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認知症利用者さんの帰宅願望とインシデント。デイサービスで起こりうる事故とは

デイサービスを利用している認知症の方にある帰宅願望。
帰宅願望のある方のケアには、悩んでいる施設も多いのではないでしょうか。
実はこの帰宅願望が大きな事故につながることもあります。
この記事では、帰宅願望がある利用者さんの事故事例や、その対策についてお伝えします。

早く家に帰らなきゃ 帰宅願望がある利用者さんの事故事例

帰宅願望と利用者さんの行動

帰宅願望がある利用者さんは、「今いる場所は自分の居場所ではない」と感じています。
具体的には帰り支度をして出口の方向へ向かう、レクリエーションに集中せず出口ばかりを見る、という行動が見られますが、本当に施設から出ていこうと試みる利用者さんは多いのです。

自分が施設来所時に利用した出口から出ていこうとする場合もありますし、職員のいる詰め所に入ってきて、裏口から出ようとするケースも見られます。

デイサービスでの事故事例

デイサービスの送迎時 目を離した隙に失踪

1.出入口からの失踪

私が勤務していたデイの利用者さんで80歳代の女性の方に、認知症のため帰宅願望がありました。
朝9時から夕方5時までのデイの利用でしたが、夕方4時ごろになると帰り支度をはじめ、職員が気をそらして施設にとどめる…ということを毎回繰り返していたのです。
当時、デイサービス利用者は40人ほどでした。
帰りの送迎車はいくつかのグループに分かれ、順番に乗り込みます。
ある日、ほかの職員が利用者さんを送迎車に移乗しているときに自動ドアが開いており、この女性はすり抜けて施設外へ。
10分ほどして女性がいないことに気が付いた職員が探しに行くと、近隣の住宅街を一人で徘徊していたのです。
発見できたからよかったものの、その時の季節は夏。
一人での徘徊は熱中症のリスクがありました。

2.窓からの外出を試みる

また別の方ですが、70歳代の女性は一日中帰宅願望がありました。
施設には腰の高さほどの窓がありましたが、換気のために一部カギをかけずに開けていました。
この女性は、窓に足をかけて外に出ようとしたのです。
幸い、小柄な方で足も届かないため外に出ることはできませんでしたが、筋力が低下している高齢の女性が無理に足を上げると、転倒・骨折のリスクがありました。

3.全国で起こっている事故

アルツハイマー型認知症の男性が、デイサービスを利用中に施設から抜け出し、のちに低体温症で死亡しているのが発見されるという事故が起こっています。
また、施設入所中、失踪後に電車にひかれて死亡した例もありますが、これはデイサービスでも起こりうる事故です。
デイや施設利用中でも、市街に外出してしまえば一見認知症とは気づかれないこともあるため、周囲の市民からの通報などは期待できない場合が多いのです。

デイサービスの事故で起こりうること

ケガや病状悪化、最悪の場合は死に至ることも

1.利用者さんの生命危機

帰宅願望がある利用者さんは、徘徊をしている間に、交通事故や転落などにより命を落とすリスクがあります。
さらに認知症の方は季節感を自覚しにくく、夏に冬物の上着を着たり、反対に寒くても上着を着ない場合があります。
こうしたことが原因で脱水や低体温症となり、体調を崩し、最悪の場合死に至ります。
利用者さんは施設からの失踪により、生命の危険にさらされるリスクがあるのです。

2.施設側が責任を問われる恐れ

たとえばデイサービス利用者さんが施設から失踪し、踏切事故に遭遇した場合、損害賠償請求が施設側にくることも考えられるのです。
金額によっては会社経営に影響を及ぼし、運営している施設の縮小などもあり得ます。
利用者さんへのサービス・職員の雇用を維持するためにも、デイサービスでの事故が起こらないよう、最善を尽くす必要があるのです。

失踪予防のための対策

1.施錠の徹底

帰宅願望がある利用者さんが一人で外に出られないよう、施錠を徹底することです。
新しい施設ですと、自動ドアから手動ドアへの切り替え、ドアの上下の施錠ができるようになっています。
もし利用者さんの手が届くところにカギがあるのであれば、新しいカギをつけましょう。

2.職員の意識改革

ヘルパーさんのなかには「施錠を厳重にすることは身体拘束に値するのではないか」と考える方もいます。
しかし、施錠を緩めたために利用者さんの命を守れなくては施設の存在の意味さえ薄れてしまいます。

優先順位はあくまでも利用者さんの生命を守るのだということを職員に徹底する必要があり、厳重な施錠は身体拘束とはいえないのです。

大きな窓は採光に適していますが施錠管理をしっかり行う

帰宅願望が原因で起こる事故もある

デイサービスで帰宅願望のある利用者さんに起こりうる事故についてお伝えしました。
帰宅願望がある利用者さんは認知症があるため、外出しても水分補給・体温の調節などができず、街中で自分の状況を他者に訴えることも難しいのです。
施設からの失踪から生命の危険が及ぶことも考え、環境・職員の意識をいま一度確認しましょう。

参考:
埼玉福祉保育医療専門学校 アルツハイマー型認知症の帰宅願望の出現時間とその要因 ~専業主婦と働いていた人~(2021年7月19日引用)
奥島病院 脳神経外科 シリーズ 認知症(2)-認知症の診断と治療(2021年7月19日引用)
DCnet 続・はじめての認知症介護 帰宅願望場面における認知症ケアの考え方(2021年7月19日引用)
京都市長寿すこやかセンター 認知症ケース検討会事例集①(2021年7月19日引用)
長野佑紀弁護士のQ&A~介護施設の法律実務~(2021年7月19日引用)
グロース法律事務所 徘徊事故編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】(2021年7月19日引用)

  • 執筆者

    島谷 柚希

  • 小児外科・整形外科病棟・総合病院の外来などを経て2015年より医療・看護ライターに。並行して派遣看護師としてデイサービス・整形クリニック・健診機関などで勤務しています。看護師歴は20年以上。看護の知識と実践で得たことを糧に、読者様にわかりやすい記事を届けます。

    保有資格:看護師・介護支援専門員

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