スマートシティで高齢者が住みやすい環境と、よりよい介護サービスを提供可能。4つのメリットと3つの事例を紹介
高齢化の急速な進展に伴いIT技術を活用したスマートシティは注目され、各地でさまざまな取り組みが行われています。
スマートシティにより介護や高齢者の生活は快適に、便利になることが期待されます。
近未来に期待される内容も含めて、みていきましょう。
目次
スマートシティで、IT技術を活用した住みやすい街づくりを行える
スマートシティで「IT技術を活用し、住みやすい街づくり」を行えます。
高齢者が過ごしやすい環境づくりも実現可能です。
ここではスマートシティの定義を確認した後、どのようなサービスが提供されるのかをみていきましょう。
●スマートシティでは、AIやIoTなどの技術が活用される
まずスマートシティの定義はなにか、確認していきましょう。
国土交通省都市局では、以下のように定義しています。
都市局では、「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」を『スマートシティ』と定義し、その実現に向けた取り組みを進めています。
引用:国土交通省 都市交通調査・都市計画調査 スマートシティに関する取り組み
「ICT等の新技術」には、AIやIoT、ビッグデータ、ロボットの活用などが代表的な項目として挙げられています。
これらの技術を活用して生活上のさまざまな課題を解決しつつ、より便利な暮らしを提供することも目的の1つに含まれます。
国土交通省都市局では「公共交通を中心に、あらゆる市民が快適に移動可能な街」「災害に強い街づくり・地域コミュニティの育成」を挙げています。
●高齢者に役立つサービスが提供されるケースも多い
少子高齢化が進む現代では、医療や介護の分野を前面に出した施策も多いです。
高齢者に対する見守りサービスや健康維持に関するサポートは、代表的なサービスです。
また将来は、以下に挙げるサービスの提供も期待されます。
- ○好きな場所に好きなタイミングで、かつ安価で移動できるサービス
- ○ロボットやドローンなどによる、処方薬や日用品などの運搬
提供されるサービスの項目や内容は、自治体など運営者により異なります。
一方で現役世代の減少分を最新技術で補いつつ、サービス向上を目指すことは見逃せないポイント。
ご自身のニーズにマッチしたサービスがあれば、便利に暮らす手助けとなることでしょう。
●高齢者をはじめ、すべての方が安全・快適に過ごせる街を目指す
スマートシティは、その地域に関わる方が安全・快適に過ごせる環境を目指すことが主な目的です。
そのため、高齢者を直接のターゲットとした施策が行われるとは限りません。
具体的なメリットは、運営者が提示する施策を確認する必要があります。
もっとも住民向けの施策であれば、高齢者にもなんらかのメリットは得られることでしょう。
さきに解説した通り、介護分野を前面に出した施策も多いです。
ここから先は、介護分野に関するスマートシティを中心に解説します。
スマートシティが介護分野に与える4つのメリット
スマートシティは、介護の分野においても重要なメリットがあります。
ここでは4つのメリットを取り上げ、その内容を解説します。
●人手をかけず、地域で高齢者を見守る体制を整えられる
いくら熱意がある方でも、24時間365日高齢者を見守ることは困難です。
また徘徊に対応するために、昼夜を問わず常に誰かが道に立ち見張ることも現実的ではありません。
加えて働き盛りの人口も減少していますので、介護や見守りに携わる人材を確保することも簡単ではありません。
一方でスマートシティでは、IoTやAI技術の活用によりいつでも高齢者を見守ることが可能です。
スマートフォンアプリの活用により、見守り活動に手軽に参加できることもメリットに挙げられます。
通常時の見守りはIT技術を活用することにより、省力化しながらサービスレベルをアップすることが可能。
有事の際にはデータを活用することで、すばやい対応を実現できます。
これにより人口減少が進む地域でも職員や住民に負担をかけず、地域で高齢者を見守ることが可能です。
●体調不良や軽度認知障害など、異変の兆候を予測できる
スマートシティではビッグデータの活用により、行為と症状や発病の関連性を見つけ、いつもと違う事態を早めに検知できます。
たとえば活動量や睡眠状態をチェックすることで、体調不良や軽度認知障害の兆候を知ることが可能。
早めに対策を打つことで健康寿命をより長くでき、充実した老後を送り続けることにつながります。
●導入当初から、誰でもデータに基づいた適切な対応が可能
スマートシティでは、誰でも適切な対応ができることも特徴に挙げられます。
もし介護に関するシステムが導入され、適切な助言が得られれば、新人でも対応が可能。
ベテランがいない場合でも入所者に迷惑をかけずに済むことは、大きなメリットといえるでしょう。
●住人のニーズにきめ細かく対応できる
スマートシティに導入されているIT技術は、大量のデータを瞬時に処理できる点が魅力です。
このため人手ではとうてい対応しきれないような、多種多様な要望にも迅速に対応できます。
たとえば訪問介護において細かい時間指定や急なスケジュール変更が発生した場合でも、適切なスキルを持つ職員を割り当て可能。
さまざまなメニューを取りそろえることにより、住人のニーズにきめ細かく対応することもできます。
スマートシティの内容は多種多様。3つの事例を紹介
ひとくちに高齢者を対象としたスマートシティといっても、その実施主体や内容は多種多様です。
これは高齢者に求められるサービスが多いことの裏返しといえるでしょう。
ここでは実施中の事業から将来構想まで、3つの事例を紹介し解説していきます。
●事例1:Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)
Fujisawa サスティナブル・スマートタウンは、神奈川県藤沢市においてパナソニックを代表幹事とし、さまざまな企業や団体が関わる街づくりプロジェクトです。
「生きるエネルギーがうまれる街」をコンセプトとしており、地域内にある「Wellness SQUARE」には多種多様な介護や医療に関する施設が集まっています。
このうちサービス付き高齢者住宅ではエアコンとセンサーを活用し、入居者に関する以下の情報を集め、健康に関するサポートなどのサービスに役立てています。
- ○在室状況
- ○活動量
- ○睡眠状態
また各施設間でICTを用いた連携による、地域包括ケアのネットワークづくりも進めています。
2021年3月にはパナソニックにより、調剤薬局から自宅までロボットにより処方薬を運搬する実験の開始が公表されました。
●事例2:タグとアプリを活用した見守りサービス(兵庫県加古川市)
兵庫県加古川市は、全国初の官民連携による見守りサービスを開始した自治体です。
「みまもりタグ」など専用の発信機を持つ方の位置を防犯カメラなどに内蔵された受信機で検知し、iOSやAndroidアプリ「かこがわアプリ」でタグを持っている方の位置を確認できることが特徴です。
加古川市では以前から犯罪の発生率や行方不明となる認知症高齢者が高めであり、その抑制が課題となっていました。
市内各地に防犯カメラを設置する際に専用タグの受信機も設置し、子どもや高齢者を見守るサービスも開始しています。
見守られたい方は2,500円前後の登録料と月々数百円の料金を支払い、専用のタグを受け取ってサービスを活用します。
アプリのダウンロード数は、2018年度の時点で10,342件となっています。
2020年10月からは認知症高齢者などが見守りサービスを活用する場合に、市が利用料等を全額補助する取り組みを始めています。
また加古川市は民間の3社と共同して、高齢者に対して「健康寿命延伸サービスの実証実験」を行っていました。
この実証実験については、「IoTやAIを使った軽度認知障害を早期発見する研究の現状と将来」記事も、あわせてご参照ください。
●事例3:トヨタ自動車「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)
トヨタ自動車とウーブン・プラネット・ホールディングスは、静岡県・東富士工場の跡地に人中心の街「Woven City」(ウーブン・シティ)を建設しています。
2021年2月23日、現地にて地鎮祭が行われました。
ウーブン・シティでは、以下に挙げる技術の検証が予定されています。
- ○自動運転
- ○自動宅配
- ○クリーンエネルギー
- ○ロボティクス
トヨタ自動車の豊田章男社長は現代社会の課題の1つとして、「高齢者や障がいを持つ方を含め、移動の自由は実現できたのか」という点を述べています。
ウーブン・シティの入居者は高齢者、子育て世代の家族、発明家を中心とする予定と公表されています。
入居者が能動的に参加する街において、高齢者に関わる課題そのものの解決と、ほかの地域で活用できる解決策の提示が期待されます。
ゼロベースでサービス内容を見直し、人手不足の解決とサービス向上の両立を
スマートシティでは、さまざまなサービスが実現可能です。
そのなかには無人での配送など、人手だけでは実現が難しかった項目も含まれます。
加えて現役世代が減少するなか、人手不足を解決しながらサービス向上ができる点も見逃せません。
AIやIoTが活用される時代では今までの常識にとらわれず、高齢者が求めるサービスをゼロベースで考えることがおすすめです。
技術を上手に活用し、高齢者や職員の喜びにつなげましょう。
参考:
【スマートシティとは】
国土交通省 都市交通調査・都市計画調査 スマートシティに関する取り組み (2021年3月23日引用)
国土交通省都市局 スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】 (2021年3月23日引用)
首相官邸 健康・医療戦略に基づく取組について p30 (2021年3月23日引用)
【スマートシティが介護分野に与えるメリット】
パナソニック 国立循環器病研究センターと軽度認知障害(MCI)の早期発見に関する共同研究を開始 (2021年3月26日引用)
オージー技研 訪問介護や訪問看護の訪問ルートはシステム化で簡単に!さまざまなメリットが得られる (2021年3月24日引用)
【Fujisawa サスティナブル・スマートタウン】
内閣府 平成29年版高齢社会白書(全体版) pp.76-78. (2021年3月23日引用)
Fujisawa SST 協議会 Fujisawa スマートタウン (2021年3月23日引用)
Fujisawa SST 協議会 プロジェクト体制 (2021年3月23日引用)
Fujisawa SST 協議会 全体目標・ガイドライン (2021年3月23日引用)
朝日新聞社 ロボットが処方箋薬運ぶ実験 パナソニックが全国初 (2021年3月23日引用)
時事通信映像センター パナソニックの宅配ロボット (2021年3月26日引用)
【加古川市】
三和宏幸: 国内最大級の「見守りカメラ」・日本初の官民連携「見守りサービス」 : 子どもや高齢者が安全に安心して暮らせるまちを目指して. 新都市2019 No.2: 30-36, 2019.
加古川市 市公式アプリ「かこがわアプリ」の配信について (2021年3月23日引用)
加古川市 かこがわアプリで見守りボランティア (2021年3月23日引用)
加古川市 見守りサービスについて (2021年3月23日引用)
加古川市 令和元年度版加古川市統計書 pp.18-19,204 (2021年3月23日引用)
Apple かこがわアプリ (2021年3月23日引用)
Google かこがわアプリ (2021年3月23日引用)
オージー技研 IoTやAIを使った軽度認知障害を早期発見する研究の現状と将来 (2021年3月23日引用)
ジョージ・アンド・ショーン 見守りサービスにおける健康寿命延伸サービスの実証実験の開始について~加古川スマートシティプロジェクト「見守りサービス」の更なる発展に向けて~(2021年3月23日引用)
トヨタ自動車 トヨタ、「Woven City」地鎮祭を実施(2021年3月24日引用)
トヨタ自動車 <2/23 ウーブン・シティ鍬入れ式>豊田社長 ご挨拶(2021年3月24日引用)
トヨタ自動車 会社案内(2021年3月24日引用)
トヨタ自動車 トヨタイムズ 今、明かされるWoven Cityの原点 トップが悩み、たどり着いたこと(2021年3月24日引用)
YouTube Woven Cityに込めた豊田章男の思い(2021年3月24日引用)
トヨタ自動車 トヨタイムズ Woven Cityはじまる 豊田社長が着工式で約束したこと(2021年3月24日引用)
-
執筆者
-
千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ