「包括支援システム」に向けて、介護事業所は地域のローカルルール共有が連携のポイント!
国は『包括支援システム』を掲げて、介護と地域の連携を推進しています。
そこにはメディアに頻繁に登場する「孤独死」などの問題が背景にあります。
実際に地域との連携役を担う介護事業所は、地域拠点としての役割が期待されています。
ここでは、介護事業所が地域のなかに入っていくときの問題点や、ポイントを解説していきます。
地域のみなさんはハードスケジュール
介護事業所が地域に向けてボランティアを募集しても「人が集まらない」という声をよく聞きますが、それはなぜでしょうか。
地域と一口にいっても、そのなかには多くの組織が存在しています。
町内会、連合自治会、消防団、青年団など、役割もそれぞれです。
こうした組織は独自に年間の予定を立てて活動しています。
ボランティアグループも規模の大小にかかわらず、同様といえるでしょう。
こうした地域活動に参加されている方は、普段はお仕事をされています。
リタイアされている方などは、複数の団体を掛け持ちしていることも珍しくありません。
特に春や秋の週末は行事も多く、祝日は運動会、秋のお祭り、地域の伝統行事といったスケジュールが目白押し。
一方介護事業所も、春や秋にお祭りを開催しているところは少なくありません。
そうなると「うちの事業所の秋祭りに来てください」と呼びかけても、すでに地域の年間スケジュールは埋まっているので、せっかくの交流の場を設定することは難しくなってしまうのです。
そのため、まずは地域のスケジュールに自分たちの行事を予定として組み込んでもらうことから始めなくてはなりません。
新しくできた介護事業所が地域とどう関わりを持っていけばよいか、筆者が実際に体験したことをもとにお話ししていきましょう。
地域社会には独自の文化とルールがある
地域のみなさんの活動スケジュールのなかに、自分たちの介護事業所の企画を組み込んでもらうことは、実はなかなか難しいことです。
そこには地域のみなさんと介護事業所との間に信頼関係が必要だからです。
私たち介護職員は、利用者さんとの信頼関係を築くため、じっくりと時間をかけて関わるようにしています。
地域の方との信頼関係づくりも、利用者さんのそれと何ら変わりはないのです。
そこで、まずは地域がどういった組織のもとで支えられているかを知ることが大切です。
地域の組織は互いに関連し合って、コミュニティを形成しているのです。
筆者は以前、事業所がある地域の町内会長の方にごあいさつに行ったことがありますが、その際「まずは連合町内会に話を通してからにしてもらわないと困る」
といわれた経験があります。
連合町内会もエリアごとにいくつかの組織に分かれていたので、初めにどの方にごあいさつへ行けば良いのかを教えていただきました。
とてもありがたいことに、町内会長さんは「こういう事業所の○○さんがあいさつに行きたいと行っているがどうか」と仲介役もしてくださいました。
こうした「地域独自のルール」は、「しがらみ」として捉えられることもあり、ときにはよそ者が入りにくい壁になることもあります。
しかし同時に、そのルールは長年その地域で育まれてきた文化であり、この地域社会の秩序を支えてきた重要なものなのです。
そして介護事業所は、そんなコミュニティに新しくやって来た「新参者」。
地域に入っていくためには、地域のルールを学ぶところから始めるのが、遠回りのようで実は一番の近道なのです。
地域との接点となる人~介護事業所のスタッフ
地域と接点を持つとき、とても大きな力になってくれるのが、介護事業所のスタッフ。
スタッフの多くは地元住民であり、地域の事情に精通しています。
地元をよく知るスタッフからは、地域についての情報を教えてもらうことができます。
また、地域の顔役の人との仲介役をお願いすることが可能な場合も多いのです。
地元のスタッフの力添えがあったことで、新参である筆者の事業所スタッフが好意的に受け入れてもらえたことは、とても貴重な経験となりました。
そしてここから「同じ地域に暮らす者」としてのお付き合いが始まっていくのです。
事業所を「活用してもらう」ことを目指す
筆者は地域住民であるスタッフのおかげで、地域の方と「知り合い」になれました。
しかしこれからが大事です。
地域の人たちは、介護事業所がそもそもなにをしているところなのか、漠然としかわかっていない方が多いです。
なにをしているのかよくわからない介護事業所が、自分たちの地域でどんなことをしたいのか、してくれるのかは想像の範囲を超えません。
それでも介護は必要なことであり、介護を提供してくれる事業所も大事なのだ、ということは、住民の大部分の方は感じてくださっています。
しかし「どう介護事業所を活用して良いのか、わからない」という声もまた、本音なのです。
そのために日頃から介護事業所と地域が接点を持てるような働きかけをしていくことが必要となります。
筆者の事業所では、知ってもらうための取り組みとして、まずは会議室を地域へ「無料開放」することにし、そのことを地域へ告知しました。
事業所を開放しなかに入ってもらった
会議室を地域へ開放したのは、スタッフや利用者さんの普段の様子を「見学会」などのイベントではなく、同じ地域の住民として見て欲しいとの思いからでした。
その後まもなく「会議室の無料貸し出し」を始めましたが、当然すぐには申し込みになど来てくれません。
このときも地域に住むスタッフが一役買ってくれました。
スタッフが地域で所属している手芸や太極拳のサークルの活動場所として、介護事業所を利用するように働きかけてもらったのです。
玄関脇のロビーにはテーブルといすを設置しました。
会議室の利用を終えた人たちがお茶を飲んだり、お弁当を食べてもらえるフリースペースを設けたのです。
こうした活動の結果、少しずつですが来館者の数は増えていきました。
そのなかで利用者さんや職員との距離も縮まり、あいさつや世間話を交わすようになっていったのです。
また、普段から可能な限り地域に出向くようにも心がけました。
自治体や町内会の会議に出席するようにしたのです。
取り組みを途切れさせないことが重要
こうした地道な取り組みは、事業所の秋祭りでようやくその効果を現しました。
町内会から多くのボランティアの人たちが参加してくださり、ほかにもジュースを冷やす大型の水槽、焼きそばを焼く鉄板、町内会のテントなど物心両面で多大な協力をしていただいたのです。
行事の前後に関わらず、こうした取り組みは継続して行っていくことが重要です。
年度が変わると地域の役員の方が入れ替わります。
筆者の事業所がある地域でも、役員の交替がありましたが、つながりを途切れさせなかったおかげで、新しい役員の方にも引き継ぎをしてもらえたのです。
今では会議室も多くの方が利用され、自分たちが会議で使う日を先に押さえておかなければならないときもあるくらいです。
地域に認められる、受け入れてもらうためには、時間をかけた取り組みと地域の方への配慮が必要なのです。
まとめ
地域との連携を実現するためには、実にさまざまなアプローチの仕方があります。
しかし重要なのは、これまで積み重ねてきた地域の歴史や特色を尊重し、介護事業所の都合ばかりを押しつけないようにすることではないでしょうか。
働くスタッフはもちろん、利用者さんも地域出身の方が多いことは珍しくありません。
高齢化が進むなかで、そんな地域の方々の強い味方となるべく介護事業所が「孤立していた」ということがないようにしたいものです。
参照:
地域包括支援システム(厚生労働省)平成25年度版(2018/02/01参照)
自治会・町内会等について(総務省)平成25年度版(2018/02/01参照)