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尊厳を守るためのエンゼルケア~介護職も知っておくべき腐敗と臭気への対策~

エンゼルケアでは、外見を整えることに注目しがちですが、尊厳を守るという意味では「腐敗と臭気への対策」はより重要なケアといえます。
介護職の方にも、エンゼルケアに関わるスタッフとして知ってほしい、対策とそのエビデンス(科学的根拠)についてお話します。

腐敗対策、有効なのは早期のクーリング

人は亡くなっても、尊厳まで損なわれて良いはずがありません。
逝去後、最初にご遺体に接するのは看護職や介護職ですから、私たちが提供するケアの役割はとても大きいといえます。
その方の尊厳を守るためには「死後の処置」という捉え方では不十分であり、ご遺体の変化に合わせた「エビデンスのあるエンゼルケア」を知る必要があります。
ご遺体の経時変化と乾燥対策については、こちらの記事「介護職も知っておきたい、エビデンスに基づくエンゼルケア~ご遺体に必要なスキンケア~」をご参照ください。

腐敗や臭気への対策は看護職主導で行われることがほとんどだと思いますが、介護職がエビデンス(科学的根拠)を知って関われば、より良いケアが提供できることは間違いありません。

●腐敗のリスクを高める因子

ご遺体の変化のなかでも、腐敗は個人差が大きいものです。
たとえば桃など、柔らかくて水分量の多いものは、力を入れて掴めば圧迫された部位はつぶれて変色し、腐敗します。
その際、気温が高ければ腐敗は早まり、強い腐敗臭を放つでしょう。
しかし、水分量の少ないものは、腐敗するというより干からびた状態になり、腐敗臭も弱くなります。
ご遺体も同じで、発熱していた、こたつの中で死亡していた(高温状態)、亡くなる直前までの輸液、入浴中の死亡(体内水分量が多い)などでは腐敗のリスクが高まるのに対し、ご高齢の方が少しずつ歩けなくなり、食べられなくなり、眠るように亡くなったとき(自然な死)では腐敗のリスクは低くなります。
介護施設では、積極的な治療や延命治療を行わない、自然な死に近い亡くなり方がほとんどですから、腐敗のリスクは低いといえます。
対策を講じれば腐敗を遅らせることは十分可能です。

●腐敗を遅らせるためのエンゼルケア

ここでは具体的な対策とそのエビデンスについてお話します。
対策としては、以下の2点を実施することです。

  • ○細菌の嫌う環境にすること(クーリング)
  • ○不用意な圧迫でご遺体を傷つけないこと(愛護的なケア)

ご遺体のクーリングは葬儀社が行うものですが、可能ならば葬儀社に引き継ぐ前から開始するのが望ましいです。
ご遺体の腐敗を早める細菌の多くは「肺」と「腸」に存在する常在菌です。
伊藤は、大腸菌群は15分に1度程度分裂し、短時間で増殖するが、生育温度は25~40℃であり、25℃を下回ると増殖が困難となり、5℃以下ではほとんど増殖できないと述べています。
つまり逝去後、体温を速やかに25℃以下に下げることができれば腐敗の速度を緩やかにすることができると考えられます。
(ご遺体が自然に20℃になるには12時間以上もかかります。)
また、逝去後の体は自分自身の消化酵素によって分解され、柔らかく、崩れていきます。(自己融解)
多くの消化酵素は、働きが40℃前後で最も活性化されるため(臓器温度は37~38℃)、自己融解の進行を止める目的でもクーリングは有効です。
これらのことから、腐敗対策としては一刻も早いクーリングが効果的といえるでしょう。

●ご家族の気持ちに寄り添いつつ、必要なケアを行う

逝去後、一刻も早いクーリングが望ましいといっても、ご家族の気持ちを考えれば現実的ではありません。
腐敗によって起こる悲しい事実を知らないご家族が「冷たくてかわいそう」とおっしゃることもあるでしょう。
ご本人にとって良くない変化が起こること、その変化はクーリングで遅らせることができることを説明し、ご家族が納得されてから行ってください。
クーリングするポイントは胸とお腹の上ですが、上から冷やすことが難しいようなら、背部に
(ジェルタイプのアイスノンなど)を使用すれば、外観は変わらないのでご家族も受け入れやすいようです。
ご遺体が腐敗してしまったら元には戻りません。
腐敗に伴う臭い(腐敗臭)はその方の尊厳を著しく損ねるものであり、クーリングはエンゼルケアのなかでもとくに重要なケアです。
ご家族の了承を早期に得るためにも、普段からご家族とコミュニケーションを図り、「このスタッフがいうなら間違いないだろう」と思っていただけるような信頼関係を築いておくことも大切です。

臭気の原因は腐敗だけではない

臭気の一番の原因は腐敗ですが、対策(クーリング)が効果的に行われていれば、悪化を防ぐことができます。
もうひとつ注意したいのがお口からの臭いです。
ご遺体の口臭は「腐敗臭の漏れ」だけでなく、「口腔ケアの不足」からも起こります。
これはエンゼルケアだけで解消しようとするのではなく、日常のケアを丁寧に行うことで十分対応できます。
強い臭気のためにお別れがつらい経験になってしまうことは、避けなければなりません。
筆者が病院に勤務していたころ「口からのにおいがひどい。どうしたらいいか」と泣きながらお電話をいただいたことがあります。
エンゼルケアを行う側が十分な知識を持ち、日常のケアを見直したいものです。

詰め物は「しなくて良い」エンゼルケア

口や鼻、下半身に詰め物をするのはエビデンスの乏しいケアです。
原則として「しなくて良い」エンゼルケアであり、筆者も行っていません。
筆者が担当しお亡くなりになった利用者さんのなかには、数日間ご自宅にとどまった方もいらっしゃいますが、問題が起きたことはありません。
詰め物は体液や便の漏液を防ぐ目的で行われてきました。
漏液の原因は、腐敗が進んで体内の圧が上昇することで起こります。
つまり漏液の要因をお持ちの方は詰め物をしても漏れてしまいますし、葬儀社に引き継いだあとやり直しされる処置ですから、病院や施設では漏液を最小限にするケア(腐敗対策)のほうが重要であると考えます。
以前は帰宅後の漏液を減らす目的で、胃やお腹を圧迫して内容物を出させる処置をしていた時期もありました。
この処置は圧迫により臓器を損傷させ、腐敗を早める行為であり、行うべきではありません。
腐敗対策の一つである「愛護的なケア」とは相反するものです。
また、前述したように、ご高齢の方の自然死では腐敗と同様に漏液のリスクも低くなりますから、介護施設で漏液が問題になることはあまりありません。
オムツやパッドをあてれば十分だと考えます。
詰め物に使う時間を、ぜひご家族への声かけや、スキンケアに使ってください。

エンゼルケアにおける、自分たちの役割を理解する

看護職・介護職に求められるエンゼルケアは、ご本人の尊厳を守り、ご家族の気持ちに寄り添うことです。
具体的にはご遺体を良い状態で葬儀社に引き継ぐこと、そのための保存的なケアを中心に考えるということです。
介護職の方々にも自分たちの役割とケアのエビデンスを理解し、本当に必要なエンゼルケアを提供して欲しいと願っています。

参考:
伊藤茂:エンゼルケアQ&A,ナース専科,エス・エム・エス,東京,2017,pp71‐72

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