高齢者施設で夜間火災を想定した避難訓練!初期消火と避難誘導の方法など
高齢者施設で夜勤のときに火災が発生すると、少人数で対応しなくてはいけません。
そのため、厚生労働省は、年2回の避難訓練のうち1回は夜間の消火・通報訓練をするように定めています。
利用者の命を守るために、どの職員でも対応できるような消火・避難訓練が大切です。
避難訓練の前に防災設備の確認が必要
ほとんどの宿泊を伴う高齢者施設で、消火器、屋内消火栓設備や自動火災報知設備、スプリンクラーの設置が義務付けられています。
しかし、設置されていても使い方や設置場所などを把握できていないと、火災が起きた場合に迅速に消火できません。
まず、全職員が防災設備の位置や使い方の確認をしましょう。
●消火設備
火災は1分1秒を争うので、消火器や消火栓などの設置場所や消火器の使い方を把握しているかによって消火できるかどうかが変わってきます。
1)消火器(全高齢者施設に設置義務)
消火器には、加圧式の粉末消火器と蓄圧式の強化液消火器があります。
一般的に小型粉末消火器が多く利用されており、放射時間は15秒から20秒ほどです。
火元から3mのところまで近づいて、ホース先を動かさずに火元に一気に薬剤をかけて消火します。
狭い場所では、火元から離れた場所で放射すると真っ白になって見えなくなるので注意が必要です。
2)屋内用消火栓(6,000㎡未満のデイサービスや一部の軽費老人ホームを除く1,000㎡以上の高齢者施設に設置義務)
赤いBOXに入っている消火栓は、消防隊員が到着する前に開栓して火元にホースで放水します。
使い方がBOXに書かれているので、避難訓練のときに読んでおきましょう。
短時間に初期消火をするためにも、避難訓練では消火器や屋内消火栓を実際に使って訓練をすることが望ましいです。
3)スプリンクラー(延床面積6,000㎡未満のデイサービスや軽費老人ホーム以外の高齢者施設では設置義務)
炎が天井まで到達すると、スプリンクラーヘッドが熱で溶けて、自動的に開栓して放水します。
鎮火して放水を止める場合は、スプリンクラーの制御弁を閉めて、圧力計が下がっているか確認してから排水便を開けてスプリンクラーの排水管の水を抜きます。
小規模のグループホームでは、一般水道の給水管から水を取る水道連結型スプリンクラーでもよいとされています。
ポンプ室内には物を置かないようにし、電圧計や電流計、ヒューズなどの破損や腐食、変形がないかを点検しましょう。
起動部の端子のゆるみや腐食、変形などがないかを確認し、バルブ類の開閉操作が簡単にできるかも点検します。
火元近くでスプリンクラーが作動すれば消火の可能性が高いので、その間に利用者の方々を安全な場所に案内できます。
4)防火扉や防火シャッター
感知器が火災を感知すると、自動で防火扉や防火シャッターが閉じて火災の拡大を防ぎます。
防火扉や防火シャッターの前には物を置かないようにし、定期的に業者による点検が義務付けられています。
防火扉や防火シャッターがある場所や消火後に開ける方法を確認しておきましょう。
●自動火災報知設備(延床面積300㎡未満のデイサービスや一部の軽費老人ホーム以外の高齢者施設では設置義務)
設備は、大きく分けて感知器、発信機、受信盤に分けられます。
1)感知器
感知器には、熱、煙、炎を感知する3種類があり、天井に付いた感知器が熱や煙、炎を感知すると警報音が鳴ります。
施設の感知器の種類によって、避難限界時間が変わります。
〇熱を感知するもの
周囲の温度が上がると空気が膨張して感知する差動式スポット型感知器、一定の温度まで上がると感知する定温式スポット型感知器があります。
熱感知をした場合は、ある程度炎が高くなっている状態なので早急な避難が必要です。
〇煙を感知するもの
煙が感知器に入ると光の乱反射が起こり感知する光電式スポット型感知器と、送光部と受光部の間に煙が入ると光ビームがさえぎられ感知する光電式分離型感知器があります。
熱感知器にくらべて、炎が小さいうちに出る煙も感知するため初期消火が可能です。
そのため、煙感知器を導入している施設が多いです。
〇炎を感知するもの
炎に含まれる紫外線を感知する紫外線式スポット型感知器と赤外線を感知する赤外線式スポット型感知器の2種類があります。
2)発信機(火災報知器)
発信機は、赤丸の火災報知器の中央にボタンがあり、強く押すと警報音が鳴ります。
夜間の見回り時などで火災を発見した場合に、すぐにボタンを押すために火災報知器の位置を把握しておきましょう。
ボタンを押すと、消火栓ポンプのスイッチが自動的に入るものもあります。
3)受信盤
警報音が鳴ると、感知器がどこで火災を感知したかを受信盤で確認します。
受信盤が示している位置を警報区域図を見て確認し、火災現場へ直行することができます。
つまり受信盤は、感知器からの信号を受信して火災場所を知らせます。
受信盤は主に事務所や管理室に設置されています。
●消防機関へ通報する火災報知設備(延床面積500㎡未満のデイサービスや一部の軽費老人ホーム以外の高齢者施設では設置義務)
火災が発生すると、自動火災報知設備と連動して電話回線を利用して自動的に消防へ通報できるシステムです。
一般に本体と電話型の子機が設置されていて、消防からの折り返し電話を子機で受けることができます。
設置場所は事務所やナースステーションなどで、大きな施設では各階のナースステーションに設置されているところもあります。
消防からの折り返し電話がありますが、あらかじめ住所などを録音したメッセージで消防へ知らせるので、すぐに初期消火や避難誘導に向かいましょう。
●排煙設備(必ずしも義務付けではない)
初期火災の温度が低い状態のときは、煙を高い位置で外へ排出させることで煙が充満することを防ぎます。
排煙装置は、煙感知器が作動すると自動的に作動して煙を外へ出します。
多くの施設では、高い位置に窓を作り、手動で開放して煙を外に出す自然排煙方式の設備を採用しています。
排煙装置の設置場所の確認と正常に開閉するかを確認しておきましょう。
排煙設備がない施設では、バルコニーに避難する場合なら廊下側の窓を開け、廊下を避難するなら火災が起きた居室の窓を開けて避難経路に煙がこないようにします。
ただし火の勢いが強いときは、窓を開けることで逆に外部から空気が供給されて火の勢いが増す可能性があるので、利用者の避難を優先します。
●避難限界時間を予測する
避難限界時間とは、出火してから火災を確認し、避難を開始してから、廊下や階段に火や煙が回って避難できなくなる前までの時間です。
総務省が示している避難限界時間の目安は、火元の部屋が燃える時間を2分間として、壁や天井が不燃材料の場合は5分間、準不燃材料の場合は4分間としています。
防火扉やスプリンクラーが作動すれば、避難限界時間はもう少し長くなります。
避難訓練の前に、出火元からの避難限界時間を算出し、避難訓練計画書を作成します。
夜間火災が起きたときの連絡方法や初期消火方法
夜間の何時にどこから出火したか、夜勤者の動き方などを避難訓練計画にまとめます。
夜間は勤務者が少ないため、まず通報と連絡を行い、火の拡大を防ぐ初期消火を行います。
●消防への通報と夜勤職員、責任者への連絡
火災を発見した場合は、ただちに消防へ通報するとともに大声で夜勤をしているほかの職員に連絡します。
感知器が火災を感知すると、警報が鳴るとともに自動的に消防へ通報されます。
そのため119番通報する必要はありません。
あるいは、火災通報装置の通報ボタンを押しても消防に通報されます。
●初期消火方法
火災を消防に通報した後は、火災現場に直行して初期消火をしなくてはなりません。
初期消火の流れは、次の順に行います。
- 1)火災を感知器が感知し警報音が鳴る
- 2)警報区域図を見て受信盤が示す火災現場を把握する
- 3)消火器を持って大声で「火事だー」と言いながら火災現場へ直行する
- 4)消火器ホースを固定して火災場所から3mのところまで近づき火元に最後まで放射する
- 5)スプリンクラーが作動し自動防火扉が閉まる(防火扉が手動なら閉める)
- 6)排煙装置が自動で作動するか排煙窓を開ける
- 7)他職員と連絡を取りながら火災現場に近い利用者から避難場所へ水平移動で誘導する
●居室から火災が発生した場合の初期消火の注意点
夜間には居室での火災が最も多く、火災原因は電気器具や、電気配線の故障や不備、たばこの不始末などです。
有料老人ホームや従来型の特養など、それぞれの居室に戸が設置されている施設では、ドアノブが熱い場合は開けたときに炎が外に吹き出す可能性があるので態勢を低くして少し戸を開けます。
火の勢いが強く消火が難しい場合は、利用者を避難誘導することを優先します。
●廊下や洗濯場、ユニット型共用室から火災が発生した場合の注意点
バルコニーへの避難ができない施設では、火や煙を閉じ込めることが難しく限界時間が短いため、短時間の初期消火が無理な場合は利用者の避難誘導を迅速に行います。
初期消火が無理な場合の利用者の避難誘導
火の勢いが天井まで達している場合は、危険な状態なので初期消火をあきらめて利用者の避難誘導に向かいます。
炎が腰以下ならすぐに初期消火を行いますが、腰以上でも危険がないと判断できる場合は、初期消火を直ちに行います。
施設の感知器が熱感知器なら、警報音が鳴ったときには炎が上がって熱を持っている状態なので、初期消火よりも避難誘導を優先します。
●火災の広がりを最小限にとどめる
感知器が火災を感知すると、火災が広がらないように排煙装置が作動し、防火扉が閉まります。
自然排煙設備の場合は、窓を開けて煙を外へ逃します。
ただし、火の勢いが強いときは排煙装置を作動することでかえって勢いを増す可能性があります。
また排煙が居室や隣のユニットのほうへ流れるなら、ほかのユニットまで危険になるため作動させてはいけません。
●利用者を安全な場所に一時的に避難誘導する
火の回り方は施設の構造によって異なりますが、5分もすれば上の階へと燃え広がります。
エレベーターは使わずに利用者を一刻も早く避難誘導しなくてはなりません。
〇居室から出火した場合
火元から近い居室の利用者から遠い利用者へと順にバルコニーや安全な場所へと避難誘導します。
居室でスプリンクラーが作動しているなら、火の勢いが弱くなるので落ち着いて順に水平移動で避難誘導します。
夜勤者全員で、どの場所へどのように手分けして誘導するかを計画に盛り込み、整備された避難誘導体制の通りに迅速に誘導します。
夜は利用者が臥床し、独歩で歩ける人以外は車椅子に移乗してからの避難なので時間がかかります。
少人数の夜勤者で短時間に地上へと誘導することは難しいので、バルコニーや非常階段近くの居室や踊り場など、火元から遠く、消防隊員が助け出しやすい場所まで一時的に避難誘導します。
〇共用場所や廊下などから出火した場合
防火扉がない廊下などから出火した場合は、廊下の排煙装置を作動させ、それぞれの居室のバルコニーのドアを解錠し、廊下側のドアを閉めます。
バルコニーから居室の窓を開けて部屋に入り、火元に近い利用者からバルコニーへ避難誘導します。
バルコニーがない施設は、廊下から避難しなくてはいけないので、火に巻き込まれるリスクが大きいです。
2カ所(例:エレベーター前の居室から出火したならバルコニーと非常階段前の踊り場)に避難場所を設けて、火元から遠い安全な場所へと素早く避難誘導を行わなくてはなりません。
廊下や防火扉のない共用部分には、燃えやすいものを置かないように気を付けましょう。
●消防隊員が到着する
消防隊員に出火場所や利用者の避難場所、職員の人数などを説明して、消防隊員の指示に従います。
あらかじめ利用者の名簿や施設の図面を準備できると、消防隊員が迅速に動けるでしょう。
●消火した後にすること
1)消防隊員による現場確認
消火した後は消防隊員が火災現場を確認します。
2)利用者の所在確認
消火した後は、すべての利用者がいるかどうかを確認します。
もし、いない利用者がいた場合はトイレやほかの階などを探します。
3)利用者を居室に誘導する
利用者をそれぞれの居室に誘導し、ベッドへ臥床介助や臥床促しをします。
4)火災後の後片付け
消火器を放射した後やスプリンクラーの放水による水浸しの状態を掃除して、後片付けをします。
火災で燃えた場所は、利用者が入らないように囲いをしておきましょう。
避難訓練で夜間の火災が起きても全職員が対応できるようにしよう
勤務者が少ない高齢者施設で火災が発生すれば、大勢の利用者を短時間で避難させるのは非常に困難です。
まず、消火設備や自動火災報知設備や消防に通報できる火災報知設備の使い方を把握し、初期消火の方法を身につけます。
火災が拡大することを防ぎ、利用者を迅速に避難誘導する訓練で、実際の火災に備えましょう。
参考:
日本防火技術者協会: 高齢者福祉施設の夜間火災時の防災・避難マニュアル. 近代消防社, 東京, 2015.
厚生労働省 老健第二四号 介護老人保健施設における防火、防災対策について(2020年10月21日引用)
総務省 「小規模社会福祉施設における避難誘導体制の確保」について(2020年10月21日引用)
大津市役所 みんなが知っておくべき自動火災報知設備の使い方!(2020年10月21日引用)
能美防災 病院・診療所・社会福祉施設などの消防関係法令の改正について(2020年10月21日引用)
WAM NET 安全性_報告書 第4章防火安全対策の構築(2020年10月21日引用)