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家族信託をご存知ですか?認知症や施設に入所してもあなたの財産を守れます

あなたが認知症や施設に入所した場合、財産がどうなるかは大きな課題の1つです。
この課題を解決すべく、財産管理に特化した「家族信託」が活用されています。
本記事では家族信託を紹介し、メリットと有効に活用するためのポイントを解説します。

もしものときのために知っておきたい「家族信託」

認知症や施設に入所後、必要な支払いはどうしますか?

認知症や施設に入所後、必要な支払いはどうしますか?

あなたが認知症になったり、介護施設に入所したりした場合、月々の支払いをどうするかは悩みの種の1つです。
本記事ではこの課題を取り上げ、家族信託以外の方法で解決する場合のリスクを述べていきます。

●ご自身で手続きすることは難しくなる

もしあなたが認知症を発症し、病状が進行すると、生活全般における判断や行動に支障が生じます。
ATMでの引き出しはもちろん、日々の買い物や毎月必要な支払いを済ませることも難しくなるでしょう。
加えて悪質な業者の被害に遭ってしまい、経済的な損失をこうむるおそれもあります。

また施設に入所した場合、外出して必要な手続きを行うことは困難となります。
このため「財産はあるのに、本人が窓口に行けないため手続きできず引き出せない」といった問題も生じかねません。

●家族といえども、キャッシュカードを預けることはリスクあり

自分で手続きできないなら、家族にキャッシュカードと暗証番号を教えて預金を引き出してもらい、必要な支払いをしてもらおうと考える方はいるかもしれません。
しかしこの方法は、意図しない用途でお金を使われてしまうリスクがあります。
その結果、「気がついたら財産がゼロになっていた」といった事態に陥ってしまうかもしれません。

そもそも金融機関は、家族といえどもキャッシュカードを他人に預けたり、暗証番号を教えたりすることを禁じています。
このような行為をすると本人が引き出したものとみなされるため、財産がなくなっても補償は受けられません。

参考:朝日新聞社 なかまぁる 口座凍結ってホント?家族で備えよう、認知症にまつわるおカネの問題(2020年8月20日引用)
SMBC信託銀行 暗証番号の管理に関わる被害事例(2020年8月20日引用)
全国銀行協会 金融犯罪にご用心_通帳やキャッシュカードは大丈夫?(2020年8月20日引用)

●成年後見制度はランニングコストが重く、財産の使い道にも制限が加わる

成年後見制度はランニングコストが重く、財産の使い道にも制限が加わる

あなたが認知症などで判断能力を失った場合、成年後見制度を活用して財産管理をしてもらう方法があります。
しかしこの方法では、必ずしも家族が後見人となれるとは限りません。
特に裁判所が後見人を決める「法定後見制度」では、弁護士や司法書士などの専門家が「専門職後見人」として決められる場合も多く、家族はこれを拒否できません。

参考:司法書士法人ふらっと 千葉家族信託相談センター 家族信託と成年後見制度の違いは何?(2020年8月20日引用)
東洋経済新報社 親の成年後見人になった私が後悔している事(2020年8月20日引用)

さらに以下の通り、最低でも月3~4万円、財産が多い方は月10万円近い支払いを求められる場合があります。

財産額 成年後見人の報酬(月額) 成年後見監督人の報酬(月額) 合計(月額)
1,000万円以下 20,000円 10,000~20,000円 30,000~40,000円
1,000万円超
5,000万円以下
30,000~40,000円 10,000~20,000円 40,000~60,000円
5,000万円超 50,000~60,000円 25,000~30,000円 75,000~90,000円

参考:東京家庭裁判所 成年後見人等の報酬額のめやす

また成年後見制度を活用した場合、以下の使い方は難しくなります。

  • ○財産を本人以外のために使う(たとえば、家族の生活費として使うなど)
  • ○株式など、財産が減るおそれがある方法で運用する

このように、成年後見制度の活用は万全とはいえない点に注意が必要です。
特に財産が多くない方にとって、毎月のランニングコストは重くのしかかる上に、途中でやめることもできません。
場合によっては後見人や後見監督人への支払いだけで、財産がなくなってしまうかもしれないことは、成年後見制度を選ぶリスクといえます。

家族信託なら、信頼できる家族や親族に財産管理を任せられる

家族信託なら、信頼できる家族や親族に財産管理を任せられる

認知症や施設に入所後、ご自身の財産が気になる方は、家族信託の活用がおすすめです。
家族信託の活用により、大切な財産を信頼できる家族や親族に任せられ、安心できることが魅力です。
ここでは、家族信託の仕組みと活用するメリットを4つ取り上げます。

●元気なうちから、いざという時に備えられる

家族信託は当事者間で「家族信託契約」を結ぶことにより、あなたが指定する方に財産の運用や使い道を任せる仕組みです。
元気なうちから、判断能力がなくなった際に備えられることが魅力です。

家族信託において、以下の用語はよく使われます。

用語 意味
信託 信じて託すこと
委託者 財産管理を任せる方
受託者 財産管理を任せられた方

たとえばあなたが認知症にかかり、だんだん判断能力が下がってきた場合を考えてみましょう。
もし悪質業者が訪問してきた場合、ご自身で財産を管理している場合は以下のリスクがあります。

  • ○業者の言われるがままにATMでの引き出しをして、そのまま渡してしまう
  • ○うまい話に乗って不動産の売却を業者に依頼したものの、適正な金額を払ってもらえない
  • ○キャッシュカードの暗証番号を教えてしまい、口座にある金額がすべて引き出される

一方で家族信託を活用すると、信託した財産の管理者は受託者の管理下に置かれます。
たとえば現金や預金のほとんどを信託し、生活費だけ残した場合を考えてみましょう。
万が一悪質業者にだまされても、被害に遭う金額は最小限で済みます。

また不動産を信託した場合は、受託者の承認がないと所有権の移転登記ができません。
このため認知症などになっても、あなたの財産を守れる点がメリットです。

●管理を任せる財産は指定できる

家族信託の場合、管理を任せる財産は指定できます。
現金や預金の場合は信託したい金額の分だけ、受託者が開設した専用の口座に振り込めばよいのです。
もちろん、全額を信託する必要はありません。
専用の口座は大きく分けて、信託口口座(しんたくぐちこうざ)と信託専用口座の2種類
があります。

また不動産の場合は契約書に明記することで、信託する財産を個別に指定できます。
委託者の意向を最大限に尊重できることは、家族信託のメリットに挙げられます。

●受託者の権限も指定できる

家族信託は、財産管理を白紙委任する契約ではありません。
受託者に何を任せるか、権限を契約書で指定することが重要です。
一例として、以下の権限が挙げられます。

  • ○毎月の費用(家賃、水道光熱費、通信費など)を支払う
  • ○施設の費用を支払う
  • ○税金を支払う
  • ○家族のためにお金を使う
  • ○資産の運用先を決める(例:普通預金のみ、投資信託も可能など)
  • ○不動産などの場合は、資産の処分や修繕などを行う

このため資産の活用シーンをできるだけ多く考えた上で、受託者に対して適切な権限を付与するよう心がけましょう。

●現金や預金が不足する場合は、不動産を処分して現金化する権限も付与できる

不動産を家族信託に含めた場合、一連の契約手続きのなかに「所有権移転登記」が含まれます。
登記した後、不動産の名義は受託者に移り、契約書の範囲内で不動産の処分などが行えるようになります。

もし現金や預金が不足した場合でも、あなた自身の立ち会いや押印は必要ありません。
必要なタイミングで不動産を処分し、現金化して介護費用などに当てることが可能です。

家族信託を利用可能な財産は限定される

家族信託を利用可能な財産は限定される

さまざまなメリットがある家族信託ですが、すべての財産に利用できるわけではありません。
利用可能な財産は、以下の種類に限定されます。

  • ○現金
  • ○預金
  • ○不動産
  • ○有価証券(株式や投資信託など。対応する証券会社は限られる)

すべての金融機関が対応していないことに注意が必要です。
特に有価証券に対応する証券会社は、一部に限られます。

なお年金の受給権などは、家族信託の対象外となります。

必要な手続きや書類はケースバイケース

必要な手続きや書類はケースバイケース

家族信託は柔軟性のある制度ですが、契約の締結には多くのケースで専門家の関与が必要です。
これはさまざまな書類が必要であったり、金融機関が専門家の作成する契約書を求めたりするためです。
ここでは家族信託に必要な手続きや書類について、注意点とともに解説します。

●信託口口座を作る場合は、専門家への依頼が必要

現金や預金を信託する場合は、金融機関に専用口座「信託口口座」を作成する方法があります。
受託者個人の財産と完全に分別されているため、ほかの家族や親族から見た透明性が増すことは大きなメリットです。
また万が一受託者が差し押さえを受けたとしても、影響を受けません。

一方で、以下の条件が課される場合も多いことに注意が必要です。

  • ○金融機関が指定する内容が含まれていること
  • ○弁護士や司法書士などの専門家が作成すること

参考:リーガルエステート 【2020年4月司法書士が解説】家族信託で上場株式や投資信託を管理するには!?|有価証券の信託口口座とは(2020年8月20日引用)

従って信託口口座を開設する場合はあらかじめ金融機関に確認した上で、専門家への作成依頼が必要です。
費用は信託財産の1.5~2%程度、最低でも数十万円を要することも認識しておきましょう。

●現預金だけなら信託専用口座を作る方法もあるが、注意が必要

上記の内容を見て、「信託口口座は面倒そう」と感じた方も多いでしょう。
その場合、お手持ちの資産が現金や預金だけなら、信託専用口座で代える方法もあります。
これは受託者が専用の口座を開設し、口座名を家族信託契約書に明記した上で、委託者が依頼した金額だけを入金する方法です。

ただし、この口座は一般の預金口座と変わりません。
従って金融機関から見ると、受託者の資産として扱われます。
そのため、以下の点に注意が必要です。

  • ○もし受託者が先に亡くなった場合、一定金額以上は相続人全員の了承がないと引き出せない
  • ○受託者が借金を返済できない場合など、差し押さえの対象になる場合がある

特に受託者がなんらかの連帯保証人になっている場合は、注意が必要です。
本人に落ち度がなくても、ある日突然多額の請求をされ、差し押さえを受けるおそれもあります。
従ってこの方法を取る場合、家族信託の受託者は極力連帯保証人にならないよう注意が必要です。

●不動産が絡むと、必要書類が大きく増える

もし家族信託の対象に不動産が含まれる場合は、さまざまな書類が必要です。
以下は、必要な書類の代表例です。

  • ○固定資産評価証明書
  • ○登記事項証明書
  • ○公図
  • ○名寄帳
  • ○信託目録
  • ○登記済証または登記識別情報

上記の書類を、物件ごとに用意しなければなりません。

参考:司法書士柴崎事務所 家族信託の必要書類は?(2020年8月20日引用)
みなみ司法書士合同事務所 家族信託に関する手続のご案内(2020年8月20日引用)

さらに、ほかの書類が必要となるケースもあります。
そのため不動産がある場合は、専門家への依頼をおすすめします。

家族信託を上手に活用するポイントや、知っておきたい注意点

家族信託を上手に活用するポイントや、知っておきたい注意点

家族信託を活用する際には、知っておくと役立つポイントや注意点があります。
ここでは主なポイントを4点取り上げ、解説していきます。

●家族信託に詳しい専門家への相談をおすすめ

家族信託は、簡単な手続きで済むとは限りません。
特に不動産が関係するケースや信託口口座を開設する場合は、多くのケースで専門家の関与が必須となります。

このため家族信託を希望する場合は、弁護士や司法書士、税理士など、詳しい専門家に相談することをおすすめします。
できれば家族信託の実績が豊富な専門家を選ぶと、適切なアドバイスが受けられ、将来起こりうるトラブルも未然に防げます。
また、費用はケースバイケースです。
Webなどを活用して実績の多い専門家を探し、ざっくばらんに相談してみましょう。

●家族信託の運用開始までには2~3カ月必要

家族信託は「とにかく契約書を作ればよい」というものではありません。
なぜなら家族信託が開始されるまでに、以下の手続きを踏む必要があるためです。

  • ○どの財産を対象とするか検討する
  • ○誰に財産を任せるか検討する
  • ○受託者が行える権限を考える
  • ○家族信託に詳しい専門家のアドバイスを受ける
  • ○契約内容を検討する
  • ○契約書を作成し契約を締結(多くの場合は公証役場に出向き、公正証書を作成する)
  • ○家族信託契約書に基づいた口座開設や登記を行う

もし金融機関が関与する場合は、ここに「金融機関側でのチェック」も加わりますから、さらに期間がプラスされます。
手続きがスムーズに進んでも2~3カ月を要するものと考え、早めに準備を進めることがおすすめです。

●元気なうちなら、契約は変更できる

もし元気なうちなら、当事者の合意によって契約の内容を変更することは可能です。
一例として、信託したい財産や受託者の権限を増やしたいケースが挙げられます。

そのため最初は一部の財産のみ家族信託の対象として、うまくいくようなら契約を変更して財産の種類を追加するといった運用も可能です。

●可能な限り、家族全員の同意を得ておくことがベスト

家族契約は家族全員の同意がなくても、当事者間の合意があれば契約できることが建前です。
しかし以下に示す事情から、せっかく契約した内容が有効と認められない場合や、ほかの親族などから異議を唱えられる場合もあります。

将来の争いは、未然に防ぎたいものです。
このため、可能な限り家族全員の同意を得るように努めましょう。

いざというときのためにも、家族信託を知り将来に備えよう

家族信託をうまく使うことで、これまで築き上げてきた財産を有効に活用するとともに、認知症や施設へ入所しても安心して過ごせるメリットがあります。
まずは制度を知り、どう使うか考えることから始めましょう。
その上で不明な点などについて、家族信託に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
元気なうちからいざというときに備えることが、あなたの大切な財産を守るためには欠かせません。

参考:
柴崎智哉: Q&A「家族信託」の活用 これで親子の相続・介護トラブルを防ごう!. セルバ出版, 東京, 2019, pp.13-270.
司法書士法人トリニティグループ: もしもに備える財産管理 家族信託のツボとコツ. 秀和システム, 東京, 2019, pp.18-84.
朝日新聞社 なかまぁる 口座凍結ってホント?家族で備えよう、認知症にまつわるおカネの問題(2020年8月20日引用)
SMBC信託銀行 暗証番号の管理に関わる被害事例(2020年8月20日引用)
全国銀行協会 金融犯罪にご用心_通帳やキャッシュカードは大丈夫?(2020年8月20日引用)
東京家庭裁判所 成年後見人等の報酬額のめやす(2020年8月16日引用)
司法書士法人ふらっと 千葉家族信託相談センター 家族信託と成年後見制度の違いは何?(2020年8月20日引用)
東洋経済新報社 親の成年後見人になった私が後悔している事(2020年8月20日引用)
宮田総合法務事務所 家族信託のメリット・デメリットは何ですか?(2020年8月20日引用)
宮田総合法務事務所 証券会社で家族信託の信託口口座を作成する際の注意点(2020年8月20日引用)
司法書士法人ふらっと 千葉家族信託相談センター(2020年8月20日引用)
司法書士法人ふらっと 千葉家族信託相談センター 認知症対策(2020年8月20日引用)
司法書士法人ふらっと 千葉家族信託相談センター 障がいを持つ子供の将来が心配(2020年8月20日引用)
日本財託 後悔する前に知っておきたい専門家が明かす家族信託8つのデメリット(2020年8月20日引用)
町田・横浜FP司法書士事務所 絶対に知っておくべき家族信託のデメリット(注意点)を徹底解説します(2020年8月20日引用)
リーガル・パートナー 不動産だけを家族信託してもいいですか?(2020年8月20日引用)
司法書士法人やなぎ総合法務事務所 『年金の受給も家族信託で任せることができるのか?』(2020年8月20日引用)
司法書士法人はらこ事務所 家族信託の登記の登記事項(2020年8月20日引用)
司法書士・行政書士 こんどう事務所 家族信託(民事信託)の実務 ~不動産登記編~(2020年8月20日引用)
司法書士・行政書士 こんどう事務所 家族信託(民事信託)の実務 ~不動産登記編 PART2~(2020年8月20日引用)
リーガルフラッググループ 民事信託(家族信託)の信託登記が無事終わりました!(2020年8月20日引用)
おおさか法務事務所 家族信託Q&A(2020年8月20日引用)
リーガルエステート 【2020年4月司法書士が解説】家族信託で上場株式や投資信託を管理するには!?|有価証券の信託口口座とは(2020年8月20日引用)
リーガルエステート 【2020年4月信託口口座最新情報】親の認知症後でも管理できる信託口口座と信託専用口座とは!?口座開設ができる金融機関をお伝えします(2020年8月20日引用)
リーガルエステート 親が認知症気味で将来の介護費用が心配…。「いつか」の実家売却のために今からできる3つの対策(2020年8月20日引用)
司法書士柴崎事務所 家族信託の必要書類は?(2020年8月20日引用)
みなみ司法書士合同事務所 家族信託に関する手続のご案内(2020年8月20日引用)
朝日新聞 遺産の預貯金払い出し可能に 7月から、上限150万円(2020年8月20日引用)
弁護士法人アジア総合法律事務所 家族信託契約書を公正証書で作成する理由(2020年8月21日引用)

  • 執筆者

    稗田 恵一

  • 千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
    現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。

    保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ

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