糖尿病が悪化して、足を切断せざるをえない状態にならないために。介護職員でもできるケアを伝授します。
万病のもとと言われる糖尿病ですが、糖尿病によって起こる合併症として意外と知られていないのが、下肢壊疽(えそ)です。
足に治りにくい傷ができ、最悪、下肢を切断せざるを得ない状態にまで悪化してしまう、恐ろしい状態です。
足を切断することになれば、その後の人生にも大きな影響を及ぼします。
そこで今回は、足の切断を回避するために、介護職員の方にもぜひ実践していただきたい日頃のケアについて、ご紹介します。
なぜ、足の傷が治りにくい?
通常、人の体は常に狭い範囲でしか血糖値は上下しません。
しかし糖尿病になると、その範囲が守られず、血糖値が高い状態のまま維持されるようになってしまいます。
血糖値が高いと、血管は潮風をうけた車のように、目には見えないスピードでゆっくりと、それでいて通常よりも早いペースでボロボロになっていきます。
その結果、さまざまな病気を引き起こしてしまうのです。
足の場合、それが「傷の治りにくさ」となって現れ、下肢壊疽という病気を引き起こします。
では、そもそもなぜ、糖尿病になると足の傷が治りにくくなってしまうのでしょうか。
それには、二つの原因があります。
それぞれの原因について、解説していきましょう。
●神経が鈍くなり、痛みを感じにくくなる
血糖値が高いことで、まず足先の神経が徐々に機能を低下させ、しびれを起こします。
しびれ自体もつらい症状ですが、それよりも怖いのが「痛みを感じにくくなってしまう」ということです。
人は、痛みというものを早期に感じることで、適切な対応をして逃避行動をとります。
虫歯になっても、痛みがない場合は放置してしまいがちですが、痛みを感じたらすぐに歯医者へ行くでしょう。
つまり痛みというのは、人がそのケガを認知し、治療へと意識を向かわせるきっかけの一つなのです。
しかし何らかの原因で神経が鈍くなり、痛みを感じにくくなると、人はそのケガを認知することができなくなります。
そうなると、傷はそのまま放置されることになり、大きくなった傷口は当然悪化していきます。
そしてようやくその傷に気がついたときには、すでに手の施しようがなく、最悪切断せざるを得ない状態にまで悪化してしまうのです。
実際に筆者は過去に、気がついたときにはすでに直径5cmほどの大きな傷になっていた、という事例を経験したことがあります。
はた目から見ると、とても痛そうで直視できないほどだったのですが、ご本人は「痛みがまったくなかったし、足の裏だったから気にもしていなかった」とのことでした。
このように、糖尿病が進行してしまうと第三者が見たら一目瞭然である傷ですら、痛みを感じず、発見が遅れてしまうのです。
●血液の流れが悪くなることで、治るために必要な酸素や栄養が届きにくい
神経の機能が低下し、しびれや麻痺を起こすのと同時に、足の傷においてもう一つ問題となるのが、血流の悪さです。
糖尿病によって血液の流れが悪くなることで、血液の大事な役割の一つである「酸素や栄養を体の隅々まで届ける」が果たせなくなります。
この影響を真っ先に受けるのが、身体の末端です。
足に何らかの傷ができたときでも、血液が末端まで十分に行き渡っていれば、適切な酸素や栄養も行き届くので、通常ならば短期間で治ります。
しかし、糖尿病によって酸素や栄養が末端まで届いていないと、なかなか治すことができません。
また、血糖値が高いと傷を治すための細胞である白血球の働きが悪くなることも知られています。
糖尿病ではなくても、足に傷ができることはあります。
問題なのは同じような足の傷でも、血流が悪くなることですぐに治るどころか、むしろ悪化してしまいやすい、ということなのです。
神経が障害を受け、痛みを感じにくく足の傷に気づきにくい。
また、傷自体も血液の流れが悪いことで治りにくい。
この2つの条件が重なった結果、気がついたときには傷が進行し、最終的に切断しなくてはいけない状態になってしまうのです。
重要なのは、毎日のフットケア!
では、どうすればこういった足の切断リスクを下げることができるのでしょうか。
それは、毎日のフットケアにあります。
実は、糖尿病と診断されると、食事や運動指導のほかに多くの病院で指導されるのが、このフットケアです。
フットケアと聞くと、とても難しいことのように聞こえますが、ポイントを押さえれば難しいことではありません。
ポイントとしては以下の3つがあげられます。
●毎日の足のチェック
フットケアにおいて一番大切なこと。
それは、毎日の足のチェックです。
新しい傷ができていないか。
靴がずっと当たることで、継続して赤くなっている部分はないか。
これらの小さな変化は、毎日観察していなければ見つけることができません。
毎日必ずチェックをすることで、小さな変化に気づくことができ、早期に対応することが可能となります。
お年を召した方は、老眼、そしてバランス感覚が低下してしまうことで、じっくりご自身の足を観察することは、難しいのが現状です。
そこで介護職員も、なるべくこのチェックを一緒に行い、第三者の目から見ても新たな傷やその兆候となりそうなものはないかを確認することが大切です。
●色の濃い靴下ではなく、なるべく白い靴下を履く
施設内においては、靴下を履いた上で靴を履かれている方が多いかと思います。
お年を召した方は、黒や紺など、色の濃い靴下を好んで履く傾向がありますが、色が濃い靴下を履いてしまうと、出血や膿が出ているなど、足の変化に気づきにくいというデメリットがあります。
そのため、糖尿病を持っている方に対してはなるべく白系の、色がない靴下を勧めるようにし、異常を早期に発見できるようにしましょう。
●コタツや電気ストーブといった暖房器具は、身体から離して利用する
寒い時期では、コタツや電気ストーブといった暖房器具が欠かせません。
しかし、暖房器具に近づいて利用してしまうと、低温やけどを起こす危険性があります。
特に電気毛布や湯たんぽは、直接皮膚に当たる可能性が高く、低温やけどを起こしやすい暖房器具です。
そのため、施設内で電気毛布を利用されている糖尿病の方がいる場合には、ご家族にお話しして、ほかの暖房器具に切り替えていただくようお願いするとよいでしょう。
また、ご自身で体を動かすことが難しい方については、低温やけどのリスクがさらに高まるため、エアコンなどの暖房器具を利用されることを強くお勧めします。
●入浴介助後は保湿クリームで傷予防!
足のケアにおいて、一番大切なのが実は入浴介助後です。
入浴後は皮膚が乾燥しやすく、皮膚のバリアが弱くなることで傷をつくりやすい状態になっています。
そのため、入浴後はぜひ足の保湿を行うために、保湿用クリームを塗ることをお勧めします。
皮膚にトラブルがない場合は、市販されているクリームでかまいません。
また、もし可能ならば、入浴がない日であっても、足浴を行うとより効果的です。
足浴をすることで、足の末端にも血液の流れを促進することができ、足のトラブル防止にも有効です。
また、冬場は足元から体全体を温めることができ、リラックス効果も期待できます。
日々の業務に追われ、なかなか個々への対応に時間をかけられないところですが、利用者さんの心のケアも兼ねて、ぜひ毎日の足浴導入をお勧めします!
まとめ
今回ご紹介したフットケアを毎日行うことは、糖尿病を持つ利用者さんの健康長寿を延ばすために大切です。
筆者自身、糖尿病が原因で足を切断せざるをえなくなってしまった方を過去に複数人担当したことがあります。
ぜひこのフットケアを、糖尿病を持つ利用者さんの日々のケアのなかに取り入れていただき、足の傷、および傷の進行から切断の危機につながる可能性を断ち切っていただけたらと思います。
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参考:
医療情報科学研究所:病気がみえるVol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第3版:メディックメディア:東京:2012