介護職の腰痛予防のために理学療法⼠ができることとは?職場の同僚の腰痛を解消しよう!
理学療法士が介護職に対して腰痛予防に必要な取り組みをすることは、介護職の健康を守ることにつながります。
また、介護の質が向上したり、腰痛などによる離職率の低下を防いだりという効果が得られるため、施設全体に良い効果が期待できます。
そこで、介護施設で働く理学療法士が介護職の腰痛予防のためにできる取り組みを紹介します。
目次
腰痛を抱えている介護職の現状について調査しよう
いきなり腰痛予防に対して理学療法士が働きかけても、忙しい介護業務の中でなかなか実践することは簡単ではありません。
そのため、アンケートなどを活用して腰痛のある介護職の現状を調査して、腰痛予防の取り組みを計画的に実施していくことが重要です。
まずは、計画を立てるために調査したい項目を紹介します。
●腰痛の出やすい作業をチェック
介護現場では、多くの場合「抱える介助」が原因で腰部への負担が増え、腰痛を引き起こします。
しかし、施設の環境や指導している介助方法によって腰痛の出やすい作業が異なります。
そのため、具体的にどのような介助・作業で腰痛が出やすいかチェックして、多かった部分を参考にしながらアプローチするようにしましょう。
たとえば、シーツ交換で腰が痛いという意見が多い場合、人を対象にする介助方法の改善にくらべ、ベッドを高くして中腰を減らすなどのアプローチがしやすいです。
「オムツ交換」と「移乗介助」では、「中腰姿勢の保持」と「重量物の持ち上げ」というように、腰にかかる動作の種類が異なり、改善する動作の内容も違ってきます。
また、トイレ、入浴、食事など介助場面によって介助方法や介助する環境が異なるため、腰痛を引き起こす原因も違ってきます。
そこで、詳しく腰痛が起こる介護方法や介護現場を聞き取ることで、効率よくアプローチをすることができます。
●腰痛のある経験年数や年齢をチェック
筆者が働く施設でアンケートを実施した結果、経験年数や年齢によって腰痛のある介護スタッフの割合が違っていました。
宮城県産業福祉センターが県内の老人福祉施設に対して行った調査では、50歳代の女性に腰痛が多くみられたとの報告があります。
このような差がみられた場合は、腰痛が発症しやすいスタッフに絞ってアプローチすることで、腰痛予防の取り組みを導入しやすかったり、腰痛改善の効果を実感しやすかったりします。
●腰痛対策として知りたい内容をチェック
腰痛がある介護職は「なんとかして腰痛を治したい(防ぎたい)」という思いを持っています。
そこで、腰痛対策として具体的に知りたい内容は何かを聞いてみましょう。
たとえば以下のような選択肢の中から選んでもらうことで、理学療法士が始める対策として、優先順位をつけることができます。
- ○腰の負担がかからない介助方法
- ○正しい介助の姿勢
- ○福祉用具の使い方
- ○腰の負担を減らすストレッチ
- ○腰を守る筋肉の鍛え方
- など
優先順位が高かった項目から対策を実践していくことで、介護職の受け入れも良く、腰痛予防の取り組みを進めやすいというメリットがあります。
介護現場の業務を把握して小さな改善や対策から始めよう
アンケート結果をもとに、腰痛予防を実施していくための手順を紹介します。
●現場の業務を把握するため業務を直接チェックしよう
まずは、アンケート結果などで腰痛が発生しやすいとされる介護の現場を、直接見るようにしましょう。
そこで、介助方法や介助する環境をチェックして、改善点を具体的に把握することが重要です。
改善点が見つかれば、現場に直接介入しながら介助方法の指導や環境調整をしていきます。
※腰痛を守るための介助方法の例は「介護職員を腰痛から守る!知っておきたい介助のコツ4つ ベッド上介助編」で紹介しているので参考にしてみましょう。
●希望が多ければ勉強会から始めるのもおすすめ
アンケート結果から、「腰に負担のかからない介護方法を教えてほしい」とか、「福祉用具の使い方を知りたい」という声が多い場合もあります。
その場合、施設内の勉強会などを利用して腰痛対策についての研修をするのもおすすめです。
多くの人数に一度に腰痛予防の知識や技術を広めることができ、腰痛予防の取り組みを積極的に実践してくれる仲間を見つけるきっかけにもできます。
※腰痛予防の基本的な対策方法については、「腰痛で悩む介護スタッフを守るために…。介護施設で取り組む腰痛対策」で紹介しています。
●理学療法士の強みを生かしてストレッチや筋トレも指導
腰痛予防のストレッチや筋トレの指導も介護職から求められることが多い項目です。
実際の作業改善をしなければ、腰痛の改善につながりにくいですが、腰痛予防の意識を高め、即時的な腰へのストレス軽減のために実施するのも有効です。
施設内の勉強会を活用したり、「中腰姿勢の後は腰を反らせる」など業務の合間にできる簡単なストレッチをミーティングで伝えたりすると効果的です。
また、腰痛でもすぐに病院に行ったほうがいいような症状が認められる場合は、受診をすすめるのも理学療法士の専門性を生かした大切な役割です。
※腰痛予防のストレッチについては、「理学療法士直伝!介護施設で指導できる3つの腰痛予防ストレッチ」で詳しく解説しています。
※治らない腰痛についての記事は、「腰痛が治らない方は必見!受診したほうが良い危険な腰痛の見分け方」で紹介しています。
●いきなり全てを実践するのではなく介護職の反応の良いことから始める
ご紹介した取り組みは、全て一度に実践しては、理学療法士・介護職双方への負担が大きくなり、継続的な取り組みがしにくくなります。
アンケート結果を参考に、介護職に受け入れられやすい内容から実践して、腰痛予防に対する意識を高めることから始めましょう。
初めは、受け身のスタッフが多くても、少しずつ腰痛予防に協力的なスタッフを増やしていければ、取り組みも早く浸透しやすくなります。
PDCAサイクルで継続的な取り組みにしよう
腰痛予防の取り組みを実践しても、やりっぱなしで結果の把握や問題点の再確認などを定期的にしなければ、継続できずに終わってしまうことが少なくありません。
そのため、PDCAサイクルにうまく循環させて継続的な取り組みにつなげ、最終的には理学療法士の介入が少なくなっても、現場内で腰痛予防の取り組みを定着させる必要があります。
●結果の把握にアンケートを再活用
最初にアンケートを実施して、腰痛予防の計画を立て(Plan)、腰痛予防の取り組みを実践したら(Do)、次はその取り組みがうまく腰痛予防という結果につながっているか確認・評価をしましょう(Check)。
評価には腰痛改善の有無や改善の定着率などの項目についてアンケートを取ることがおすすめです。
アンケート結果をもとに、腰痛予防の効果が少ない現場や改善にいたっていない作業現場に介入して原因を分析し(act)、改善に向けて再計画を立てるようにします(Plan)。
以上のように、PDCAサイクルを循環させて、作業や環境の改善を継続的に行います。
●大きな効果が出なくても焦らずに小さな結果を積み重ねる
長年実施してきた介護の習慣や考え方はすぐに変えることは簡単ではありません。
そのため、いきなり大きな効果が出ないからといって諦める必要はありません。
小さな結果や腰痛予防に前向きな発言を見逃さず、PDCAサイクルを循環させて取り組みを継続しましょう。
そうすることで、徐々に腰痛予防への意識が高められ、結果も出やすくなっていきます。
●フォローアップは介入の頻度を減らす
介護職から腰痛予防に対する意見が出たり、直接助言や介入をしなくても取り組みが定着してきたら、理学療法士の介入する頻度を減らしましょう。
たとえば、月1回していた研修を半月に1回にしたり、理学療法士以外の介護職を腰痛予防の責任者にしたりします。
そうすることで、理学療法士の介入がなくても、現場の介護職だけで腰痛予防が実践できるようになります。
もちろん、介入を全く行わなくなるということではありません。
同じ現場で働くなかで、理学療法士は介護職と積極的に連携を図り、腰に負担がかかるような業務を再び実施していたり、体操方法が間違っていたりしているのに気づいたら、再度介入をするようにしましょう。
※リハビリ職と介護職の連携については、「介護スタッフとうまく連携するために理学療法士・作業療法士が知っておきたいポイント」で詳しく紹介しています。
腰痛予防は介護施設全体にメリット!職場の理解を深め積極的に介入しよう
介護職の腰痛による介護の質低下や離職は、介護人材が不足する現状において、施設全体にとってデメリットになります。
そのため、理学療法士が専門性を生かして、腰痛予防に取り組むことは施設全体に良い効果をもたらします。
そのために、今回ご紹介したような取り組みを参考にして、施設の管理者や介護現場の責任者の理解を得ましょう。
そして、少しずつでも取り組みを実践していくことで、介護現場の腰痛を減らしていきましょう。
また、産業理学療法士という新しい分野で、理学療法士としてのスキルアップやステップアップにつながる可能性も広がりますので、積極的にチャレンジしてみましょう。
参考:
宮城産業保健総合支援センター 「社会福祉施設における腰痛予防対策に関する調査研究」(PDF)(2019年9月26日参照)
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級