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介護職も知っておきたい、エビデンスに基づくエンゼルケア~ご遺体に必要なスキンケア~

2018年の医療・介護報酬改定では、施設での看取りに対し加算が強化されました。
今後は介護職もエンゼルケアに関わる機会が増えるでしょう。
経験の少ない介護職に向けて、本当に必要なエンゼルケアとそのエビデンス(科学的根拠)をまとめました。

エンゼルケアにエビデンスはなぜ必要か

筆者が新人看護師だった20数年前、エンゼルケアは死後処置と呼ぶのが一般的でした。
消毒液を入れた湯でお体をふき、鼻や口、下半身に詰め物をし、お口を閉じるために顎から頭にかけて縛り、手を胸の上で組ませて手首を縛る…。
死後処置は、先輩から手順を習って反復する「経験に基づくもの」でした。
治療方針にはエビデンスの重要性が叫ばれていたのに、死後処置にエビデンスは考慮されなかったのです。

●死後処置からエンゼルケアへ

死に至るプロセスの重要性が見直され、死後処置も少しずつ変化してきました。
無機質なイメージの「死後処置」から、気配りや癒しの意味を含む「エンゼルケア」が一般的になり、生前と同様のケアを提供すべきという考えが浸透しつつあります。
生前の面影をできる限り維持することは、ご家族の悲しみを和らげ、ご本人の尊厳を保つことにつながります。
そのためにはご遺体の変化を知り、本当に必要なケア(エビデンスのあるケア)を行わなければなりません。

施設が行うエンゼルケアに必要なのは「乾燥」と「腐敗」への対策

人は死後、生きるための機能がすべてストップし、体を自身でコントロールできなくなります。
そして、ご遺体には時間ごとにさまざまな変化が現れます。
まず、ご遺体の基本的な変化をみてみましょう。(”死後の処置”に活かすご遺体の変化と管理より)

  • ○顔の扁平化(へんぺいか・凹凸が少なくなること)→死後直後~
  • ○蒼白化→30分~
  • ○死斑(しはん・死後に現れる紫色の斑点)→1時間~
  • ○乾燥→3時間~
  • ○腐敗→6時間~
  • ○褥瘡(じょくそう・床ずれ)部の変化→12時間~
  • ○臭気→死後さらに強くなる
  • ○筋の弛緩・硬直(全身)→3~6時間

このなかで、葬儀社へ引き継ぐ前に必要なエンゼルケアは乾燥と腐敗への対策です。
特に介護施設においては、乾燥対策は念入りに行うべきものです。
その理由も含め、本記事では乾燥対策の大切さについてお話します。
介護職も参加しやすいケアですから、参考になさってください。
腐敗対策については、こちらの記事(尊厳を守るためのエンゼルケア~介護職も知っておくべき、腐敗と臭気への対策~)で解説しています。

ご遺体にこそ必要なスキンケア

介護職に覚えていてほしいのは、ご遺体が変化してしまったら元に戻ることはないということです。
変化が起こるまえに先回りして、必要なケアを行わなければなりません。
ドラマや映画の影響もあり、エンゼルメイクを中心に考える人が多いのですが、施設ではメイクよりもまず、全身のスキンケアが重要です。
ご高齢の方は、生理的に体の水分量が減少しているうえ、死期が近づくと食事や水分の摂取量は少しずつ低下していきます。
もともと水分量の少ないお体は、お亡くなりになるころにはさらに脱水傾向になっています。
お亡くなりになった後は、重力によって水分が背中側に移動することに加え、肌が持つ天然の保湿機能も失われます。

また、お体を拭くことで皮膚の表面にある皮脂膜が取り除かれることから、ご遺体は急激に乾燥していきます。
そのため、ご遺体へのスキンケアのポイントは、皮脂膜を人工的につくること、つまり油分を補うことに尽きます。
水分ベースの化粧水ではなく、油分ベースのクリームを使い、外気に触れる部位(衣類から出ている部位)を重点的にケアしましょう。
なかでもお顔(特に唇と眼球)は一番高いところにあるので、ほかの部位にくらべ乾燥が著しくなります。
眼球は目を閉じていれば問題ありませんが、唇はそのままだと乾燥するだけでなく、薄くぺしゃんこになり、変色してしまうこともあります。
できるだけ早く、油分の多いリップクリームなどで保護してください。
筆者は訪問看護師ですが、訪問バッグの中に常にワセリンを入れています。
エンゼルケアでたっぷり塗布すると、時間がたっても比較的良い状態を保つことができます。

スキンケアを行う際は、ご遺体の肌は脆くなっているので、力を入れずに優しくが鉄則です。
また、扇風機やエアコンの風が直接当たらないようにすること、室内が乾燥しすぎないようにすることをご家族にアドバイスできればなお良いでしょう。
適切なスキンケアという土台があってはじめて、エンゼルメイクは効果を発揮するのです。

●「固定のために縛る」行為はしない

胸の上で手を組ませ、固定するために手首を縛るのは、ご遺体を傷つける処置です。
行うべきではありませんし、筆者も行っていません。
手首を縛ることで、重力によって下へ移動するはずの水分が移動できずに手背に集中し、浮腫(ふしゅ・むくみのこと)を生じてしまいます。
また、変色や裂傷(れっしょう・皮膚が裂けることでできる傷)などの皮膚トラブルを招くことも多いです。
閉口のためにお顔を縛ることも同様に、ご遺体を傷つける処置といえます。
手首を縛ることと閉口のためにお顔を縛ること。
このどちらもご遺体の自然な変化ではなく、ケアをする側に起因する悪化現象です。
胸の上で手を組む行為には諸説ありますが、必ず必要なものではありませんから、ご家族に確認して要望があれば行う、で良いのではないでしょうか。
枕を少し高くして顎の下にタオルを入れればお口は閉じますし、肘の下にタオルを置いて高くすれば手を組ませやすくなります。
縛られているのを目にするのはご家族にはとてもつらく、「拘束されている」「かわいそう」と感じる方が多いのです。
「縛らない」ことが大前提です。

一方的なケアであってはならない

きれいに整えて差し上げたい気持ちは当然ですが、死後の入念なひげそりや、スキンケアが不十分な状態でのエンゼルメイクは、残念ながらご遺体を傷つける一方的なケアと言わざるを得ません。
ご遺体が施設にとどまっている時間だけではなく、その後の変化を見据えて必要なケアを行うことこそ、エンゼルケア本来の意義ではないでしょうか。

参考:
伊藤茂:”死後の処置”に活かすご遺体の変化と管理,照林社,東京,2009,PP.6‐7

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