えっ…団地の空き部屋を活用!?小規模多機能ホーム・ぐるんとびーの理学療法士に聞く!地域密着型サービスのエッセンス
UR団地にある事業所として、地域に根ざした取り組みを実現している、神奈川県藤沢市の小規模多機能ホーム「ぐるんとびー駒寄」。
日本で初めて団地の居室で小規模多機能型居宅介護事業所を開設したぐるんとびーでは、地域に密着したサービスを提供しています。
今回は、全国のトップランナーといわれる事業所を回ったあと、北海道から神奈川県に移り住み、ぐるんとびーで働いている理学療法士の川田雅弥さんにお話をうかがいました。
目次
市とUR都市機構のモデル事業!団地で展開する「ぐるんとびー」のサービス
川田さんがお勤めの小規模多機能ホーム・ぐるんとびーは、全国で初めて「団地の居室で小規模多機能型居宅介護サービスを展開する」という画期的な取り組みを始めた事業所です。
開設時には、これまで集合住宅の共用部・店舗スペースで介護施設を展開する事例はあっても、居室では前例がなかったため、管理会社との調整は難航したといいます。
最終的には、藤沢市の市長から「近隣に介護施設がないため、ぜひ団地内に設置してほしい」という依頼書を出してもらい、市・UR都市機構のモデル事業としてスタートにこぎつけました。
全国的にみてもユニークな事業所といえるぐるんとびーで働くことを決め、北海道から神奈川に移り住んだという川田さんに、その魅力を教えていただきます。
●はじめに、小規模多機能ホームとはどのような施設か教えてください。
一般的に小規模多機能ホーム(小規模多機能型居宅介護事業所)とは、介護が必要になった高齢者に、施設への「通い」、自宅への「訪問」、短期間の「宿泊」という3つの機能を提供する介護施設です。
小規模多機能ホーム専属の介護支援専門員もいて、生活や暮らし全体を通して困っていることはなにか、自宅での暮らしを成り立たせるために必要なことはなにかを見極めていきます。
そうしたニーズに対し、通い・訪問・宿泊という3つの機能を用いて柔軟かつ迅速な支援を行うことが可能です。
●ぐるんとびーでは、どのようなスタッフが働いているのですか?また、従事するスタッフでどんな役割分担が行われているのでしょうか。
ほかの小規模多機能型居宅介護事業所と比較し、看護師2名、理学療法士3名、作業療法士1名と医療専門職が多く在籍しています。
これだけ看護師やリハビリ職がいる小規模多機能型介護事業所は全国的にも珍しいと思います。
看護師であれば、利用者の生活リズムや家族背景を踏まえた細やかな服薬・排便管理を率先して行います。
リハビリ職は、住環境整備やADL(日常生活動作)の評価といったことも行いますが、活動量の確保を目的とした屋外活動の企画・立案などもしています。
活動や参加のレベルで働きかけることで、利用者さんの生活場面に自然な形でリハビリを溶け込ませるような環境づくりをしています。
●生活場面で活動量を確保していくことには、大きな意義がありますね。「団地」という場所でサービスを提供することによるメリットは大きいのでしょうか?
団地には多くの人が住んでいて、上下階・隣部屋といったように、立体的なご近所付き合いが存在します。
それは、言い換えると「圧縮された街」のような環境です。
そのなかに、要介護度に応じて多様なサービスを受けられる小規模多機能ホームをつくり、そこに交流施設としての機能を加えることで、住民が集まり、コミュニティが生まれます。
平面の地域だと、隣近所と仲が悪かったり、無理して付き合わないといけなかったりしますが、団地だとほかの階の人と仲がいいといったこともあります。
つまり、横だけではなく、縦と斜めの関係のなかでネットワークを築きやすいため、コミュニティづくりにも貢献することができるのです。
利用者さんの「したいこと」を実現させる!社会参加を促して心身を元気に
川田さんは理学療法士として小規模多機能ホームに勤務するなかで、一般的な機能訓練は行わなくなったといいます。
具体的にどのような仕事をしているのか解説していただきます。
●理学療法士としてお勤めの川田さんは、事業所でどのような役割を担うのでしょうか。一般的なリハビリ業務にあたるのですか?
基本的に病院で行うような機能訓練は行っていません。
機能訓練そのものが目的になることはしていないという意味ですね。
利用者さんの「したいこと」を私たちができる範囲で支援することで、精神的にも身体的にも元気になるのです。
- 「プールで泳ぎたい」
- 「畑仕事をしたい」
- 「卓球がしたい」
- 「フラダンスをしたい」
- 「外食したい」
ぐるんとびーでは、高齢者のこうした要望に応え、地域の方々の協力を最大限仰いだうえで、スタッフと一緒に地域のさまざまな場所へ出かけています。
利用者さん個々には、もともと所属していたコミュニティがあります。
誰もが何かしらのコミュニティに属しているものですが、高齢者の場合は、要介護度や障がいの度合いがあがることで、コミュニティから足が遠のいてしまいがちです。
積極的に外に出かけることで、そうしたコミュニティが再生されたり、地域の高齢者を受け入れる体制が改善されたりすることを大切にしています。
これも、広い意味では立派なリハビリテーションの一つなのです。
考え方としては、一般的な身体機能・活動・社会参加の順番に改善を促していくのではなく、社会参加のレベルから入っていくことがポイントです。
自発的な社会参加を促し、その結果として身体機能が改善していくイメージです。
生活の場では、なにをしたいかという「目的」が重要で、機能訓練はその手段にすぎないと考えています。
また、食事・排泄・入浴介助、送迎業務、外部機関や家族への連絡・調整、介護支援専門員が行うモニタリングへの同行も行います。
肩書は理学療法士ですが、リハビリだけでなく、生活全般を包括的に支援させていただいております。
資格や職域にとらわれると、利用者さんの生活が見えづらくなり、結果として理学療法士の知識や技術が生きなくなると僕は考えています。
●病院に勤めていたときとくらべ、仕事を含め、生活が大きく変わったのではないでしょうか?
団地のなかには職場もありますが、スタッフの居室が何部屋もあって、僕自身も団地内の一室に住んでいます。
職場の仲間と20時すぎまで自主的に勉強し、介護や医療、公的な制度、地域活動に関して学んでから帰宅することもあります。
同じ団地に自宅があるので、ゆっくり歩いても通勤時間は3分くらいですね(笑)
地域密着型の介護事業所が地域活動をするうえで本当に必要なことは、お祭りのイベントをしたり、開放的な空間をつくったりすることだけではなく、地域住民の「困った」を多く拾い上げることにあります。
スタッフである私自身も自治会の活動に参加し、地域の方々と顔の見える関係から信頼関係を構築していくことを意識しています。
ぐるんとびーで大切にしているシェアリングエコノミーの考え方
ぐるんとびーでは、団地を使って事業所を展開していますが、これは「シェアリングエコノミー」の考え方に基づいているのだそうです。
具体的にどのような考え方を反映しているのか解説していただきました。
●ぐるんとびーの運営において反映している「シェアリングエコノミー」について教えてください。
シェアリングエコノミーは、物・サービス・場所などを、多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組みのことです。
介護事業所で団地の一室を使用していること自体が、シェアリングエコノミーの代表的な取り組みの一つですが、今後は団地のなかに利用者・スタッフ・学生を対象としたシェアルームも実施していきます。
僕自身も、今年の3月末から、利用者とのシェアルームを予定しています。
利用者と同居って普通じゃないですよね(笑)
マイナス面を想像する方が多いと思いますが、これからの社会事情を考えたとき、多くのメリットがあり、とても魅力的です。
シェアリングエコノミーの可能性を当事者として全国に情報発信していきたいと考えています。
●団地では空き部屋が増えていると聞きますが、ぐるんとびーではそうした資源を上手に活用しているのですね。
日本では極度の少子高齢化社会へと突入し、人口減少に伴い、空き家・空き部屋が増加してきました。
ぐるんとびーがある団地でも、自治会加入世帯での高齢化率は50%を超え、空き部屋が目立ってきています。
近年はシェアリングエコノミーの考え方が浸透し、新しいものを大量に生産するのではなく、「今ある資源」を有効活用していく社会になってきています。
多くの「物・サービス・場所」をシェアして、地域で支え合いながら生活するモデルやノウハウがぐるんとびーには多く、そこが魅力であると感じます。
まとめ
川田さんは、ぐるんとびーで得た経験やノウハウを生かして、地元である北海道岩見沢市周辺に戻り、独立したいと考えているそうです。
岩見沢市は自衛隊が出動することもあるほどの豪雪地帯であり、特に冬場は在宅での暮らしにさまざまな困難が伴います。
川田さんは「なじみの場所やコミュニティを大切にしながら、ぐるんとびーのような柔軟なサービスを提供していきたい」といいます。
地域の高齢者が過ごしやすい環境を作るには、ニーズをくみ取り、地域に溶け込むようなサービスを展開していくことが求められるでしょう。
今後、ぐるんとびーのように「地域に寄り添った事業所」が増えていくことが期待されます。
【プロフィール】
川田 雅弥(かわた まさや)
北海道出身・理学療法士。
病院・訪問看護ステーションで理学療法士として勤務したのち、全国のトップランナーといわれる事業所を回る。
2017年から神奈川県藤沢市にある小規模多機能ホーム・ぐるんとびー駒寄で理学療法士・地域担当・ケアリーダーとして活躍している。