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他職種との連携

筋力の数値化はこれからの介護事業所にとって連携の鍵になる!筋力測定機器の活用方法を理学療法士が伝授します

運動した効果を利用者さんに伝えることは、トレーニングの効果を高める動機付けになります。
また、介護事業所が医療機関と連携するためには、運動の効果を具体的に提示することが重要です。
そのために、筋力を数値化することが有効になります。
今回は筋力を数値化するために必要な、筋力測定機器の活用法をお伝えします。

筋力測定機器ってどんなものなの?種類と特徴を紹介します

まずは筋力測定機器にどのような種類や特徴があるのかを紹介します。
代表的な筋力測定機器は以下のようなものがあります。

●筋力測定機器の紹介

1)握力計

最も一般的な筋力測定機器で、購入しやすい価格、使用方法や保管が簡単で、非常に活用しやすい機器です。

2)背筋力計

握力計と同様になじみのある機器ですが、活用方法があまり知られていないという点で握力計ほど普及はしていない機器です。

3)ピンチメーター

あまり介護現場では見かけられませんが、「つまむ力」を測定する機器で、指先の機能を評価するために活用できます。

4)ハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)

リハビリの分野では比較的広く普及しており、ベルトや手でセンサーを固定して、それに利用者さんが力を加えることで、筋力を数値化する機器です。

5)等速性筋力測定機器

最も信頼性のある測定ができる機器ですが、操作に専門性が必要で、費用や測定時間もかかるため現場よりも研究などで活用されます。

以上のように筋力測定器は多種多様で、それぞれ特徴がありますが、リハビリ専門職がいなくても、握力計や背筋力計、ピンチメーターは活用しやすい機器と言えるでしょう。

●筋力測定時の注意点

筋力測定を実施する際にはいくつかの注意点があります。
以下に筋力測定を行う際の注意点を列挙しますので、参考にしてください。

1)測定時に息をこらえると血圧上昇のリスクがあるため注意する

利用者さんのなかには高血圧やそれに関連する疾患の方が多くいらっしゃると思いますので、息こらえによる血圧上昇には注意して、息を吐きながら力を入れるといった工夫をしましょう。

2)測定姿勢や周囲の環境は毎回同じようにする

測定の姿勢が変わると筋力の数値が変化するので、立位や座位など毎回同じ姿勢で測定するようにしましょう。
また、測定環境に関しても同様のことが言えますので注意しましょう。

3)測定者の声かけや利用者さんの声出しなど毎回同じようにする

測定者の声かけの有無や利用者さんの声出しの有無も測定結果に影響を与えます。
筆者の事業所では、初回測定時にどのように測定したか必ず記載するようにしています。
そうすることで、毎回同じ設定で測定をすることができ、誤差を少なくすることができます。

筋力の数値化で事業所運営に影響も!筋力測定機器を使用するメリット3選

介護現場で筋力を数値化することで、さまざまなメリットがありますので、一つずつ紹介します。

●運動の効果判定や目標設定が行いやすい

筋力を数値化することで、運動の効果判定や具体的な目標の設定が行いやすいというメリットがあります。
Rantanenら(1994)らによると、握力は体幹や下肢などの筋力と関連があるとされ、全身の筋力を知るための目安として活用することができます。
また、加齢による筋肉量の減少であるサルコペニアの指標として、握力の基準値が設定されており、アジア人は男性が26kg未満、女性は18kg未満を目安にしています。
背筋力に関しても、高柳ら(2004)の報告で、握力や下肢筋力、歩行能力との関連性が示されており、高齢者の運動効果を示す指標として活用できます。
HDDによる脚の筋力測定の結果は、歩行や立ち上がり動作などの目安となり、日常生活動作の指標として活用できます。
以上のように握力や背筋力といった比較的簡単な器具で測定できる筋力でも、運動の効果を判定する目安として活用でき、具体的な目標設定を行うために使用できるのです。

●筋力の数値化で利用者さんや家族のモチベーションが上がる

加藤ら(2013)は筋力測定の数値化とモチベーションとの関連性について述べています。
筋力測定を行わず曖昧な説明で運動の必要性を伝えるよりも、具体的な数値を用いて運動の必要性を伝えた方がモチベーションの向上に有効です。
また、学校のテスト結果と同じように、運動の結果として、数値が変動したり、具体的な目標値に近づいていくことは、運動を継続するためのモチベーションを保つメリットとなります。

●他事業所や医療機関との連携がスムーズになり事業所の評判が上がる

2018年の介護報酬改定では、通所介護でも生活機能向上連携加算が新設されます。
そのため、他事業所や医療機関との連携において、より具体的で分かりやすいデータを示すことが重要になります。
筋力を数値で示し、利用者さんの状態や運動の効果を具体的に提示できることは、事業所の強みとなり、評判をあげる要因となります。
また、筆者の事業所では、家族やケアマネジャーにも、事業所でのリハビリ効果を分かりやすく報告してもらえるので助かると、とても評判が良いです。

理学療法士が介護現場で実際に行っている、筋力測定機器の活用事例を紹介!

筋力を数値で表すメリットがあるのは分かっていても、具体的に筋力測定機器をどのように活用しているのかイメージが湧きづらいかもしれません。
そこで、筆者が介護現場で実際に行っている、筋力測定機器の活用事例を紹介します。

●介護スタッフが定期イベントとして握力測定!ご褒美付きでモチベーションアップ

介護現場では、リハビリ専門職がいない場合もあるでしょう。
しかし、握力計や背筋力計の使用は簡単ですので、誰でも測定が可能です。
筆者の事業所でも、月に数回体力測定の日を設定して、握力の測定結果を伝えています。
測定結果でどのような結果が出ても、運動を継続した効果を数値で示すことで、次回の目標やこれまでの効果が具体的に分かり、利用者さんのモチベーションアップにつながっています。
また、体力測定の日には「運動を頑張ったご褒美」として賞品を用意して、さらなるモチベーションアップの工夫を行っています。

●筋力測定結果をグラフ化して多方面に報告!分かりやすいと評判に

筋力を数値化できるメリットをさらに生かすためには、グラフ化がオススメです。
視覚的により分かりやすくすることで、利用者さんの状態変化を伝える際に非常に好評です。
筋力低下の傾向などがひと目で分かり、医療機関と連携して、医療での集中的なリハビリを導入するといった対応を早期に行った結果、低下した筋力の改善が見られ、ADL低下や転倒の予防に効果のあったケースもあります。
利用者さんや家族などは「成績表をもらっているみたい」と毎回ドキドキしながらも、楽しそうにグラフ結果を待たれています。

まとめ

2018年に医療・介護報酬の同時改定があり、医療・介護の連携が重要性を増しています。
そのため、医療と介護の共通言語として、筋力を数値化して示すことは非常に大きなメリットがあります。
握力計や背筋力計といった簡便な器具でも、筋力を数値化して活用することが可能です。
ぜひ、筋力測定機器を活用して、客観的な効果を示すことができる介護事業所を目指してみてください。

参考:
身体的虚弱(高齢者)理学療法診療ガイドライン(2018年2月15日引用)
高柳 公司, 他:高齢者の背筋力についての一考察.第39回日本理学療法学術大会 抄録集,2004
Rantanen T, Era P, et al.: Maximal isometric muscle strength and socio-economic status, health and physical activity in 75-year-old persons. J Aging Phys Activity 2: 206-220, 1994.
加藤 宗規:これからの筋力測定のあり方を考える.理学療法30(9):959-964,2013.

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