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進む在宅介護のIT化。スマホ、パソコンを使って情報共有!

スマートフォンやパソコンは、日常ではすでにおなじみのアイテムです。
2015年の総務省の調査によると、世帯普及率は「携帯電話、PHS」95.8%、「パソコン」76.8%となっています。
そんな身近なIT機器は介護現場への導入も進んでいます。
今回は、定期巡回型の訪問介護を例に、実際のIT機器の活用方法や問題点、それに対する現場スタッフの声をお届けします。

スマートフォンを持って活動へ

ヘルパーは訪問する際、事業所が個別に用意したスマートフォンを持参します。
スマートフォンのなかには、訪問介護用アプリケーションが入っていて、これと同じものが事務所のパソコンにも入っています。
事務所側はアプリケーションのひな形を使って、利用者さんのフェイスシートや介護指示書を作成します。
これらはそのままスマートフォンでも閲覧可能
となります。
一方ヘルパーは、介護記録の作成をこのアプリケーションでおこないます。
記録作成では簡略化するための多くの工夫がなされています。
たとえば排泄介助なら、便か尿か、量は?性状は?などの項目にチェックを入れるだけ。
「腹痛の訴えがあった」など、特記すべき点がある場合にのみ、文字を入力するようになっています。
作成した記録は、自分以外のヘルパーが外出中でも確認できるため、情報の共有化が容易です。
個人での活動が中心の訪問介護では、自分以外のヘルパーが訪問した際の利用者さんの状態把握が難しいのです。
記録ノートなどを参照してから、介護サービスに入る方法は以前からありましたが、この方法ですと、活動まえに記録を読む時間を確保しなければなりません。
しかし、スマートフォンとアプリケーションを活用すれば、訪問まえに記録や伝達事項を確認できるので、時間を効率的につかうことができます。
また、住所録と地図アプリの連動で道案内をしてくれる便利機能もあり、初めて訪問する場所でも、迷う心配は少なくなります。
これはヘルパーにとって、非常に心強いサポートといえます。

事務所側のメリットは?

スマートフォンの通信機能で、ヘルパーが利用者さんのお宅に何時に訪問、退出したかをすぐに把握できます。
この機能によって位置情報が得られれば、定期巡回型の特徴である「随時対応」の際にも、向かってもらう担当ヘルパーを決めやすくなります。
また記録紙を使用しないので、記録紙の回収、内容確認、パソコンへの入力などの手間が省力化でき、その結果、請求情報作成の省力化にもつながります。

スマートフォンに不慣れなスタッフの戸惑い

メリットの多いIT化ですが、これらを実際に使用している現場スタッフの声はどうでしょうか。
介護スタッフの高齢化との関連は?
介護へのIT導入が進む一方で、IT化の波に戸惑う介護スタッフが多いのもまた事実です。
そうした声は、特に50、60代の女性スタッフから多く聞かれます。
介護現場はもともと女性が多く、長く従事してきた介護スタッフの高齢化も進んでいます。

厚生労働省の2013年のデータでは、40歳以上の介護職員の割合は69.6%とされています。
そのなかで、訪問介護員の60歳以上の女性の割合は31.6%と高い数値を示しています。
ではこの年代の女性の、スマートフォンやインターネットの利用状況はどうでしょうか。
総務省の2016年時点のデータでは、「60代のモバイル機器でのインターネットの一日利用時間」は12時間でした。
もっとも利用時間の多い20代(125時間)とは大きな開きがあります。
この差は介護現場のIT化においても、使い方に慣れるまでの時間差という結果で表れています。
事実、筆者の職場でも初めてスマートフォンに触れたというスタッフが多く存在しますが、このデータが示す通り、60代のベテラン女性スタッフたちです。
初めてスマートフォンに触れるスタッフへは、電源の入れ方、タップやスワイプなど基本操作に慣れてもらうところからのスタートでした。
いきなり「スマートフォンで記録を作成する」ことを要求すると、「私には無理」と拒否感が先に立ってしまいます。
そうなるとせっかく導入したITの効果も半減です。
まずは焦らず、スマートフォンの操作を覚えてもらうことに注力することが大切です。

一度スマートフォンに慣れてしまうと「記録紙よりも楽」という声を多く聞きます。
また、「プライベートでもスマートフォンを使うようになった。スマートフォン操作を覚えられて良かった」などの、業務外にも生かせるといった声もあります。
このように、IT機器の導入には現場スタッフの状況に合った研修が必須といえます。

IT導入のコストは?個人情報はどう守る?

IT導入には、ほかにどんな問題点があるのでしょうか。
今度は経営の観点から見ていきたいと思います。

経費の問題

事業所のIT化を実現するためには、さまざまな費用がかかります。
たとえば、

  • 〇IT化を行うための専用のソフトウエア
  • 〇スマートフォンやタブレット

などの物品を、購入またはリースしなければなりません。
この初期費用は決して安くはありません。
導入後も、通信費、ソフトウエアの点検、更新費用などランニングコストがかかります。
モバイル機器の場合、機種変更の必要もあるためその費用もかかってくるでしょう。
こうした経費が事業所の経営を圧迫してしまうと、本来の業務に差し支える可能性もあるので、かかる費用とかけられる経費を算出し、慎重に検討する必要があるでしょう。

個人情報をどう守るか

モバイル機器の使用は盗難や紛失の危険と隣り合わせです。
モバイル機器には利用者さんの個人情報が詰まっています。
紛失や盗難で悪用されたら、その被害は甚大です。

作業のすべてをIT化できない?

IT機器によって業務の省力化を図ることができますが、すべての業務をIT化することはできないという現実もあります。
一例として、「登録ヘルパー」があります。
登録ヘルパーはヘルパーの雇用形態として多くの事業所が採用しています。
登録ヘルパーは基本的に自宅と利用者さん宅を「直行直帰」します。
そのため介護記録は従来からの記録紙が適しています。
さらに登録ヘルパーは勤務日数の自由度が高く、働き方もさまざまです。
そんなヘルパーに個別にスマートフォンを支給することは現実的ではありません。
その結果事業所は、従来からの記録紙での管理とIT化を並行しておこなうため、「業務量が増えてしまった」という事例もあるようです。

IT化を導入する際のチェック項目とは

IT導入には以下のようなチェックが必要です。
1)どこまで業務が省力化されるのか
2)費用に見合った効果が期待できるか
3)現場の業務量が多くならないか
4)高齢スタッフが多いなど、スムーズな導入は望めるか
新しいシステムを導入すると、少なからず現場には混乱が起きます。
その対策についても事前に検討しておく必要があるでしょう。

まとめ

IT導入には、メリットとデメリットをどこまで現実的に把握できるかが重要になります。
そしてメリットを伸ばし、デメリットを抑える対策を立てることが大きなポイントとなるでしょう。
「楽」で「速い」アプリでの記録は、IT化の最大のメリットである「省力化」そのものです。
しかしどんなに優秀なIT機器でも、利用者さんやご家族の細かな様子に「気づく」ことはできません。
また、記録や連絡は省力化できても、利用者さんの声やご家族の話を聞くことなどは決して省いてはならない大切な業務です。
多くの「便利」がITによってもたらされる現代ですが、どんなにIT化が進んでも省力化が図れないこと、人の手でしかできないことは必ずあるのです。

参考:
介護労働の現状(厚生労働省)(2018年2月11日引用)
平成29年版 情報通信白書(総務省)(2018年2月11日引用)

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