在宅介護を頑張りすぎないでと言うけれど。それでも頑張ってしまう介護者の気持ちとは?
在宅介護をされていると分からないことや不安なことが次々と出てきます。
そんな状況の中、介護者は「なんとかしなければ」と頑張ってしまいがちです。
悩みや苦しみを抱え込むことも少なくありません。
そんな「頑張る介護」になってしまう背景とは?
「頑張らない介護」に必要なことは?
ご一緒に考えていきましょう。
介護者が「頑張らなければならない」環境がある
介護者がなぜ「頑張ってしまうのか」そこには「頑張らざるをえない」環境があるからです。
その環境とはどんなものでしょうか。
厚生労働省の調査では同居で介護を担っている人の割合は、配偶者25,2%、子供21,8%、子の配偶者9,7%となっています。
男女別では女性が66,0%と過半数を占め、男性は34,0%となっています。
そんな介護者の多くは、介護の内容や方針を決める際の中心的な存在「キーパーソン」としての役割を期待されています。
キーパーソンがいることにより介護、看護、行政などのサービスが連携しやすくなります。
そのことにより各サービスが効果的に機能することが可能となるのです。
キーパーソンに期待される役割とは具体的には以下のようなものです。
●外部との窓口として
ケアマネジャーや介護事業者、医療機関、行政などとの連絡、調整として
●介護の方針決定役
ケアプラン作成の際、介護を必要とされる方の意思や、介護者自身の希望を伝える
●介護事業者などとの契約、サービス調整役
契約手続きのほか、日常提供されるサービスへの希望や内容変更を事業所に連絡する
●金銭の管理
介護を必要とされる方の金銭管理のほか、介護事業者への利用料支払いなど
医師、看護、リハビリ、介護、行政など多方面から日々入ってくる情報を把握し、決定をしていくことが求められます。
そして、それらを在宅介護の流れに加えていくことは大変です。
介護者一人で看護師、ヘルパー、ケースワーカー、リハビリテーション、成年後見人と何役もこなしているようなものです。
定期的に通院の付き添いをしたり、行政の窓口に出向かなければならないことも多くあります。
これらのことを日々の介助と並行して行わなければなりません。
さらに家事や仕事などが加われば、介護者の負担が大きいのは容易に想像がつきます。
たくさんの仕事をこなすためには「頑張らざるをえない」のです。
こうして何役もの役割を同時に担う生活を送ることは、介護者にどんな変化をもたらすのでしょうか。
介護に向き合い過ぎてしまう介護者
介護者が多くの役割を担い、頑張らざるをえない環境はなにをもたらすのでしょうか。
ある人は「きちんとやらなければ」と正面から介護に向き合いすぎてしまうかもしれません。
別の人は「自分にはできない」と介護を必要とする人から背を向けてしまうかもしれません。
ほとんどの介護者は「介護の素人」です。
それまで他人事であった介護。
それがご家族、配偶者などに介護が必要となって初めて介護をすることになったのです。
うまくできなくて当たり前なのです。
厚生労働省の調査では介護者の68,9%が悩みがあると訴えています。
その内訳はどんなものでしょうか。
- ●家族の病気や介護 男性73,6% 女性76,8%
- ●自分の病気や介護 男性33,0% 女性27,1%
- ●収入、家計、借金等 男性23,9% 女性18,7%
介護者はこのような多くのストレスを抱えがちです。
そのストレスが心身の不調となって現れてしまいます。
筆者が訪問介護を担当していた際には、肩や腰の痛み、頭痛、よく眠れないといった心身の不調を訴える声をとても多く聞いています。
どんな人でも心身の調子を崩す恐れがあるといえるでしょう。
介護によって大きく変化してしまう生活。
介護と「自分のための時間」とのバランスが上手に取れなくなることが影響します。
ちょっとした買い物に出ても介護している人のことが頭から離れないという声はよく聞かれます。
介護者がご自分の生活を大切にしつつ、介護に向き合っていくためにはどんなことが必要なのでしょうか。
頑張らない介護のために
頑張って頑張って気持ちも体も疲れ果ててしまう前に、あなたの抱えている気持ちをほかの人に話してみませんか。
ケアマネジャー、ヘルパー、看護師など関わるスタッフは、いつでも介護者のつらい気持ちを受け止めようとしています。
しかし、介護者としては「気軽に言ってください」と言われてもなかなか気持ちを伝えることは難しいものです。
「人に介護を任せることは手を抜いているのではないか」
自分を責めてしまう介護者もいます。
休養のためにショートステイに預けても、そんな「罪悪感」を持ってしまうと少しも休めないことになります。
そんな罪悪感から抜け出すにはなにが必要なのでしょうか。
訪問介護などを使って、介護者自身の生活も楽しんでいる方にお話を伺うとそのヒントが見えてきます。
「早めにギブアップしてしまうこと」
「プロに任せられることは任せたほうがいい」
「精魂尽き果ててからでは助けも呼べない」
こうした台詞は実際に介護を経験しているからこそ言えることです。
彼らは「できない、つらい時は、まだ頑張る気力があるうちに第三者の援助を要請したほうがよい」と教えてくれています。
介護や医療、看護に助けを求めることは手抜きでも逃げることでもないのです。
それぞれが得意なことに役割分担をして、介護が必要な方を支えていきましょうという考え方です。
介護ではこれを「チームアプローチ」と呼んでいます。
在宅生活を支える介護者はチームアプローチを行うための大事なメンバーです。
介護者は、介護が必要な方の一番身近にいます。
一番その方の情報を持っているので、関係者に最新情報を提供できます。
なにより介護が必要な方の声を一番聞ける存在なのです。
ケアマネジャー、ヘルパーなどのスタッフに日頃の苦労を話すのは、大事な「情報提供」です。
どうぞ抱え込まず、「ささいなこと」と言わずに介護チームの一員としてお話をしてください。
スタッフ側は介護者のケアがあってこそ、仕事ができるのですから。
そんな介護者が参加した「チーム力」こそが、頑張らなければならない介護を減らしていくことにつながっていくことでしょう。
介護者の「何気ないひと言」が持つ力
介護者は介護や看護など「介護のプロ」にどう情報発信をすればいいのでしょうか。
「情報を伝える」というと「そんな難しいことできない」と尻込みしてしまいがちです。
しかし、きちんとまとまったかたちで情報を伝える必要はありません。
「咳き込みが多くなった」
「怒りっぽくなった」
こんな「日頃感じること」を伝えてほしいのです。
伝える相手はヘルパー、看護師、ケアマネジャー誰でも構いません。
スタッフは連携して、必要な情報を共有します。
介護者からの情報は、一緒に暮らし多くの時間を利用者と過ごすからこそ感じられたことです。
介護者が「大したことではない」と感じていたことが実は利用者の変化のサインである可能性があります。
スタッフは自分たちが観察した情報と専門知識、そして介護者からの情報から総合的に判断します。
介護者から「最近、トイレに行くときよくつまずく」という情報を得たときのことです。
ヘルパーから看護、医師へとつながり、検査の結果目に病気が見つかった例がありました。
ヘルパーはケアマネジャーと連携し利用者が安全に移動できるように室内環境を整えています。
始まりは介護者の何気ないひと言でした。
その何気ないひと言が大きな力を発揮した一例だと思います。
まとめ
介護保険制度や、医療技術は使う人の意識次第で効果は変わっていきます。
サービスや技術の利用は介護を受ける人にとってかわいそうなことではありません。
いまだ「他人を家に上げるなんて」「施設に預けるなんてかわいそう」という声を現場でも聞きます。
おむつ交換など介護の多くはほかの人でもできます。
しかし、身近に寄り添うことは家族しかできません。
介護が必要な方の一番の理解者でいてくださればと思います。
参考:
2016年(平成 28 年) 国民生活基礎調査の概況 (厚生労働省)(2018年3月4日引用)
東邦大学医療センター大森病院 メンタルヘルスセンター(2018年3月5日引用)