あなたの施設は大丈夫!?介護現場で身につけておきたい急変時対応をご紹介!
近年では、病院での入院期間が短縮傾向にあり、介護施設においても心不全や不整脈など命に関わる病気をお持ちの利用者さんが増えています。
緊急時マニュアルなどを作成している施設は多いですが、実際に急変が起こった場合に適切な対応ができるでしょうか?
本記事では、実際に蘇生活動に関わった筆者の経験をもとに、介護現場における緊急時対応について解説いたします。
利用者さんが急変!あなたならどうする!?
介護の現場において、「あれ?ちょっとおかしいかな?」と思ったとき、あなたならどうしますか?
ここではまず、異変発生時に最初にとるべき対応についてご紹介します。
●大切なのは人集め
異変を感じた場合にとる行動のなかで重要なのは、まず人を集めることです。
その理由は、一人では冷静な判断ができないことや、人手が必要になることが予測されるからです。
急変現場に遭遇したことがある方ならわかると思いますが、初めての場合は自分がなにをすればいいのかパニックになることが多いです。
発見者以外の人が指揮をとって対応することにより、より冷静な判断が期待できるのです。
●迅速な119番と初期蘇生
人が集まったあとは、それぞれ役割分担をして対応することが重要です。
一例を以下に挙げてみます。
- 1)意識を確認する
- 2)意識がなければ119番通報をする
- 3)ベッドに寝かせるなどして、周りの環境を整える
意識を確認するときは、単に名前を呼びかけるのではなく、軽く肩をたたいて刺激を与えながら確認しましょう。
それでも反応がない場合は、すぐに119番通報です。
1)と2)は2人1組で実施し、ほかのスタッフは利用者さんを横にできるスペースを確保しましょう。
●最初の3分が生死をわける!?
筆者の経験上、急変時に迅速かつ適切な対応がなされた患者さんでは、救急搬送後も大きな後遺症を残すことなく退院されるケースが多いです。
しかし、一方では低酸素脳症と呼ばれる重篤(じゅうとく)な状態になる方もおられます。
では、いったいなにがその明暗をわけるのでしょうか?
厚生労働省が作成した救急蘇生法の指針(2015)によると、心臓と呼吸が止まってから3分後に初期蘇生を実施した場合の救命率は約50%とされています。
実施しなかった場合と比較すると、救命率には2倍の差があるとされています。
つまり、最初の3分以内に初期蘇生手技を実施できるかがカギであり、そのため現場では、迅速な対応が求められるのです。
介護施設に準備しておきたい3つの備品とは!?
ここでは、急変時に備えて介護施設に準備しておきたい備品をご紹介します。
●AED
AED(Automated External Defibrillator)とは、自動体外式除細動器と呼ばれるもので、エー・イー・ディーと読みます。
この機器は、心室細動(しんしつさいどう)という不整脈が起こった場合に、外から電気ショックを与えて、心臓を正常なリズムに戻す役割をもっています。
2004年7月より、医療者ではない一般の方でも使用できるようになり、公共施設やスポーツクラブなどにも設置されています。
基本的には音声で操作手順を案内してくれるので、初めての方でも安心して使用できます。
消防庁の報告によると、2016年中にAEDの使用を含む応急手当ての実施割合は48.9%であり、応急手当講習受講者数の増加とともに年々上昇しています。
●感染対策グッズ
意識状態が悪くなった際におう吐する方もおられるため、窒息防止のために異物をかき出すなどの対応も必要です。
その際に、マスクや使い捨て用のゴム手袋、速乾性の消毒ジェルなどを所持していることが望ましいです。
医療施設や介護施設などにおいて感染対策は必須であり、素手でおう吐物や血液の処理をしてはいけません。
感染対策グッズに関しては、各スタッフがウェストポーチや上着のポケットなどに常備しておくと、その都度取りに行く手間が省けるのでおすすめです。
●簡易ベッド
急変した利用者さんの応急手当を実施する際に、時間の経過や感染対策以外にも気をつけておきたいポイントがあります。
それは、いかに安全な状況を確保して応急手当ができるかです。
安楽な姿勢をとらせることができるベッドを用意しておき、安全に応急手当をできるスペースを確保しておきましょう。
ベッドに関しては、医療機器や福祉用具メーカーのカタログなどにも載っているため、一度目を通してみてはいかがでしょうか。
現場で実践できるBLS練習をご紹介!
最後に、筆者が実践している急変時対応のための訓練をご紹介します。
●BLSとは?
BLS(Basic Life Support)とは、一次救命処置のことで、ビー・エル・エスと呼びます。
救急隊が到着するまでに、やるべき処置の一連の流れを総称したものであり、具体的には以下の手順となります。
- 1)意識がない人を発見したら周りのスタッフを集める
- 2)119番通報とAEDなど蘇生に関する備品を集める
- 3)呼吸や脈を確認する
- 4)胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始する
このなかで、4)の心臓マッサージに関しては、実施するにあたっていくつかのポイントをご紹介します。
- ◯みぞおちから指3本分くらい上で、胸の中心部分を押す
- ◯1分間に100回のペースでおこなう(ペースがわからなければ、もっしもっしかめよ〜か〜めさんよ〜を心のなかで口ずさむとよいです)
- ◯胸郭(きょうかく)が5cm程度沈む強さでおこなう
- ◯胸を押したあとはしっかりともとの位置に戻す
また、マウストゥマウスでの人工呼吸は、現在では感染予防の観点から推奨されませんので、特別なマスクなどがない場合は無理に実施しないようにしましょう。
重要なのは救急隊の到着まで、スタッフが交代しながら心臓マッサージを続けることです。
●実技練習をかかさない!
急変時マニュアルを暗記していても、実際に練習をしないと上記の蘇生技術は身につきません。
筆者の施設では、年に3回のペースでスタッフ全員参加の実技練習を実施しています。
その際の役割分担としては、
- ◯発見者…急変者に呼びかけ、人を集める
- ◯スタッフ(3〜4人)…呼びかけに応じて駆けつける(3〜4人)
- ◯その他のスタッフ…一連の流れを観察し、気づいた点を述べる
などを基本形としています。
発見者は人が集まったことを確認したあと、前述したBLSの手順に沿って指示を出します。
また、発見者が緊張して忘れてしまった場合は、駆けつけたスタッフがこれらを声に出して確認することでフォローします。
一見難しいと思うかもしれませんが、繰り返し練習しているうちに自然と身につきますので、定期的に実施していくことをおすすめします。
●日頃のシミュレーションが大切!
定期的な実技練習に加えて、普段の業務のなかで急変時をイメージしておくことも大切な取り組みです。
「入浴中に気分が悪くなったら、そこのスペースで対応しよう!」
「歩行介助中に意識がなくなったら、人を呼んであそこに運ぼう!」
など、そのときどきのシチュエーションによって対応を考えておくことが有用です。
事前に予測していれば、有事の際には迅速な対応が可能となりますので、みなさんも試してみてはいかがでしょうか。
まとめ
本記事では、急変時に対応できるために準備する備品と、蘇生手技の重要性について解説しました。
必要備品がそろっていても使用方法がわからなかったり、いざというときに動けないのでは意味がありません。
BLSに関しては、何度も繰り返すことが重要ですので、事業所単位で定期的に練習する場を設けていくことが望ましいといえます。
参考:
厚生労働省 救急蘇生法の指針2015(2018年1月31日引用)
公益社団法人 日本心臓財団ホームページ(2018年1月31日引用)
総務省消防庁 平成29年度版救急救助の現況(2018年1月31日引用)
日本ACLS協会ホームページ(2018年1月31日引用)