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介護職員による言葉の暴力~言葉づかいのマネジメントの必要性について

老人ホームなど介護施設での虐待が増えています。
厚生労働省のデータでは、2015年における老人ホームなどでの虐待に関する相談・通報件数は、1,640件ありました。
2014年では1,120件でしたので、実に520件(46.4%)も増加していることになります。
今回は、この虐待のなかでも見えにくい「言葉による暴力」についてお伝えします。

虐待のなかでも見えにくい心理的虐待~言葉の暴力

高齢者虐待防止法により定義されている虐待には、「身体的虐待」「介護、世話の放棄・放任(ネグレクト)」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つが挙げられています。
冒頭に申し上げました、2015年に報告された虐待相談・通報1,640 件のうち、高齢者虐待防止法に定義する虐待の事実が認められた件数は408件となっています。
虐待相談・通報の種別を見てみると、

  • 「身体的虐待」61.4%
  • 「介護、世話の放棄・放任(ネグレクト)」12.9%
  • 「心理的虐待」27.6%
  • 「性的虐待」2.4%
  • 「経済的虐待」12.0%

となっており、身体的虐待が多くあることがわかります。
ただし注意しておくべきことは、これらの数字はあくまでも相談・通報があった案件であり、水面下にある虐待もまだまだあるだろうと考えられます。
特に、表には見えにくい「心理的虐待」については、本人の訴えや目撃した人からの通報などが必要になるために、実際の数字よりも多くなるのではないでしょうか。
厚生労働省によりますと、心理的虐待はこのように定義されています。
「高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」
つまりこれは、介護全体のなかで起こりうる「言葉の暴力」といえるのではないでしょうか。

介護職員の「言葉による暴力」は他人ごとではない

さてここで考えてみたいのですが、介護職員による「言葉の暴力」とはどのようなものを指すのでしょう。
2017年に実際に起きた老人ホームでの言葉の暴力は、
「あほ、ばか、死ね、忙しいねん、との暴言を吐いた」
「耳の遠い入居者にペーパータオルにうるさい、と書いて渡した」
といった内容であることがわかりました。
プロの介護者として、このような言動があったことは到底許せるものではありません。
しかし、少し冷静になって考えてみましょう。
これらの言葉をだしてしまいそうになった場面は、過去に一度もなかったでしょうか。
もうちょっと掘り下げて考えてみますと、「忙しい」くらいは言ってしまうような気もします。
「うるさい」とまで言わなくても、「何度も言わなくてもわかる」と強い口調で言ってしまうこともあるかもしれません。
それ自体が、高齢者虐待防止法に定義されている著しい暴言にあたるかどうかはさておき、虐待につながるシチュエーションは、介護の場面では常に存在するものだという自覚は必要だと思います。
ときおり新聞などで、介護施設での虐待の報道がなされることがありますが、決して他人ごととして捉えてはいけないということです。
言葉の乱れは虐待への第一歩であるといえるでしょう。
しかし、多忙を極める介護現場において言葉が乱れてくることは少なくありません。
常に現場の言葉づかいについて確認し、利用者に対して尊敬の念を忘れないようにすることが虐待防止の基本であるといえるでしょう。

言葉の乱れは虐待の始まり

では、言葉づかいの乱れにはどのようなものがあるのか、具体的に見ていきたいと思います。
よく見かけることがある介護現場の言葉の乱れは、つぎのようなものではないでしょうか。

  • ●丁寧な言葉づかいをしない
  • ●小さな子ども相手のように話しかける
  • ●ちゃん付けなど、あだ名で呼びかけている

丁寧な言葉づかいをしない、ということについて具体的にみていきますと、敬語を省略したいわゆる「ため口」を使ったり、上から目線で話しかけたりといったことが、あてはまると思います。
特に「ため口」というものは、現場で多く見かけるのではないでしょうか。
利用者さんと長く関わっていると気心が知れて、信頼関係を結べるといったいい側面もあるのですが、逆に職員が慣れ過ぎてしまい、それがマイナスに作用することもあります。
小さな子ども相手のように話しかけている場面も、少なからずみかけるのではないでしょうか。
自分よりも明らかに年の若い職員に「赤ちゃん言葉」を使われるのは、利用者さんにとって不愉快であることは間違いありません。
また利用者さんを「ちゃん付け」で呼んでしまうことも多いと思います。
親しみをこめてそう呼んでいるのはわかるのですが、それを利用者さんやご家族が喜ぶはずがありません。
以上の3点を挙げてみましたが、これらの言動について、おそらく介護職員側としては悪気はまったくなく、むしろ利用者さんとの関係性を深めたいがために使っている、ということが少なくありません。
しかしあらためて考えてみると、やはりこれらの言動は人生の先輩に対して使うべきものではないことが、わかると思います。
そのために、介護職員が常日頃から使う言動についてもリスクマネジメントの対象として位置付けておくことが必要です。

なぜ介護職員による「言葉の暴力」がなくならないのか~個人の価値観の排除

冒頭から申しあげている通り、介護現場から虐待をなくしていくためには、その芽を摘んでいくしかありません。
そのための第一歩となるのが、言葉の乱れを正していくことだといえます。
ではなぜ、この言葉の乱れがなくならないのかについてお伝えしたいと思います。
まずはこの「言葉の乱れ」が、実際に自分たちの介護現場で起きているのかを考えてみましょう。
言葉が乱れている施設は少なくないと思いますが、かといって多くの施設があてはまる、というわけでもないように思います。
つまり、慣れ合うことによって言葉が崩れていくわけではなく、「なにか」が足りない介護現場が存在していると考えられるのです。
そのなにかとは、「職員個人の価値観を排除する」ということではないかと思います。
言葉の乱れというものは、自分自身の経験によるものだったり、利用者のためにという勝手な思い込みからでてくるものです。
しかしそれらは介護職員が持っている個人の価値観であって、利用者さんにも通じるものとは限らないのです。
そんな個人の価値観を、業務のなかに勝手に入れてしまうことで、いつのまにか介護現場の日常へと変化してしまっているのです。
これは間違った現場主義といえますが、職員自身も気づかないうちに行っていることも多く、これを防ぐにはなにかしらのチェックする仕組みをつくり、それを修正したり排除することが必要になります。
そのためには、先ほども申し上げましたが、やはりリスクマネジメントの対象として位置づけておくことが重要になってくるのです。
どの介護施設でも、事故予防委員会や虐待防止委員会などの運営を行っているかと思います。
形式的な運営ではなく、今一度、介護職員の言葉づかいについて取り組んでみるべきではないでしょうか。
言葉づかいが良くなると、現場のケアも必ず良くなってきます。
それは言葉づかいによって、利用者に対する尊敬の念が生まれてくるからなのです。

まとめ

介護職員も、たくさんいれば言葉づかいも人それぞれですから、適切なものにしていくことはなかなか労力のいることです。
しかし、虐待予防の観点だけではなく、事故予防、ケアの質向上などに直結するものとしても、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

また、高齢者虐待については、こちらの記事(介護現場の虐待はなぜ起こる?虐待防止に苦慮する現場)でも詳しくお伝えしていますので、ぜひご覧ください。

参考:
厚生労働省 特別養護老人ホームにける介護事故予防ガイドライン(2018年2月21日参照)
厚生労働省 Ⅰ 高齢者虐待防止の基本(2018年2月21日参照)
厚生労働省 平成 27 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果(2018年2月21日参照)
朝日新聞 入居者に「死ね」 特養で心理的虐待3件 大阪・豊中(2018年2月21日参照)

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