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認知症の金銭管理をサポート!成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い

認知症などで認知能力が低下すると、金銭トラブルに巻き込まれる恐れがあります。
またサービス利用の手続きが困難になり、月々の支払いが遅れることも。
そんなときに活用できる「成年後見制度」と「日常生活自立支援事業」。
この二つの違いと具体的な活用例を説明します。

利用者の財産を守る公的制度を知っていますか?

成年後見制度と日常生活自立支援事業の概要

成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い

成年後見制度と日常生活自立支援事業は、どちらも判断能力が低下した人が適切な金銭管理や契約を行うための支援制度です。

成年後見制度は、判断能力が不十分な人や全くない人について、判断能力に応じて家庭裁判所が「補助人・保佐人・成年後見人」のいずれかを審判で選任します。
選任された人は本人の同意なく契約や口座引き出しなどの代行が可能になります。

日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)は、判断能力を全く喪失はしていないが不十分な人の金銭管理や契約を社会福祉協議会がサポートするサービスです。
事業の契約内容を理解できる人が利用対象で、地域の社会福祉協議会によって対応範囲が異なります。

成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い

成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い

成年後見制度と日常生活自立支援事業の違いを比較してみましょう。
(今回は民間の後見制度や判断力がある人の任意後見でなく、法定後見について記します)

●対応可能な支援内容の違い

支援内容 成年後見制度 日常生活自立支援事業
日常生活の金銭管理
年金受取に必要な手続き
通帳・銀行印の預かり
福祉サービスの利用援助 手続きのサポートのみ
入院契約 手続きのサポートのみ
施設入退所の契約 手続きのサポートのみ
医療行為の同意 × ×
身元保証人 × ×
不動産管理と処分 ×
遺産分割 ×
消費者被害の取り消し 手続きのサポートのみ

●申請窓口や申請方法の違い

成年後見制度 日常生活自立支援事業
申請窓口 家庭裁判所へ申し立て 社会福祉協議会へ相談
申請する人 本人又は配偶者、4親等内の親族、市区町村長、検察官など 本人や家族、民生委員、相談員など関係機関
支援対象となる人 認知症・知的障害・精神障害などの理由で判断能力が不十分な人、及び判断能力が全くない 認知症・知的障害・精神障害などの理由で判断能力が不十分かつ本事業の契約内容を判断できる能力がある
支援する人 家庭裁判所が選任した後見人など
(家族・弁護士・司法書士・社会福祉士等)
市区町村の社会福祉協議会職員
判断能力の確認方法 診断書・鑑定書 全国統一の「契約締結判定ガイドライン」で判断
(判断能力が疑わしい場合は「契約締結審査会」で審査)
費用の負担 本人負担 本人負担
支援内容の監督者 家庭裁判所、監督人 都道府県社協の運営適正化委員会

参考:水戸市社会福祉協議会 成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い

※成年後見人でも「医療行為への同意」「身元保証人」はできないが、医療機関ごとの成年後見人に求める役割のガイドラインに従い入院契約・支払い・医療チームへの情報提供を実施。
家庭裁判所の許可がおりれば後見人は一部の死後事務も行います。
参考:厚労省「医療減摩における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」

利用するときに気を付けたいポイントと活用事例

では成年後見制度と日常生活自立支援事業の利用時の注意点と、それぞれの活用事例を紹介します。

●事例① 日常生活自立支援事業を利用し、施設入所中でも買い物などを楽しむ女性

日常生活自立支援事業を利用し、施設入所中でも買い物などを楽しむ女性

  • ○グループホーム入所中の高齢女性
  • ○本人が財産管理や判断能力に不安を持つ

遠方に住む家族の勧めで社会福祉協議会(以下「社協」)に相談し、日常生活自立支援事業を利用開始した。
認知機能はやや低下傾向だが、「物をとられた」などの幻覚妄想はない。
頻繁に体調を崩して入院するが、入院手続きや日々の買い物は自分で可能。

社協に銀行印と通帳・年金手帳などを預け、施設の外出許可が出ると社協職員に施設に来てもらい、買い物に必要な金額を一緒に確認し、買い物を楽しむ。
入院時は社協に連絡して印鑑と通帳を持って来てもらい、入院手続きや支払い方法をチェックしてもらう。

そのほかにも定期的に社協職員が訪問し、今月の施設利用料や年金の受取額を一緒に確認、本人の納得のもと月々の固定費支払いが実施された。
家族は遠方で、通帳や印鑑の管理・日々必要な細々とした現金の管理が難しく、社協の利用で本人も家族も安心が得られ、施設内でも生き生きと過ごされた。

【ポイント】

  1. 1)日常生活自立支援事業はこの事業利用について理解・同意できる判断力が必要
  2. 2)利用について社協ともめたり、物とられ妄想がある場合は利用が困難
  3. 3)判断能力が低下した場合、成年後見制度などにシフトする支援が行われる

●事例② 在宅独居で身寄りがなく、成年後見制度を利用した女性

在宅独居で身寄りがなく、成年後見制度を利用した女性

  • ○在宅独居の高齢女性
  • ○夫は認知症で施設入所中、子供なし
  • ○急激に認知能力が低下

財産管理が困難になり、セールスや詐欺のトラブルに遭う可能性が高まってきたが、夫は既に施設入所中でほかに身寄りがない。
かかりつけ病院の相談員が本人了解のもと、遠方の親戚に連絡。

親戚は支援困難で、遠戚により家庭裁判所に成年後見の申し立てが行われた。
審判がおりるまでは病院・民生委員・社協がフォロー、半年後に家庭裁判所が後見人として司法書士を選任。

選任後、後見人の司法書士が年金の管理・通帳印鑑の管理・介護保険サービスの契約を行い、本人も独居を不安がりグループホーム入所の契約を実施。
後見人は入所後も定期的に面会し信頼関係構築に努めている。

【ポイント】

  1. 1)成年後見制度は選任までに数カ月かかる
  2. 2)後見人とのトラブル、親戚間で誰が後見人になるか争いが起こる可能性があれば、家庭裁判所が「成年後見監督人」を選び、不適切な後見事務がないかチェック
  3. 3)利用の必要があるが申し立てる家族がいない場合、市町村長が申し立てできる
  4. 4)診断書作成料は高額(数万円)だが「成年後見制度利用支援事業」の利用で、申し立て費用や後見人への報酬支払いが難しい場合は市町村が必要費用を補助する

ケースに合わせて成年後見制度と日常生活自立支援事業を利用しよう

判断力が低下してきても、成年後見制度や日常生活自立支援事業を利用すれば、金銭トラブルを防ぎ、必要なサービス利用を継続できます。

また判断力に不安はあっても、自分で同意や適切な買い物ができるなら、いきなり成年後見制度を利用せず、日常生活自立支援事業の利用が可能な場合もあります。

必要なケースがあれば、市町村や病院相談員・社協職員と連携して情報を集め対応しましょう。

参考:
法務省 成年後見制度~成年後見登記制度~(2020年9月25日引用)
厚生労働省 日常生活自立支援事業(2020年9月25日引用)
新潟県社会福祉協議会 日常生活自立支援事業(2020年9月25日引用)
水戸市社会福祉協議会 成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い(2020年9月25日引用)
岡山県社会福祉協議会 日常生活自立支援事業(旧地域福祉権利擁護事業)Q&A(2020年9月25日引用)
鳥取県 成年後見制度の市長村長の申し立てと利用支援事業(2020年9月25日引用)
厚生労働省 「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」の概要(医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究)(2020年9月25日引用)
公益社団法人 全日本病院協会 医療行政情報 厚生労働省医政局総務課事務連絡(令和元年6月3日)「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインの周知について」(2020年9月25日引用)
裁判所 成年後見制度における鑑定書・診断書作成の手引(2020年9月25日引用)

  • 執筆者

    湖上ゆうこ

  • 大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。

    保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士

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