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職場の人間関係改善には「認知療法」が役立つ。作業療法士が教える考え方のクセとの向き合い方

日々の業務において人間関係は避けては通れないものですが、少しのことでイライラしたり、落ち込んだりすることがあると思います。
過度に自分のせいにしたり、相手のせいにしたりするのは考え方のクセに原因があることが多く、認知療法はその考え方のクセに焦点を当てて行われます。
患者さんのみならず、職場内での人間関係においても認知療法の考え方は役立ちます。
今回は考え方のクセのいくつかのパターンを紹介し、どのように対処すれば良いのかを紹介します。

「もうだめだ…」と崖の縁にうずくまってしまっていませんか?

人間関係の難しさの原因は考え方のクセが原因かも?

人間関係の難しさの原因は考え方のクセが原因かも?

業務中に失敗をしてしまったときに、上司や同僚から注意され「なんて私はダメなんだ」、「私は嫌われているんだ」、「いつも私のことばかりを怒って、あの人はひどい人だ」などと感じる方がいるかもしれません。
マイナス思考や飛躍した考え、思い込みが生じる原因は「考え方のクセ」にある可能性があります。
この考え方のクセに気づき、柔軟に物事を考えられるようにするためには「認知療法」の考え方が役立ちます。
認知療法とはもともとはうつ病の治療法として開発されてきた心理療法です。
ここでの「認知」とは、「ものの受け取り方や考え方」のことを指します。
認知療法の基本的な考えは、客観的に現実を見て、問題に対処したり、解決したりできるようになることです。
現実的に物事を見ることで柔軟に物事を考えられるようになり、思い込みやマイナス思考を手放すことができます。

考え方のクセの原因とは?

考え方のクセのことを認知療法では、「自動思考」、「スキーマ」といいます。
「自動思考」とは私たちの頭の中に自動的にパッと思い浮かぶイメージのことです。
「スキーマ」とは自動思考よりも心のより深いところにある考え方のことで、その場その場で浮かんでくる考えとは違い、その人が持ち続けている自分自身や世間に対する一貫した考え方、人生観や人間観のことを指します。
信念は自動思考の基礎になっています。
先ほどの上司や同僚に注意されたという例において「自分は嫌われているんだ」という自動思考が浮かんだ方は「他人は信用できない」という信念を持っているかもしれません。
「いつも私のことばかりを怒って、あの人はひどい人だ」という自動思考が浮かんだ方は「私は愛されるべき人間だ」という信念を持っているかもしれません。
考え方のクセと向き合うには「自動思考」と「信念」に働きかけることが重要です。

代表的な10の考え方のクセとは?

考え方のクセには代表的なものが10個存在します。
自分はどの考え方のクセがあるのかに気づくことが物事を柔軟に考えるための第一ステップになります。

  1. 1)全か無かの法則
  2. 2)過度の一般化
  3. 3)メンタルフィルター
  4. 4)拡大解釈と過小評価
  5. 5)感情的決めつけ
  6. 6)マイナス化思考
  7. 7)結論への飛躍
  8. 8)すべき思考
  9. 9)レッテル貼り
  10. 10)個人化

●全か無かの法則

全か無かの法則

全か無かの法則とは、物事を「白か黒か」、「勝ち負け」といった二者択一的な考え方をすることを指します。
完璧でなければ納得できない、欲求が100%満たされるかどうか、など中間の考え方ができず、両極端な考えになってしまうのが特徴です。

●過度の一般化

過度の一般化とは、わずかな出来事を根拠にあらゆる出来事が同じような結果になると一般化することを指します。
「私はいつも不運だ」、「誰も私のことを相手にしてくれない」といった宿命的な考え方になってしまうのが特徴です。

●メンタルフィルター

メンタルフィルター

メンタルフィルターとは、ネガティブなところばかりに目がいってしまい、良い点やうまくいったことが見えなくなってしまうことを指します。
悲観的な心のフィルターを通して自分や他者、世の中を見てしまうため、何事も悲観的に捉えてしまいがちになってしまうのが特徴です。
苦手な人から褒められたときにはその好意が目に入らず、少しそっけない態度や注意をされたときには「私はやっぱりあの人から嫌われているんだ」と考えてしまいます。

●拡大解釈と過小評価

拡大解釈と過小評価とは、自分の短所や失敗、抱えている問題の程度を大げさに考え、反対に自分の長所や成功、能力を全く評価しなかったり、小さく捉えることを指します。
些細なミスや失敗を大げさに考えてしまい、抑うつ気分や不安な気分になってしまったり、自分の成功体験を「できて当たり前」、「あれはまぐれだった」と過小評価したりするのが特徴です。

●感情的決めつけ

感情的決めつけとは、実際に起きた出来事への判断が感情に左右され、その人の中ではそれが当然とされる考え方を指します。
「あの人の言動は攻撃的に感じる、だからいつか私を見捨てるに違いない」というようにネガティブな感情によって物事を推測してしまう特徴があります。

●マイナス化思考

マイナス化思考

マイナス化思考とは、自分にとってポジティブなことや良くも悪くもない中間的なことを無視し、ネガティブな情報にだけ目を向けてしまうことを指します。
他者からの称賛を「単なる社交辞令だ」と捉えたり、「見せかけの優しさで、本当は私なんかダメな人間でいなくなれば良いと思っているのだ」と考えてしまう特徴があります。

●結論への飛躍

結論への飛躍とは、明白な理由がないにもかかわらず、悲観的な思いつきを信じ込んでしまうことを指します。
物事を確実に悪い方向に向かって進んでいくに違いないと考えたり、他者からの自分に対するネガティブな感情を先読みしてしまったりする特徴があります。

●すべき思考

すべき思考

すべき思考とは、自分や他者に対して「〜すべき」、「〜しなければならない」と考えることを指します。
自分の中のルールに縛られて、逸脱が許されないことや、自分や他者の失敗を許せず、怒りや緊張を感じてしまうことが特徴です。
「決して〜しなければならない」、「常に〜でなければならない」という思考が繰り返されることで認知の歪みはさらに硬いものとなり、柔軟に物事を考えることが困難になってしまいます。

●レッテル貼り

レッテル貼りとは、物事や人に対して過度の否定的なレッテルを貼り、冷静な判断ができなくなってしまうことを指します。
あらゆるものに否定的なレッテルを貼ることで、自分の良いところや他者の良いところが見えなくなってしまう特徴があります。
「自分はダメな人間だ」というレッテルを貼ってしまうと自分の長所が見えなくなってしまい、自分が嫌いになってしまうことがあります。

●個人化

個人化とは、良くないことが起きると自分には関係がなくても「自分のせいだ」と考え、良いことが起こると「他者のおかげ」と考えることを指します。
企画運営をしていてうまくいかなかったら「失敗は全て自分のせいだ」と考えてしまい、うまくいったら「みんなのおかげでうまくいっただけで私は何もしていない」と考えてしまう特徴があります。
自分を責めてしまう傾向があり、自己嫌悪や自己否定につながる可能性があります。

コラム法で考えを見つめなおし、バランスの良い考え方を身につけよう

コラム法で考えを見つめなおし、バランスの良い考え方を身につけよう

コラム法とは、つらい気持ちや動揺した場面が起こったときの「感情」や「自動思考」などを紙に書き出し、自分を客観的に見つめなおすことでバランスの良い考え方を身につける方法のことです。
書き方には7つの手順があります。

  1. 1)状況
  2. 2)気分
  3. 3)行動
  4. 4)自動思考のチェック
  5. 5)根拠と反証
  6. 6)適応的思考
  7. 7)気分の変化

●状況

つらいと感じたり動揺したりしたときの状況を具体的に書き出します。
その出来事が「いつ」、「どこで」、「誰といたときに」、「何をしていたときに」起こったのかを書くことでどのような自動思考が起こったのかが捉えやすくなります。

●気分

その状況で感じた気分を書き出します。
重要なのは「端的な言葉」で書き出すことです。
その横にその感情、気分をどの程度感じているかをパーセンテージで記載します。
全くその感情を感じていない場合を0%、もっとも感じている場合を100%で記載します。
パーセンテージで記載することで自分の感情を少し客観的に見つめることができます。

●行動

そのときにどのような行動をとったのかを、端的に書き出します。
実際に書き出してみると意外にも状況を悪くするような行動をとっていたことに気づくことがあります。

●自動思考のチェック

先に書いた気分を体験したときにパッと頭に浮かんだ考えやイメージを書き出します。
状況を思い出し、頭の中にどのようなことが浮かんだのかと自分に尋ねてみると良いでしょう。
気分と自動思考の区別を難しく感じる方もいると思います。
一般的に気分は「ひとつの言葉で表現できるもの(悲しい、つらい、怒りなど)」で、自動思考は「文章になって頭に浮かんだこと(自分はダメな人間だ、あの人は自分のことを嫌っているに違いないなど)」と考えれば良いです。
心の動揺はそのときに浮かんだ自動思考と密接に関係しています。
自動思考を書き出したら、上述した10の考え方のクセのどれに当てはまるのかを横に書き出します。
「自分はダメな人間だ(レッテル貼り)」といったように書くと良いでしょう。
複数の考え方のクセに当てはまる場合もあるので、複数あるときには複数書いておきましょう。

●根拠と反証

自動思考を裏付ける事実(根拠)と、それに矛盾する事実(反証)を書き出します。
根拠には事実だけを書き出すようにし、相手の心を臆測して書かないようにすることが重要です。
反証には自動思考と矛盾するような事実を探してなるべくたくさん書き出します。

●適応的思考

自動思考にかわる柔軟な考えを書き出します。
根拠と反証をつなぎ、「(根拠)という事実もある、しかし(反証)という事実もある」と書き出すと良いでしょう。
ここで大事なのは浮かんだ自動思考が事実ではないと決めつけないことです。
あくまでも仮説だとしてどの程度現実に沿っているのか判断します。
書き出せたら、「もう一度冷静になって考えてみよう」、「視点を変えてみるとどうなるだろうか」、「これまでの経験を振り返って何か気づくことはないだろうか」と自分に問いかけてみると、考え方の幅が広がります。

●気分の変化

適応的思考を踏まえて、気分がどのように変化したのかを書き出します。
新しく生まれた気分を書き出しても良いです。
気分が楽になった場合は、今後同じような出来事が起こったときには書き出した適応的思考をすれば良いですし、あまり変化がなければほかの考え方はないかと考えることができます。

自分のスキーマに気づき、現実的なスキーマに修正しよう

スキーマに気づくのは自動思考の場合より困難です。
スキーマに気づくにはこれまでの経験やコラム法での振り返りをもとに、スキーマを推測していきます。
スキーマの同定には「下向き矢印法」を使います。
状況や自動思考に自分がどのような意味づけをしているのかを問いかけながら探っていく方法です。

例)

(状況)上司が自分にだけ残業を頼んで先に帰った
            ↓
(自動思考)私にだけ残業を頼むなんてひどい人間だ
            ↓
(自己について)私は他者に気を遣ってもらえない人間だ
            ↓
(自己について)私は愛されない人間だ

評価基準を文章にして書き出すことで何を変えれば良いのかが見えてきます。
スキーマには利点と欠点の両方があるため、役に立つものと立たないものをはっきりさせることでスキーマの役立つ部分を伸ばしていくことができます。

自分を客観的に見つめて適応的な人間関係を

考え方のクセを直すには時間がかかるかもしれませんが、自分を客観的に見つめることで気持ちが楽になります。
また、より良い人間関係を築くことができます。
実際に同じような出来事が起こったときに適応的に考えられるようになるにはコラム法を用いて何度も練習することが重要です。
まずは自分の考え方のクセに気づき、自分を客観的に見ることから始めましょう。

参考:
福岡県中小企業団体中央会 認知の歪みへの対処法(2020年12月28日引用)
日経クロステック(xTECH)予防編:“考え方”を変えて、ストレスに強くなる(2020年12月28日引用)
厚生労働省 うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料) (2020年12月28日引用)

  • 執筆者

    田中孝尚


  • 大学を卒業後、作業療法士免許を取得。急性期病院やデイサービス、福祉用具・住宅改修業者での勤務を経て、現在は精神科病院にてリハビリ業務に従事。心身の健康や在宅で安全に安心して暮らせる方法をわかりやすく丁寧にお伝えします。医療従事者の方々の健康にも焦点を当てていきたいと思っています。

    保有資格:作業療法士、重度訪問介護従業者、福祉住環境コーディネーター2級

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