生活期リハビリテーションで働くために覚えておきたい3つの視点
生活期リハビリテーション(以下生活期リハビリ)で働く上で重要なことはリハビリに関する知識や技術だけではありません。
もちろん、知識や技術は必要ですが、それに加えて生活期リハビリならではの視点が必要になります。
今回は生活期リハビリで働くために知っておきたい3つの視点について紹介します。
24時間の生活をとらえる視点を持とう
生活期リハビリで必要な視点の1つ目は、「時間」をどのように考えるかです。
学生や新人のリハビリスタッフは、利用者さんと関わりを持つリハビリの時間だけに目を向けがちですが、ここに大きな落とし穴があります。
利用者さんがリハビリ以外の時間にどのような生活をしているのか、24時間の生活をとらえる視点が必要なのです。
そこで、具体的にどのように重要なのかを事例を交えて解説します。
●利用者さんの生活はリハビリ以外の時間のほうが長い
私たちが生活期リハビリで利用者さんに関わるのはせいぜい1時間程度です。
そのため、残りの23時間の生活をどのように過ごしているのかを把握することが非常に重要になります。
たとえば、リハビリの時間はとても気合いを入れて運動していても、残りの23時間ベッドに横になっていては、運動の効果があるどころか、廃用が進んでしまいます。
また、日中の活動性低下や心身の不調が夜間の過ごし方(睡眠不足、トイレ頻回、睡眠時無呼吸症候群など)に問題がある場合も少なくありません。
その場合は、夜の生活について主介護者の家族や施設の介護スタッフなどとしっかり連携を取って把握しておかなければ、うまくリハビリを進めることができないでしょう。
以上のように24時間どのような生活を送っているのかを他職種や家族と連携を取りながら把握する視点が必要なのです。
●リハビリの時間は「特別な時間」であることも少なくない
訪問リハビリでは実際に生活する在宅でリハビリをするため、「本来の生活の様子を踏まえたリハビリ」ができると思っている方も多いと思います。
もちろん、実際の生活をしている環境でリハビリをして、普段しているであろう動作の練習ができるのが訪問リハビリの魅力です。
しかし、自宅で他人が訪問する場合ということを考えると、「普段の様子」をそのままさらけ出すでしょうか。
普通に私たちが他人を家に招くときのことを考えても、家を奇麗にしたり、体のコンディションを整えたりと普段より少し気合いを入れることでしょう。
そのため、リハビリの時間以外でも同じような動作や活動、生活行為を行えているかを確認する必要があります。
リハビリ以外の時間は部屋が散らかっているなら、そのような環境を想定したリハビリをしなければ意味がありません。
コンディションがバッチリのときだけでなく、朝の起床直後の場合、忙しく家事をした後に疲れている場合などさまざまなタイミングを想定してリハビリをしていく必要があります。
●24時間だけでなく日単位でとらえる視点が必要な場合も
生活期リハビリである程度活動性の高い利用者さんは、24時間単位だけでなく、日単位で生活をとらえる視点が必要な場合もあります。
たとえば、毎週土日は家族と買い物に行くという利用者さんは、平日の生活リズムを把握することはもちろん、土日は違った生活リズムになるため、そのときに解決必要な課題はないかを評価する必要があります。
利用者さんの「やりがい」や「生きがい」につながる生活行為はどこに潜んでいるかわかりませんので、広い視点で時間をとらえて、リハビリの目標設定やプログラムに反映させるようにしましょう。
住環境だけでは足りない!生活期に必要な環境を把握する視点
生活期リハビリでは、住環境を評価し、住宅改修や福祉用具の活用など環境の調整をすることが重要です。
しかし、それ以外にも把握しておかなければならない環境要因があるので解説します。
●季節や天気といった自然環境の影響も把握しよう
季節が冬と夏で利用者さんの生活環境が変わる場面はたくさんあります。
以下に具体例を挙げてみます。
- ○気温
- ○日照時間
- ○身に着ける衣類
- ○寝具
- ○暖房(冷房)器具の有無
- など
たとえば身に着ける衣類だけでみても、さまざまな違いが生じます。
衣類の重さは夏は2kg程度でも、冬の外出時には5kg以上になることもあります。
3kgの重りを背負って外出すると考えると体にかかる負担は夏と冬で差があることは一目瞭然です。
また、冬は更衣の手間がかかる、夏は汗で洗濯の回数が増えるなどの変化も想定されます。
寝具の重さも夏と冬では大きく変わることもあります。
そのため冬になると布団が剥がせず寝起きに弊害が生じるということもあります。
ほかにも冬は日照時間が短く活動性が低下しやすい、夏は気温が高く脱水になりやすいなど気温の違いで体調管理の対策も違ってきます。
このように季節の違いを踏まえて、利用者さんの生活を把握していることが大切です。
季節と同様に晴れや雨といった天気によっても生活が変わってくるので考慮して評価しましょう。
●自宅内だけでなく周辺の環境も知っておこう
生活期リハビリにおいては、目標設定が屋内だけでなく、屋外の活動になることも少なくありません。
そのため、屋内の環境だけでなく、周辺環境の把握もする必要があります。
リハビリ職としては、自分の所属する法人のある地域の周辺環境はしっかり把握しておき、地域資源としてどのようなものがあるかや、道路の状況、地域の特性などは知っておくようにしましょう。
利用者さんに関わる人を評価しよう
最後の視点は「人」に関する視点です。
生活期リハビリでは利用者さん本人だけでなく、利用者さんに関わるさまざまな人の評価をする必要があります。
どのような人に、どのような評価をしていく必要があるかを解説します。
●施設、在宅問わず介護者の評価は必須
ADLに介助が必要な利用者さんの場合、介助をする人は1人ということはまずありません。
そのため、施設や在宅で関わる介護者がどのような介助をしているか、それぞれの介助時における利用者さんの様子などを評価していく必要があります。
たとえば、長男夫婦と暮らしており、通所介護やヘルパーによる外出を利用するAさんがトイレ介助を必要とする場合、以下のような人が関わる可能性があります。
- ○長男
- ○長男の妻
- ○通所介護のスタッフ複数人
- ○ヘルパー複数人
この時、「トイレ動作の介助量を減らしたい」というリハビリ目標が設定された場合、これら介助に関わる人たちがどのような介助をしており、どのような点が難しいのかを把握しながら、利用者さんの動作や介助方法、トイレの環境といった部分を評価して、リハビリプログラムに反映させていく必要があります。
また、介護者が変われば、介助する時間も変わっていきます。
最初の視点で紹介した、「24時間の視点」という中で、いろいろな介護者から情報収集することで、同じ動作でもさまざまな時間帯における動作を把握することができます。
●近隣住民の関わりを知ればインフォーマルサービスにつなげられる
利用者さんの友人や地域の見守り役の人、近隣住民の活動などを把握すれば、利用者さんのリハビリ目標に対して、インフォーマルサービスを活用することができます。
たとえば、ゴミ出しをするという目標に対して、見守り歩行にて可能というレベルまで歩行補助具や動作練習で可能となった場合、近所の友人が「一緒に行こう」と誘いに来てくれるとなれば、晴れて目標達成となります。
また筆者が関わる地域の介護予防拠点では、利用者さん同士で誘いあって運動の場所に赴くようになったことで、リハビリを無事卒業できたという例もあります。
そのため、ケアマネジャーや地域包括支援センターのスタッフなどとしっかり連携を取り、目標に対して近隣住民の協力が得られないかを意識する視点を持ちましょう。
3つの視点を常に意識して利用者さんの生活再建のために働こう
急性期や回復期のように病気や障害に注目して機能やADLの改善を図ることは難しくても、時間や環境、人を把握して、それぞれに対してうまく工夫をしていくことで、利用者さんの「できること」を増やすことができます。
そのため、3つの視点を意識しながら働き、利用者さんの生活が豊かになるように、生活期リハビリに取り組みましょう。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級