辞めたいと思う方に読んでほしい利用者と介護士の心温まる話。だから介護士は辞められない
介護職の離職率は高く「長くは続かない仕事」といわれています。
しかし、利用者と接するなかで介護士を続けていてよかったと思える温かい話もよく耳にします。
介護職を長年続けている人のなかには、そのような経験をすることで介護の仕事を天職としている方もいます。
今回はそんなお話をいくつかご紹介します。
介護士は3年未満で辞めるケースが多い
介護職は体力が必要な仕事です。
マイナス面ばかりを見ていると、続けることがつらくなる仕事ではあります。
しかし、介護労働センターの調査では、平成29年10月から平成30年9月の施設の介護職員の離職率は15.4%です。年々離職率が下がりつつあります。
介護処遇改善など給料が上がり、労働環境が改善されたことが離職率低下につながっていると考えられます。
他産業計が14.9%と、介護職の離職率が若干高いだけでそれほど変わりません。
一方、勤続年数が3年未満の離職率は、訪問介護員と介護職員の合計では64.2%を占め、勤続年数が短い離職者が多いことがわかります。
介護職は入浴介助や車椅子移乗、オムツ交換など、腰や膝へ負担がかかります。
そのため、体力がない人だと務まらないことも事実ですが、介護職への処遇改善で給料が上がり、介護職の現場での声が行政にも届くようになってきました。
それでも「介護職はあまりおすすめできない」とネット上での声が多く見受けられます。
介護士の仕事はそれほど嫌な仕事なのでしょうか。
次の章では介護の仕事に携わる介護士が、利用者と接してきた心温まるいくつかのお話を紹介します。
これは筆者が体験したもの、同業者から取材したものなどです。
介護職だからこそ利用者との心温まるドラマがある
介護職は利用者の生死にも関わり、その人の最期まで共にいます。
利用者と介護士はさまざまな場面で人生のドラマともいえる場面があります。
●思い出に残る夏祭り
毎年、施設では夏祭りを家族とともに楽しみます。
射的ゲームでは、ゴムの銃にペットボトルの蓋をつけて飛ばし的に当てます。
忍者などの的が倒れたら景品がもらえます。
家族と一緒にすべての人がゲームに参加し、介助が必要な人には家族が手を持って的に当てました。
家族のなかには、子供たちだけでなく孫たちもいて、「おばあちゃん頑張れ」とエールを送ってくれます。
孫の前で利用者たちははりきって力を発揮。
やはり、ご家族が来訪されると普段とは違い表情も豊かです。
盆踊りでは歩ける利用者は中央で踊り、車椅子の利用者は照れながらも一緒に踊りました。
夕食はたこ焼きや焼きそば、そうめん、お寿司など、おかわり自由なので、お腹いっぱい家族と一緒に食事をして楽しいひとときをすごされます。
夏祭りの最後はくじ引き。
車椅子で指がようやく動かせ、ADLが低下している利用者が、積極的に皆の代わりにくじをひきました。
利用者が心から楽しまれている笑顔を見ると、日頃の苦労もありホロリと心が動きます。
「職員は上手に介護してくれる」とご家族からも喜ばれると職員もうれしくなり、介護の仕事を続けて本当によかったと思う瞬間です。
●動物好きな方との意思疎通
あまり心を開かれなかった利用者がいました。
ある時猫の話が話題にのぼりました。
昔は野良猫を飼っていたと。
かわいそうだからと近所の子供が連れてきて、何匹も猫を飼っていたそうです。
介護職員が「現在飼っている猫は保護猫です」ということを話すと、親しみを覚えられたようです。
それから毎回、笑顔で猫の話や昔の話などをされるようになりました。
次第にADLが落ちてきても、自分のことは自分でしようと頑張られています。
そんな利用者に介護士ができることは、笑顔で対応することや笑顔になっていただけるような話をすることだと感じています。
またその方は、生け花の時間を楽しみにされていて、切りにくい枝も小枝に分けてきれいに生けられます。
認知症の利用者には「小枝に切ったらうまくさせるよ」と教えておられ、利用者同士も助け合われています。
そんな様子を見ると心温まり、介護職を選んで良かったと感じます。
介護の仕事にやりがいを感じるとき
介護職として働いている人は、どんなときに仕事にやりがいを感じているのでしょう。
筆者の経験では、こちらの思いがうまく伝わらないとき、体格のいい方の大変な介助をしてつらいと思ったとき、コミュニケーションがうまくいかなかったときなど、さまざまな思いの葛藤があるなかで、利用者の方から「いつもありがとう。1日お世話になりました」と感謝の思いを伝えられたときに、つらいことなど忘れ、介護の仕事をやっていて本当に良かったと思います。
ほかの介護士に尋ねると、介護の仕事にやりがいがあると感じた場面は次のような場合です。
- ○レクリエーションやイベントなどで利用者が大笑いし、とても喜んでくれたときにやりがいを感じる。
次はどうやって笑わせるか、どうやって楽しませるかを考える時間が楽しい。 - ○自分の名前を呼ばれたり、自分の顔を見て「○○さんか」とホッとされる顔をされたときや、自分のしたことで喜んでくれたとき。
- ○利用者が自分のことを信頼して、ありがとうと感謝の言葉を述べたり人生経験を教えてくれたりするとき。
- ○利用者の普段と違う一面を見ることができたときはうれしい。
- ○担当の利用者の支援計画が、立てた目標に向けてうまくいっているとき。
介護士は、利用者が生活を楽しみ、最期までお世話する、ある意味でその人の人生を負っている仕事です。
だからこそ、喜んでいただけたときは介護f士も喜びを感じ、笑顔や笑いがあったときは、うれしくて自然と笑顔もこぼれるのです。
介護の仕事に対して積極的な見方をしよう
マイナス面ばかりを見がちな介護の仕事ですが、人の最期を預かる大切な仕事です。
どうしたら利用者が喜びを持って生活できるか、どんな楽しみを見いだせるかなど、いつも積極的な見方で利用者に接することで、介護職がやりがいのある仕事になります。
そんな喜びを経験するたびに介護士は辞められないと感じるようになります。
参考:
介護労働安定センター 平成30年度「介護労働実態調査」の結果.(2020年3月28日引用)
介護労働安定センター 介護労働の現状について.(2020年3月28日引用)