失禁体験装置をご紹介。介護者が失禁を疑似体験し、高齢者に寄り添う介護のヒントにしよう
高齢者のなかで、失禁の体験をした方は少なくありません。
介護者は、失禁してしまったときの気持ちに寄り添うことも重要です。
この点で、失禁体験装置を活用し疑似体験することは有効です。
本記事では装置の紹介を行い、介護に生かすポイントを解説します。
失禁したときの気持ちを、介護者が知っておいたほうが良い理由
高齢者を介護する際には、失禁したときの気持ちを知っておくとより良い介護につなげやすくなります。
その理由を4つに分けて、解説していきましょう。
●多くの高齢者が、失禁に悩んでいる
高齢者は男性・女性とも、失禁に悩む方は少なくありません。
「尿ラボ」を運営する加藤貿易は、2019年2月に60歳以上の男性195名に対して、尿漏れに関するアンケートを行いました。
このうち23名(11.7%)が「尿失禁がある」と回答しています。
一方で女性の高齢者は、さらに多くの方が失禁に悩んでいます。
花王は2017年5月に30代から70代の女性に対して、「軽失禁実態調査」を行っています。
このうち60代で35%、70代で34%の方が「尿もれの症状がある」と回答しています。
さらに日本泌尿器科学会も、40歳以上の女性の4割以上が経験していると指摘しています。
●失禁に悩む方の多くは、誰にも相談できていない
失禁に悩む方の多くは誰にも相談できず、悩みを共有し理解してもらえないまま過ごしていることが実情です。
この点について花王は、7割の女性が家族にも相談できないという結果を示しています。
また加藤貿易は調査結果のなかで、「泌尿器科医にさえ尿の悩みを打ち明けにくい状況」と記しています。
これらの結果は日本泌尿器科学会による「実際に悩んでおられる方は実は大変に多いのですが、恥ずかしいので我慢している方がほとんど」という指摘と一致します。
「失禁」「尿もれ」という事実を1人で抱え込み深く悩む方は、あなたの身近にいるかもしれません。
●介護者が感じる手間以上に、高齢者は困っている
一方で介護する側からは、失禁の対応に多大な手間がかかっているという意見を持つ方もいるでしょう。
確かに着替えをさせたり、ぬれた床を拭いたりといった負担は軽くありません。
しかし介護者が感じる手間以上に、失禁を抱える高齢者はさまざまな面で困っています。
- ○服を汚してしまい、下着も上着も着替えなければならない。洗濯の手間も増える
- ○家具や床、壁なども汚してしまう
- ○すぐ着替えができないと体を冷やし、体調を崩す可能性がある
- ○失禁したらどうしようと考えると、外出したくなくなる
失禁が起こるたびに不安が増し、日常生活への制約が増します。
失禁で最も困る人は、本人であることを忘れてはなりません。
●高齢者に寄り添う介護者であるためには、失禁したときの気持ちを理解し、受け入れることが必要
失禁を見つけてしまうと、介護者のなかには高齢者に対して叱るなど、厳しい態度を取る方もいるかもしれません。
しかしここまで解説した通り、多くの高齢者は失禁したことに対して深く悩んでいます。
このような方に対し心の傷をさらに深くする行為を、介護者はすべきではありません。
そもそも失禁は、叱ったからといって解決する事象ではありません。
失禁したときの気持ちを理解し、温かく接することが大切。
このことは、高齢者に寄り添う介護者となる重要なポイントです。
とはいえ「実際に失禁して、どのような気持ちになるか確認する」方法は、手間や心理的な負担がかかるもの。
そこで、失禁を疑似体験できる機器が役立ちます。
失禁体験装置で、失禁を疑似体験できる
失禁したときの気持ちを疑似体験できる機器として、失禁研究会が作成した「失禁体験装置」があります。
衣服を汚さないこともあり、介護者への教育にも適しています。
ここからは失禁体験装置の特徴を大きく2つに分け、解説していきます。
●失禁する際の感覚を、手軽に体験できる
失禁体験装置は「おしっこをしたい」と思ってから実際に失禁するまで、一連の感覚を疑似体験できる機器です。
疑似体験は空気とお湯を活用し、大きく2つのステップに分けられています。
- ○腹部に装着した空気袋へ空気を送り、腹部を圧迫して「おしっこをしたい」感覚を再現する
- ○下半身に装着した水袋へお湯を流し、「おしっこを漏らした」感覚を再現する
これらは空気とお湯、モーターやポンプといった、広く使われるもので実現していることも特徴です。
実際に失禁してしまうと衣類がぬれてしまうため、着替えは避けられません。
一方で失禁体験装置ならば生温かい液体が太ももから足首へ流れていく感覚を、衣服をぬらさずに体験できます。
介護される側の気持ちを実感する上で、適した教材の1つといえるでしょう。
1人当たり5分間という短い時間で体験できることも、魅力的なポイント。
最小限の手間と身体的な負担で、介護者としての貴重な体験ができることは大きなメリットです。
●失禁した方の思いを知り、介護に生かすことが重要
せっかく失禁体験装置で疑似体験しても、「面白かった」「楽しかった」という感想で終わらせてはいけません。
介護される方が失禁してしまった際の思いを知り、介護に生かすことが重要です。
疑似体験とはいえ、失禁した際に感じた内容は貴重なもの。
たとえば羞恥心を覚えた場合は、その体験が今後につながる学びとなります。
体験時にどう感じたかを記録し心にとどめておくことは、高齢者に寄り添う介護につながります。
●男女の感覚差を実現することは、これからの課題
失禁体験装置の活用で得られる体験は貴重ですが、2021年5月現在、男女の感覚差を明確に再現できるとの記載はありません。
この点について失禁研究会は、今後の課題としています。
●個別貸し出しは有料。あらかじめ問い合わせが必要
失禁体験装置はレンタルを活用し、疑似体験に活用できます。
費用は有料で、2021年5月現在で1日1万円です。
なお貸し出し可能な装置がない、新型コロナウイルスなどの理由により、すぐに貸し出しを受けられない場合もあることに注意してください。
失禁の疑似体験を、介護に生かすポイント
失禁の疑似体験で重要なポイントは、当事者ならではの体験や感想が得られることです。
「とても恥ずかしい」という感想を持つ方も、多いことでしょう。
疑似体験ならば1回限りであり、身につけている衣服も汚れずに済みます。
しかし失禁してしまった高齢者は、このような感想をその都度持つことを意識しなければなりません。
いたたまれない気持ちになる方も多いことでしょう。
加えて疑似体験と異なり、衣服も交換しなければなりません。
このため失禁した方を介護する場合は身体的なケアだけでなく、安心感を与えることも求められます。
温かく接し、動揺する心を落ち着かせましょう。
また繰り返し失禁した場合でも、責めないことが重要です。
失禁体験装置を生かし、高齢者に寄り添う介護につなげよう
失禁体験装置は衣服や床などを汚すことなく、失禁した際の感覚や感情を体験できる点で有効です。
体験した際に不快な感覚や感情を持つ方も多いと思いますが、それは貴重な学び。
失禁してしまった方と同じ目線で見ることは、利用者に寄り添った介護につながります。
高齢者は、失禁する方も多いもの。
失禁体験装置を生かし、高齢者に寄り添う介護につなげましょう。
参考:
PR TIMES 60歳以上男性の約半数が尿もれに悩んでいる、「尿ラボ」 アンケート結果を公開(2021年5月13日引用)
花王 誰にでも起こりうる「女性の軽失禁」の実態と「おもい」(2021年5月13日引用)
日本泌尿器科学会 尿が漏れる・尿失禁がある(2021年5月13日引用)
クーリエ 介護で最もストレスとなる排泄障害は高齢者虐待を助長する…老化という避けがたい原因へ対策は?(2021年5月13日引用)
内閣府政府広報室 「介護ロボットに関する特別世論調査」の概要(2021年5月13日引用)
白岩千恵子, 小薮智子, 他 看護学生による紙おむつでの排泄体験の内容と学び(2021年5月17日引用)
失禁研究会 トップページ(2021年5月13日引用)
失禁研究会 Product(2021年5月13日引用)
失禁研究会 Q&A よくある質問(2021年5月13日引用)
LOGZGROUP Puente 失禁体験装置でポジティブな尿失禁体験を|失禁研究会(2021年5月13日引用)
エキサイト 女性レポーターが“失禁”体験、電気通信大学失禁研究会がデバイス開発。(2021年5月13日引用)
Twitter 失禁研究会公式アカウント(2021年5月13日引用)
ソニー生命 介護「よくわかる 介護Q&A」4.介護上手になるためのポイント(2021年5月13日引用)
レオパレス21 ご高齢者を傷つけない排泄介助(トイレ介助)のポイント(2021年5月13日引用)
-
執筆者
-
千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ
中里明香 さん
2021年8月19日 9:01 PM
有料老人ホームで勤務している作業療法士です。失禁体験装置をぜひお借りしたいなと思いました。老人ホームでお借りする場合でも費用は個人貸出10000円になりますか?