介護保険施設と有料老人ホームの料金に差がつく理由
要介護者の増加に伴い、老人ホームへの入居希望者が増えています。しかし、特別養護老人ホーム(特養)は安いけど待機者が多くすぐには入れない。有料老人ホームは料金が高すぎて入れない。こんなイメージを持っている方は多いと思います。そのイメージは間違いではないのですが、正確でもありません。
特養=安い、有料老人ホーム=高いというのはよく聞く話なのですが、それでは「その理由を知っていますか」と聞かれると困る人が多いでしょう。確かに料金に差があります。建物や設備、食事内容、人員配置などの違いで差が出る場合もあるでしょう。しかし、料金差が出る最も大きい理由は、特養が「介護保険施設」だからです。
特養や老健は介護保険施設です。この介護保険施設には他の老人ホームにはないメリットがあるのです。今回はそれについて取り上げます。
意外?介護保険施設は3種類しかない
最近、介護施設とか老人ホームという言葉を頻繁に見聞きするようになりました。一昔前に比べると、街なかに介護施設を多く見かけるようになったのではないでしょうか。掲げられている看板はさまざまです。
ケアハウス、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などなど。どれがどういった老人ホームなのか、介護の専門家でもない人にはまったくわかりません。それほど多様化しているのです。
実はこの数ある老人ホームのなかで、「介護保険施設」の名称が使えるのは実は3種類しかありません。
3つとはつまり、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の3つです。
介護老人福祉施設は特別養護老人ホームと同じものと考えてください。しかし根拠となる法律を2つ持つため、名称もそれぞれ2つ持っています。
つまり「介護保険法」では介護老人福祉施設となり、「老人福祉法」では特別養護老人ホームと呼びます。2つも名前があるのはややこしいのですが、ちゃんと理由があります。
「身内からの虐待」などの理由で行政が特養にお年寄りを「措置入所」させるときがあります。措置入所のときは老人福祉法を根拠とします。
このように福祉的性格が強く残っているのが特別養護老人ホームです。ここでは通称となっている特別養護老人ホーム(特養)という名称を使用します。
特定施設入所者生活介護とは?
介護保険施設は3つしかありません。それでは他の老人ホームでは介護保険が使えないということでしょうか?そうすると、莫大な施設介護費用がかかります。
実は介護保険施設以外でも、介護保険を利用できる仕組みがあります。それが「特定施設入所者生活介護」の指定を取得することです。
介護保険施設は入居者保護のため、建物・設備・人員等に最低基準を設けています。これらと同様の最低基準をクリアすれば、介護保険施設に準拠されたものとみなされます。
そうすれば介護保険施設と同じ条件で施設介護サービス費に介護保険が適用できます。有料老人ホームのなかで「介護付き」を名のれるのは、この「特定入所者生活介護(特定施設)」の指定をとった有料老人ホームだけです。
条件を満たせば、ケアハウス、サービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームでもこの「特定施設」の指定をとることができます。
介護保険施設と同じように保険を利用できるので、入居者の自己負担額が抑えられます。
しかし実は介護保険が適用される部分には限りがあります。これは介護保険施設でも特定施設でも同じです。保険適用されるのは介護サービスにかかる部分(施設サービス費)のみです。
この施設サービス費には介護・看護に必要な一部の物品費(オムツ)なども含まれます。しかし、1ヶ月あたりの食費、居住費は自己負担です。
介護保険の入居者であろうが、特定施設の入居者であろうが、食費、居住費のは介護保険は適用されません。
介護保険施設では食費、居住費の軽減を受けることができる
最近は一時入居金なし、月々の費用も特養なみの料金で入居できる有料老人ホームがでてきました。
しかし、やはり特養よりは高いところが多いようです。なぜこんなことになるかというと、介護保険施設に入居している低所得者の人には、「食費、居住費の軽減制度」が利用できるからなのです。
この「食費、居住費の軽減制度」は誰もが利用できるわけではありません。まず前提として世帯全員が住民税非課税であること。加えて預貯金等が一定額以下であること。
具体的には配偶者がいる方は合計 2,000万円以下、 配偶者がいない方は1,000 万円以下という条件が課されます。その上で、所得により第1段階から第4段階まで分かれています。
第1段階
・世帯の全員が市区町村民税を課税されていない方で 老齢福祉年金を受給されている方
・生活保護等を受給されている方
第2段階
世帯の全員が市区町村民税を課税されていない方で合計所得金額と公的年金等収入額の合計が年間80万円以下の方
第3段階
世帯の全員が市区町村民税を課税されていない方で上記第2段階以外の方
第4段階
市区町村民税課税世帯
参考:厚生労働省 サービスにかかる利用料(2020年8月29日引用)
減額の割合は、施設の種類、入居している部屋の種類(個室か多床室か)で変わり、一定ではありません。食費だけは種類に変わりなく一定です。
第1段階の人であれば1日あたり300円、第2段階の人で390円、第3段階の人で650円の負担ですみます。厚生労働省は介護施設の1日あたりの食費の基準費用額を1,380円としています。
実は食費は各施設で自由に設定できます。しかし、施設の自己判断で厚労省が提示した額から大きくはみ出すような金額にはならないようにしています。そう考えると、第3段階の人でも食費が半額以下の負担になるということです。
もちろん居住費も一定額軽減されます。これはかなりの負担軽減になります。
まとめ
有料老人ホームなどは食費、居住費はすべてバラバラで、施設によってかなり幅があります。
その点、特養、老健などの介護保険施設は厚労省から食費、居住費の基準費用額が提示されています。
そのため、どの施設もある程度同じような金額になります。このような考え方は公的施設として低所職者向け施策の影響を受けているからでしょう。
その最たるものが「食費、居住費の減免制度」です。これは「特性施設」の入居者は利用することができません。
食費、居住費の軽減が受けられるか否か、というのが介護保険施設と他の老人ホームとの大きな差だと言えます。これが特養は安い、有料は高い、という差を生んでいます。
これは低所得者の方でも介護施設への入居を保障するシステムです。
しかし、それが近年崩れてきています。新規開設の「ユニット型タイプ」の特養だと、収入が多くまったく負担減免を受けられない人は、月々の費用が14,5万円かかることもめずらしくありません。
また介護保険の負担割合が一定所得以上の方は2割負担となっているため、負担は確実に上がっています。
年金収入や、資産を多く持っている人は、ユニット型特養と比較的安めの有料老人ホームとの金額差はほとんどありません。「食費、住宅費の軽減措置」が受けられない程度の収入のある方は、料金的な面からみれば特養にこだわる必要はないと言えるかもしれません。
老人ホームを選択する時は、自分の収入状況をしっかり見定めた上で選択する必要があります。老人ホームはとても高い「買い物」です。間違った選択をしないためにも専門的な知識や経験を持った人の協力が必要になります。信頼できる介護の専門家を自分で見つけることが、これからの時代には必要になってきているようです。