予防対策に係る研究・開発、普及」研究報告書【腰痛】(2020年12月19日引用)
オージー技研 介護リフトつるべーY6セット(2020年12月20日引用)
オージー技研 介護用リフトは入浴や移乗動作に便利!使えば介護者の負担軽減のメリット大(2020年12月21日引用)
オージー技研 パワーアシストスーツやマッスルスーツの活用で、施設での介護もラクラク(2020年12月20日引用)
オージー技研 膝折れの対策におすすめの運動は?介護現場での膝折れをなくして転倒を予防しよう(2020年12月20日引用)
オージー技研 ストレッチはなぜ体に良いの?ストレッチの種類や効果を理学療法士が解説します(2020年12月20日引用)

  • 執筆者

    稗田 恵一

  • 千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
    現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。

    保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ

コメントをどうぞ

ご入力いただいた名前・コメント内容は弊社がコメント返信する際に公開されます。
また、個別の治療方針や転院に関するご相談にはお答えいたしかねます。ご了承ください。
メールアドレスが公開されることはありません。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)