社会福祉士実習は何を学ぶ?ほかの職種やコメディカルはどんなことを教えたら良い?
社会福祉士の実習は、ケアワーカーやコメディカルなど他職種からみると「何を学んでいるのか」実習目的がわかりにくいかもしれません。
そこで今回は「社会福祉士実習生が来たら他職種はどんなことを見せアドバイスしたら役立つか?」のヒントをお伝えします。
社会福祉士実習の目的
社会福祉士を目指す実習は「相談援助実習」「ソーシャルワーク実習」などと呼ばれ、以下のねらいのもと実習個別指導・評価を受けます。
- 1)利用者やその関係者等とのコミュニケーションや人付き合いなど円滑な人間関係づくり
- 2)利用者理解とその需要の把握及び支援計画の作成
- 3)利用者やその関係者等との援助関係の形成
- 4)利用者やその関係者への権利擁護及び支援(エンパワーメントを含む)とその評価
- 5)多職種連携など支援におけるチームアプローチの実際
- 6)社会福祉士の職業倫理、施設職員等の就業規定への理解、組織の一員としての役割と責任の理解
- 7)施設等の経営やサービスの管理運営の実際
- 8)実習先が地域社会の中の施設であることの理解、具体的な地域社会へのアウトリーチ、ネットワーキング、社会資源の活用、調整、開発に関する理解
※参考:厚生労働省社会・援護局長通知「社会福祉士養成施設及び介護福祉士養成施設の設置及び運営に係る指針について」(平成20年3月28日付け社援発第0328001号 改正後全文)
複数の施設や機関で実習を行い、上記の学びを達成します。
社会福祉士実習から実習生が学んでいること
では社会福祉士実習生は、介護施設などの実習で具体的にどんな視点で学ぶのでしょうか。
私自身や同級生の実習体験、自分が実習指導をした体験から例を紹介します。
●利用者を中心に多職種が行う支援、社会福祉士がどう関わっているか
社会福祉士は「心身や社会的ハンデのある方のあらゆる相談」にのるため、利用者をとりまく専門職種、社会資源や制度を熟知する必要があります。
実習は利用者一人ひとりがどんな職種にどんなサポートを受けているかを学ぶチャンス(いざ就職すると、相談業務や手続きなどで忙しく時間がありません)。
実習では指導者によって「担当患者」が決められ、その方が日々どの職種にどんなケアを受け、社会福祉士はその人にどんな役割で関わっているのかを見て学びます。
●その施設の入所者の特徴(疾患・障害名、介護度、ADLや認知症の度合いなど)
実習は「どんな疾患・障害・ADLの人が」「どんな施設にいるのか」を実際にお世話をしながら知る機会です。
この体験は、就職後「この施設ならあのレベルの利用者が多いな」「この患者さんはもう少し介護度が高くないとちょっと入れないな」と判断するのに役立ちます。
学校で「頭で理解した知識」を「実際に見て・話して・介助して確認する」作業です。
●その施設で可能なこと・できないこと(法制度上の分類、提供可能なサービス)
社会福祉士は各施設や機関にそれぞれ「提供できるサービスの限界」があることを理解した上で、クライアントがより良い状態で生活できるようサービスを組み合わせる仕事です。
実習でも、その施設でどんな範囲のサービスが提供できるか、何が提供できないのか、それはどんな法制度上の制限が影響しているのかを理解していきます。
すると就職後に利用者やご家族へ「なぜこの施設をすすめるのか」「この施設ではこれはできないがこれはできる」と詳しく説明でき、いろんな制度を組み合わせて提案できます。
●その施設の利用者の金銭負担(月額コスト、家族の負担額、利用可能な減免制度)
社会福祉士の業務に「金銭面の相談支援」があり、利用者が施設サービスを受けるには月々どれくらいの負担が必要か、ざっくりとした金銭感覚を養っておく必要があります。
もちろん実習生に利用者の月額コストを教える施設は多くはないですが、「生活保護の人もいるね」「個室だから高くて、家族が大部屋希望しているね、年金じゃ足りなくて、今は家族が持ち出しで払ってくれてるからね」など指導員が教えてくださる場合も。
利用者が使える減免制度について教わることもあります。
●その施設の「外」の連携機関(病院、近隣施設、訪問サービス、行政など)
実習施設がほかの施設や機関とどのように役割分担して地域で利用者の生活を支えているのかを学び、連携会議に同行させてもらったり、行政窓口とどう連携するのかを見学します。
この経験が、就職後に「利用者が使える社会資源」を開拓していくときに役立ちます。
●利用者が入所に至った背景(治療歴、生活環境、家族の事情)
社会福祉士は就職した施設の「窓口」となり、地域の他施設や医療機関の「地域連携室」などとやり取りして利用者の入転出を調整します。
そのとき、自分の施設の入所対象になる疾患や介護度を理解している必要があります。
実習では担当する利用者がどんな治療を受け、どんな暮らしを経てそこへ入所したのかを学び、大体どんな疾患の人がどんな医療機関や施設を経由することが多いかなどを学びます。
また「施設に入る」理由は疾患や住宅事情のほかに、家族の事情があるケースも多く、実習指導員に付いて相談面接に立ち会うなど、家族が抱える「事情」を知る体験も貴重です。
●実は「利用者とただ話しているだけ」に見える時間こそが重要な時!!
社会福祉士実習は、「利用者とただ話しているだけ」と見られる場面もあるでしょう。
しかし、実はこの「話しているだけ」に見える時間こそ、社会福祉士実習の核ともいえる重要な時間といえます。
実習生は隙間時間に、実習指導者が決めた担当利用者と話し、ご本人の気持ちやご家族への想いなどを自然な雑談の中からひろっていきます。
あとで利用者との逐語録を作成し、指導者のスーパービジョンを受けたり、利用者の話をもとに、許可が下りればカルテや記録を詰め所で確認させていただき、利用者の課題に対し施設がどう支援しているのかを学んだりします。
雑談の中で利用者の施設療養に対する本音や家族への想いなどを聞けて、それが就職後のアセスメントや苦情対応、退院退所支援に役立ちます。
実習生が他職種に教わると就職後に役立つこと
では社会福祉士の実習生が、他職種から教わると就職後に「そうか!あれはこういうことだったのか!」と非常に役立ちそうなことを挙げてみます。
「実習生が業務を見に来るけど、相談職の卵に何を教えたらいいのかわからない」ときの参考にしていただけると幸いです。
●介護職や看護師が行うケアや日常業務の「目的」
介護施設での実習の場合、介護業務がメインとなることがありますが、ケアのやり方だけでなく「なぜ利用者にこのケアが必要か」という「目的」も教えると、より学びになります。
たとえば「体位交換=褥瘡予防などの目的がある」、「飲み込みが悪い方にはこのような姿勢で食事介助する」、など初歩的なことです。
社会福祉士実習の目的は介護技術を学ぶことがメインではなくても、実際就職すると相談職も利用者の介助をする場面は多く、最低限の介護技術を習得していることは必須。
介護技術は最低限授業で学んでいますが、実習でプロに介助やその効果を教わることは大きな意義があります。
実習で施設の日課やケアの目的などを理解していると、就職後にクレーム対応をする際に利用者やご家族の疑問に応えたり適切な説明ができます。
●リハビリ職の「訓練の目的」、「訓練前後の利用者の変化」
実習生がリハビリ職に患者のリハビリを見せていただく場合、リハビリ前後の変化、リハビリで維持できている機能などを教えていただけると大変役立ちます。
社会福祉士は就職すると、相談室や地域連携室などで「施設への転入・転出」を担当しますが、その業務には「入所できるADLの基準」(どのレベルならどの施設に入れてどのレベルになったらどの施設に移れるという基準)をざっくり理解しておく必要があります。
特に「病名」と「どんなリハビリをしているか」「リハビリでどのレベルになれば自宅退院の可能性がうまれるか」といった知識をインプットしていくことが重要です。
就職後も学べますが、実習先でこの点をリハビリ職の皆さんから学ぶことはとても意義のある体験となります。
●多職種とのコミュニケーション(職員は実習生にどんどん「からんで」!)
実習施設のスタッフは、ぜひ実習生にどんどん話しかけて、いろいろな職種とコミュニケーションをとる経験をさせてあげてください。
というのも、社会福祉士は採用数が少なく、就職しても先輩は1人いればいいほうで実質「1人職場」のこともあるのです。
そのときに他職種とのコミュニケーションは業務をスムーズに運ぶためにも、精神的に孤立しないためにも非常に重要です。
雑談でも激励でも、話題は何でも構いません。
ぜひ実習生に話しかけて「いろいろな職種の人とのやりとり」を体験させていただければと思います。
●施設が行うイベントなど「うちのイチオシ」の取り組みについて
施設の季節のイベントや交流会など「うちのイチオシの取り組み」があれば、ぜひ実習生に教えてください。
ちょうど実習のときにイベントがなくても、うちの施設ではこういう取り組みをしている、という情報は雑談感覚でどんどん教えてあげてください。
社会福祉士は「機会や資源を創り出す」役目も負うので、そうした話題は就職先で利用者のために新しい事業を立ち上げるヒントになります。
また行政に就職するなど「新しい取り組みを地域に増やす立場」になったときにもこうしたお話はよいお手本となり、地域全体の福祉力を高めることにつながる可能性があります。
利用者との雑談も職員の何気ない工夫も、実習生にとっては宝の山!
社会福祉士の実習生が現場に来ても、他職種は何を見させればいいのか、何を教えたらいいのか戸惑う場合があるでしょう。
しかし利用者さんと話すだけでも、職員から何気ない業務の工夫を聞くことも、実習生にとっては貴重な体験で「宝の山」です。
ぜひ構えずにどんどん話しかけて「うちではこんな取り組みもしている」「こんな工夫もしている」と教えていただければ幸いです。
参考:
一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟 新型コロナウイルス感染症に伴う社会福祉士・精神保健福祉士養成の対応について(令和2年5月26日)(2021年5月24日引用)
岡山県 平成20年3月28日付け社援発第0328001号厚生労働省社会・援護局長通知「社会福祉士養成施設及び介護福祉士養成施設の設置及び運営に係る指針について」(新旧対照表)(2021年5月24日引用)
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執筆者
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大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。
保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士